中国よ「河川覇権」も握るのか 国際河川に相次ぐ巨大ダム
産経新聞 4月19日(金)11時6分配信
南アフリカで先頃開かれた新興5カ国(BRICS)首脳会議の場で中国の習近平国家主席とインドのシン首相が会談した折のことだ。首相がチベット問題で中国の立場を支持したなどとの中国側説明に、インド側は「承知していない」と反論したという。
インド外務省公式サイトによれば、逆に、シン首相は帰国時の機中会見で、「国境間の河川水系の問題を提起」し、「チベット自治区で進行中の建設活動」についてインドも判断できる仕組みを中国に求めたと述べている。
それはそうだろう。インドを経てバングラデシュへ流れるブラマプトラ川の源流の地チベットで、中国が複数の巨大ダム建設に乗り出したものだから、水量が上手の中国にいいようにされて下手で減るという不安がインドで強まっている。同国首相として一言なからずんば、の状況である。
やはりチベット高原に源を発し雲南省を南下してミャンマー、ラオス、タイ、カンボジア、ベトナムを流域とする東南アジア最大の国際河川メコン川でも然りだ。中国は国内上流域でいくつも巨大ダム建設を進め、下流諸国は水量、漁獲高の減少、生態系への影響などの懸念を高めている。
中国はここでは、国内への送電と交換に3カ国のダム建設を援助し地域の開発にも相乗りして、協調的態度もみせてはいる。だが、ラオス、タイ、カンボジア、ベトナムが流域の水資源利用・開発・保全で協力する、「メコン川委員会」(MRC)に正式加盟する気はさらさらないようだ。
中国は元来、水が豊かな南部、乏しい北部という南北格差を国内に抱え、それが経済の急成長で拡大している。このため、南から北に水を送り込む「南水北調」という壮大な事業を揚子江や黄河など国内河川で進めている。
チベットなど少数民族地を吸収した結果、前掲のように最上流国に位置するものも含め、19の国際河川が国内を通過する特異な国でもある。「南水北調」が国際河川に広がればどうなるか。
問題は、国際河川では上流国が下流国への影響に関わらず領土内の行動の自由を有するとした「ハーモン・ドクトリン」を振り回すような、中国の姿勢にある。国際河川の「公平かつ合理的な使用」を謳う条約が1997年の国連総会で採択された際も、19世紀末にハーモン米司法長官が唱えたこの理論を盾に、反対票を投じた3カ国の一つになっている。
ブラマ・チェラニー・インド政策研究センター教授は、2月7日付米紙ニューヨーク・タイムズへの寄稿「中国の水力覇権」で、中国が「今や国境越しの水流に対する不均衡な支配を確立してアジアの水道の蛇口を手にしようとしている」と警告している。
幸い、島国日本に国際河川はない。だが、「河川覇権」追求も、世界の資源を囲い込み、南シナ海の大半を自国領海と見なし、日本固有の領土、尖閣諸島(沖縄県石垣市)の奪取を試みることと同様、その根源には、経済、軍事大国化とともに一段と顕在化してきた中華思想的なものがあるようにもみえる。対岸の火事と捉えてはなるまい。(論説副委員長 西田令一)
最終更新:4月19日(金)11時6分