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スポーツの自立を目指して Jリーグ20年/忠鉢信一(朝日新聞編集委員)

nippon.com 4月18日(木)23時26分配信

社会人・学生の区別なし

プロとアマ、社会人と学生といった社会的身分による境界線が歴然していた日本スポーツ界の常識も、Jリーグは変えつつある。Jリーグのクラブと契約を結んだ高校生や大学生が、学校に通いながらプロ選手として活躍する例は珍しくない。

Jリーグの選手移籍制度も当初は雇用側(クラブ)に有利な制約があったが、現在はクラブと選手がほぼ対等となり、選手が自身の競技力を元手により大きな報酬を求め、ときには国境を越えてクラブを渡り歩く。

この変化を雇用側に不利とするのは近視眼的だ。選手個人の競技力向上の努力は、選手の集まりであるチームの競技力を商品とする雇用側にもメリットがある。さらに移籍金はクラブに経済的な恩恵もたらす。長期的な視野に立てば、移籍の自由度が大きくなった現在の移籍制度は選手とクラブの両者の利益を大きくする仕組みだと気づく。

Jリーグが加盟クラブに、次世代のプロ選手育成を目的とする年代別チームの保有を義務づけていることも重要なポイントだ。ヨーロッパや南米の先例をまねたにすぎないのだが、選手の育成は各クラブが競技力という商品を磨き、経営を自立させるのに重要な役割を担っている。

地域密着の成功と限界

Jリーグのここまでの成功の理由のひとつは「地域密着」だ。

かつてサッカー選手の育成は、中学・高校の部活動や有志による地域の小さなクラブが支えていた。Jリーグ発足に伴い大資本を背景とするプロ組織が選手育成に乗り出した際に、既存の小規模クラブや学校の指導者からの反発を最小限に抑えられたのは、「地域の子どもたちのため」という大義があったからだった。企業や自治体によるJリーグへの後押しも、地域貢献という共通の目標を見いだせたからこそ可能となった。

これまで、いくつかのクラブの経営危機を救ったのも、比較的小規模なクラブがプロとして存続していられるのも、地域密着というJリーグ発足時からの方針のおかげだ。

この地域密着こそが「Jリーグの理念」であり、その成功を支えている、と考える人も多い。だがそれは違う。

Jリーグの理念は「サッカーの強化・育成・普及」、「スポーツ文化の振興と国民の健康」、「国際交流」への貢献にある。

これら3つの理念の実現方法として掲げられた6つの「活動方針」が、地域密着という思想で貫かれている。つまり「地域密着」は目的ではなく方法だ。この視点を持たなければJリーグの今後の課題と、回答を導き出すことはできない。

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最終更新:4月18日(木)23時26分

nippon.com

 

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