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スポーツの自立を目指して Jリーグ20年/忠鉢信一(朝日新聞編集委員)

nippon.com 4月18日(木)23時26分配信

拡大がもたらす新たな課題

Jリーグ事務局は「Jリーグ入りを目指すクラブを全国で100に増やす」を目標に掲げ、2014年には3部にあたるJ3を10〜12クラブで発足させる。

Jリーグ参加クラブ数の拡大はサッカーの普及面ではプラスだが、クラブ間の経営競争は激しくなる。すでに現存クラブの経営規模の拡大には限界が見えており、競争の激化が共倒れを引き起こすことも危惧されている。クラブ経営が苦しくなれば競技力への投資も縮小され、ひいてはリーグの商品力にも影響する。

また地域密着という看板は全国規模・世界規模の大企業のスポンサーシップ獲得には邪魔になることがある。実際に、ある県のクラブのスポンサーになったという理由で、別の県での契約をすべて断られた企業があると聞く。世界規模の広報活動を展開する大企業にとって、企業のアイデンティティーとは無関係な一地域を拠点とするクラブへの支援は広報戦略上、無意味に近い。

変化し続けるJリーグ

「地域密着」をJリーグの存在目的としてしまうと、Jリーグの抱える問題の答えを求める議論は迷路に入り込んでしまう。そもそも地域にはそれぞれの事情がある。各クラブの経営上の思惑も多様だ。地域密着にこだわらず、経営基盤を全国的に拡大しなければ、クラブを運営する予算を捻出できなくなるクラブも出てくるだろう。

Jリーグはその理念を守り、さらに地域密着のイメージを保ちながらも、時代とリーグ自体の変化に伴う新たな活動方針を打ち出す時期に来ている。キーワードは「多様さ」だと私は思う。

またJリーグの活動方針には、サッカーに似たフットサルの普及が挙げられているが、女子サッカーへの言及がない。日本女子代表は2011年のワールドカップで優勝したものの、女子サッカーの選手育成や普及活動は充実してはいない。サッカー関係者にはよく知られた問題だ。

かつてのバレーボール以上に、Jリーグは女性のスポーツ参加や女子スポーツのステータス向上に最適なプラットホームを提供できる可能性を秘めている。活動方針に女子サッカーの強化・普及を追加すべきだ。女子サッカーを活動方針に加えることはJリーグの目的である「理念」にかない、地域の多様な人々と結びつこうとするJリーグの意思を具現化する活動にもつながる。

Jリーグは日本のスポーツ界に大きな変化を引き起こした。変化を起こせば新しい問題が起こる。新たな問題への答えを求め、変化し続けるのがJリーグの宿命である。

(2013年4月8日 記)

【著者】
忠鉢信一(ちゅうばち・しんいち)
朝日新聞編集委員(スポーツ担当)。1969年生まれ。筑波大学卒業。1993年朝日新聞入社。著書に『ケニア! 彼らはなぜ速いのか』(文芸春秋/2008年)、『進化する日本サッカー』(集英社/2001年)。ツイッター(http://twitter.com/michiamochu)でも積極的に発言。

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最終更新:4月18日(木)23時26分

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