【高浜行人】今年度から中学校で武道が必修化され、都内でもさまざまな取り組みが始まった。少林寺拳法や相撲といった特色ある種目を選んで研究を重ねる学校がある一方、柔道を選んだ学校が全体の8割を占め、受け身を取ることを徹底するなど事故を防ぐための工夫を重ねている。
■独自の選択、教員ら研究
「冷たーい!」「うわ、寒い」
11月末、八王子市立加住小・中学校。体育館は空気も床も冷え込み、思わず声をあげながら中学2年生の男女27人が集まった。ジャージーに裸足だ。
今年1時間目の少林寺拳法の授業。道着を着た前田武彦教諭(45)が前に立つと全員が整列し、一礼。並んで突きや蹴りの練習をし、2人組で関節技「逆小手」にも挑戦した。
板垣楓さん(14)は「難しかったけど、自分でもできて自信になった。組み手がかっこよく決められるようになりたい」と声を弾ませた。1カ月ほどかけて10時間、技や型を学ぶ。
同校は小中一貫校に指定された3年前、「特色ある学校づくり」の一環として目玉となる新たな部活動の導入を目指した。学生の頃、拳法部に所属した前田教諭がいたこともあり、少林寺拳法部を創部した。
必修化に先立って昨年度から授業にも導入した。今年度は同部が全国大会にも出場。前田教諭は「畳などの道具が要らず、体格や力の差に関係なく、原理が分かれば誰でも楽しめる」とメリットを説明する。
必修となった武道の種目として、少林寺拳法を選択した学校は都内49市区では唯一だ。他にも、独自の工夫で周囲とは違った選択をした学校がある。
武蔵野市立第六中学校。必修化に備えて3年前に男子体育で相撲を導入し、今年度からは女子も含めて全員が学び始めた。
教員に経験者はいない。市内の他の中学校が選んだのは柔道や剣道だ。それでも、校内で議論した結果、相撲は「けがをしにくいし伝統文化も教えやすい」(田口康之校長)と判断したという。開始に向け、体育科の教員らが文部科学省の講習会に出向いたり、高校や大学の相撲部の指導者から直接聞いたりしてノウハウを学んだ。
2教室分ほどの広さのプレールームに、布製の「土俵」付きのマットを二つ置いた。ジャージーの上から着用できるまわしも80着購入。計数十万円かかったが、保護者の負担はなかった。1月には、3年生の1位を決める「最強場所」というイベントも開く。
1年生の谷山誠宏君(12)は「テレビで大相撲を見ていても右四つとかが分かるようになって楽しい。いろんな技を使えるようになりたい」と話す。
■8割は柔道、安全に力
都内では、どんな種目がどれくらい選択されているのだろうか。
記者は23区と26市の教育委員会に市区立中598校の指導計画を聞いてみた。その結果、8割以上の500校が学年、男女別のいずれかで柔道を選択していた。次いで剣道が127校。相撲は13校、少林寺拳法と合気道が各1校。柔道と剣道など複数種目を採り入れる学校もあった。
柔道が多い理由として、体育教諭に柔道経験者が多く指導がしやすいことや、コストが比較的安いことなどが挙がった。全8校で柔道の授業がある調布市教委は、道着など用具の調達しやすさから柔道を選ぶよう各校に要望した。
一方、柔道をめぐっては頭を打つなどして部活中に死亡する例のほか、授業中の事故でも脳脊髄(せき・ずい)液減少症を発症するなど事故が後を絶たず、安全への懸念は根強い。そのため各市区教委は安全対策に力を入れる。
21校が柔道を選んだ葛飾区教委は、体育教員を対象にした9月の研修で、立ち技をかける前に相手が受け身をとれるように声をかけることを徹底した。17校が柔道を採り入れている杉並区では、柔道部の元顧問や体育教員OBらが非常勤の「武道指導員」として授業を巡回するという。
■武道必修化
2006年に改正された教育基本法の教育目標に「伝統と文化の尊重」が盛り込まれたことを受け、今年4月から中学校の体育でダンスとともに男女とも必修になった。学校が柔道、剣道などから選び、年に10時間程度教える。2、3学期に1カ月間ほどで実施するケースがほとんどで、都内では10〜12月に授業が集中した。
■事故予防意識向上 けが対処法徹底を
学校スポーツの事故を分析している名古屋大大学院の内田良・准教授(教育社会学)の話 研修が充実し、現場の事故予防の意識は高まっているといえる。ただ、最も危険な頭部への外傷は注意していても起こりうる。生徒が頭の痛みを訴えた場合などは絶対にそれ以上運動させないことなど、対処法を教員や指導員らに徹底する必要がある。