柔道授業事故:中2、今も頭痛や吐き気 再発防止を願う
毎日新聞 2013年01月30日 11時02分(最終更新 01月30日 12時01分)
柔道の授業中の事故で頭を打ち「脳脊髄液減少症(のうせきずいえきげんしょうしょう)」と診断された川崎市の中学2年の男子生徒(14)が1年が過ぎた今も頭痛や吐き気、不眠などに苦しんでいる。中学校の体育授業で柔道などの武道が必修化される直前の事故だった。生徒を見守る家族は「同じような事故が起きないでほしい」と再発防止を願う。
「あの一瞬さえなければ」。生徒は自宅で淡々と語った。昨年1月、必修化(昨年4月)前の移行期の授業中だった。生徒同士が技を掛け合う「乱取り」で、体重で20キロ、身長で10センチ上回る相手に大外刈りをかけられ、背中と頭を打った。
むち打ちと診断されたが改善せず、同6月に脳神経外科で脳脊髄液減少症と判明、ブラッドパッチ治療を受けた。症状が重くて起き上がれず、登校できない日が今も多い。「ものごとに積極的に取り組まなければと分かっていてもやる気が出ず、自分がもどかしい」と生徒はうつむく。
ハンドボールの部活動に力を入れていた学校生活は一変した。母親(42)は「本人は、学校を休んでは『俺はダメ人間だ』と自分を責める。進学がどうなるのか、病気が完治するかどうか、悩みは尽きない」と話す。
母親は校長から「100%学校が悪かった。体格差への考慮が足りなかった」との説明を受けたという。川崎市教委によると、事故時は柔道初段の保健体育科の男性教諭が指導。市教委は事故後、受け身・投げの十分な技能習得ができない場合は乱取りをしない▽中学1、2年では大外刈りや小内刈りを行わない−−などの事故防止マニュアルを作った。
文部科学省によると、武道必修化で全国の中学校の約6割が柔道を選んだ。同様の事故がいつ、どこで起きてもおかしくない。母親は「安全に十分配慮して柔道の授業を進めてほしい。私たちのような悲しい思いをする家族が出ないように」と訴えている。【西嶋正信】
【ことば】脳脊髄液減少症
交通事故やスポーツでの転倒などで受けた衝撃で、脳と脊髄の周りにある脳脊髄液が漏れて起きる。ひどい頭痛や吐き気、めまいなどが症状。療法には、患者本人の血液を患部付近に注射し漏れを止める「ブラッドパッチ」がある。子どもは改善率が高く早期発見・治療が重要とされる。