ざっくり言うと…
・報道に「データ」を活用する取り組みが始まっている。
・記事のなかに「アプリ」が埋め込まれるイメージ。これはコンテンツの差別化になる。
・ただし、データジャーナリズム的なコンテンツの制作には、記者のデジタルへの理解、エンジニアの協力が必要不可欠。
・日本のオールドメディアは伝統的にエンジニアの地位が低い。組織改編をする必要があるため、迅速な対応はできないだろう。
・そのタイムラグを突いて、新興のメディアが台頭する予感。
うーん、知りませんでした。データジャーナリズムってヤバいですね。
データジャーナリズムは日本のオールドメディアを殺す
なんだかんだで数年来のお付き合いをさせている、某通信社に在籍するデータジャーナリズムの権威、赤倉さんのお話を伺ってきました。データジャーナリズムの関心は着々と高まっており、最近は講師としての仕事も増えているそうで。1時間ほど、最新のデータジャーナリズムの動向や、日本の問題点を伺ってきました。
というわけで、ぼくなりに「データジャーナリズム」がすごい3つのポイントをまとめてみました。何より、これは既存の報道機関、いわゆるオールドメディアにとっての驚異となるはずです。
データはコンテンツの差別化になる
データジャーナリズムの一例としては、「銃所持者の可視化」なんてものがあります。
ご存知の通り、アメリカは銃社会で、多くの一般人が銃を所持しています。従来的なジャーナリズムですと、銃所持者や専門家を取材し「これがアメリカの銃社会の現状です」的な記事を制作するわけですが、データジャーナリズムはここからが違います。
なんと、公開されている銃所持者のデータをGoogleマップに可視化し、「あなたの近所にはこれだけの銃所持者がいますよ」ということも伝えてしまうのです!(参考)
従来的なジャーナリズムの手法では、テキスト+画像というフォーマットが一般的でした。しかし、データジャーナリズムにおいては、テキストと画像に加えて「データを活用したアプリケーション」が入り込んでくるわけです。
従来のジャーナリズム:テキスト+画像
データジャーナリズム:テキスト+画像+アプリ
これは何よりもまず、コンテンツの差別化になります。同じ銃社会についての報道があったとき、データを活用したアプリを同時に提供した方が、間違いなく記事はよく読まれ、読者のアテンションを獲得できます。データによって「当事者性」を強化できる、といってもいいかもしれません。
コンテンツ制作の世界は、プロとアマの境目が不明瞭です。プロのライターよりも、アマチュアのブロガーが書いた記事の方が面白い、ということは往々にしてあります。
お分かりの通り、データの活用というのは、かなり高度な技術です。データジャーナリズムは、プロとアマの境目をもう一度引きなおす、新しい地平となるでしょう。これからはデータをうまく活用し、コンテンツを生産できるメディア運営者が「プロ」としての地位を得やすくなるのです。
日本のオールドメディアは迅速に対応できない
日本のオールドメディアはデジタルへの強い嫌悪感がありますので、なかなかデータの活用という観点は、浸透しそうにありません。
いやいやそんなことないだろ、例外もあるだろ、と仰りたい気持ちは分かりますが、現場レベルにおいてはほとんど理解がないのが現実だそうです。唯一、某新聞社はトップがデジタルに強いらしく、少しは期待ができるかもしれない、とのこと。
旧来的な報道を扱ってきた会社は、カルチャーとしてエンジニアを重要視しない傾向があります。エンジニアは「裏方」であって、コンテンツの制作に口を挟める立場ではない、というわけです。
データジャーナリズムにおいては、エンジニアが前面に出ます。データが先にあって、それを補強するために取材をする、ということすら起こりえるでしょう(「このデータすごい面白いから、こういう記事をつくろうと思う。記者さん、取材に行ってきてください」)。エンジニアと記者の立場が対等になる、いや、「逆転」してもおかしくありません。
実際、先進的なメディア企業では、コンテンツ制作にエンジニアがコミットする体制を敷きはじめているようです。旧来的な報道で一応食べることができている日本のオールドメディアが、こうしたドラスティックな改革を行えるかというと、なかなか厳しいのではないかと予想します。
ちょうど赤倉さんがすばらしい実例をツイートしていました。こういう記事を、大手新聞社が作れるのか、ということですね。ぼくには正直イメージができません。
低所得者が多いブロンクス地区で際立っていた裁判の遅延と法廷の腐敗を暴いたNYタイムズのスクープは、緻密な取材、データ分析、グラフィックやアニメーションを活用した可視化など、「ウェブ時代の報道要素」が組み合わされている。 nytimes.com/2013/04/14/nyr…
— Yuzo Akakuraさん (@YuzoAkakura) 2013年4月18日
こんなグラフや、インタラクティブな動画(アプリ)が挟まってます。明らかに、データを分析してコンテンツ化する要員がいらっしゃいますよねこれ。
新興メディアのチャンス
オールドメディアの対応が遅れるということは、新興メディアにチャンスがあるということでもあります。
来月はハフィントンポスト日本版が控えてますし、あの堀江さんもメディアビジネスに関心があると語っています。元NHKの堀潤さんの一手も楽しみです。Yahoo!もビッグデータ活用に力を入れています。さらにさらに、足下では、実に革新的な「LINEニュース」が勢力拡大中です。
関連記事:LINEニュースの「ざっくり言うと」に見るコンテンツの未来
これから業界をぶち壊すのは、データをフル活用できる組織体制をもった報道機関になるでしょう。
オープンデータに常にアンテナを張り、コンテンツの切り口を見つけ、エンジニア・ライター・編集者が力を合わせてコンテンツを制作する、という未来的なスタイルを持つ企業です。ここは大きな可能性があります。
もちろん、日本ではまだオープンデータの動きが進んでいないので、現実的にはデータジャーナリズムにも限界が課せられます。ただ、こちらも着々と火が燃え広がっているので、時間の問題でしょう。燃えろよ燃えろ。
データジャーナリズムの最新動向は、赤倉さんのアカウントが超詳しいので購読をおすすめ。報道の未来に関心があるなら、彼のことばを聞くべきです。マジで日本で一番詳しいと思われます。いやー、ぼくももっと勉強しないと…。
Yuzo Akakura (YuzoAkakura)さんはTwitterを使っています
赤倉さんの取材記事もあわせて。このチームビルディングが、オールドメディアにとって大きなボトルネックになりそう。
大事なのは「チームを作る」ということです。データを集め、分析し、可視化するにはデザインやプログラミングなど、さまざまなスキルが必要となりますが、これを一人で行うのはスーパーマンでもない限り不可能でしょう。ジャーナリスト、エンジニア、アナリスト、デザイナーなど、多くの人材がチームを組んで進めていくのが王道だと考えています。