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「カネミ油症は原爆、水俣病に匹敵する人類初めての経験」。今月10日、油症新認定訴訟の証人尋問を控え、熊本学園大教授の原田正純(75)は、北九州弁護士会館で原告らに語った。 原告には、悔しい思いがある。原田が言うように空前の被害にもかかわらず、訴訟期間を短縮するため被告をカネミ倉庫に絞り、カネカ、国を訴えなかったからだ。カネカはポリ塩化ビフェニール(PCB)を食品会社カネミ倉庫に販売し食用油混入につながった。国は、先に発覚した同社製ダーク油による鶏大量死事件を油症拡大防止に生かさず、放置した。特に原告のカネカへの憤りは強い。 政権交代後、油症救済法案の通常国会成立への期待は高まっているが、カネカが今後、救済問題にかかわることはないのか。長崎新聞社への同社回答書に救済に関する答えはなかった。 原告側弁護団の保田行雄(58)は「救済法で患者に一時金や特別遺族給付金などを支給する基金がつくられるなら、カネカにも拠出させる線はある。PCB廃棄物処理で多額を国が負担している現実を考えれば、PCBでもうけ尽くした後処理としてカネカがすべきことはある」と指摘。国のカネカへの対応が鍵とみる。
多くの患者はそれぞれ、症状緩和の手法を探し求めている。宿輪は、EM菌入り飲料水などで体調維持。同会長の矢口哲雄(85)は、野菜汁を飲んだり吸い玉療法で毒素排出を試みている。研究分野では九州大大学院准教授の長山淳哉(61)が、玄米発酵食品「ハイ・ゲンキ」に油症の主因ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)の体外排出効果があることを今年発表した。 PCBが国内製造されて50年以上。カネミ油症被害者支援センター事務局長の藤原寿和(63)によると、PCBは食物連鎖などで一般人にも蓄積されつつあるという。そうであるなら、化学物質排出の試みや油症研究は、油症以外の人にも有益な取り組みとなる。 「いつか私たちのつらい経験が医学に生かされ、油症が治る日が来る。そして国民の健康に役立つ日も。その希望をしっかり抱いて、私たちは救済を求め続ける」。宿輪は決意を込めて語った。(文中敬称略)
2009年12月13日長崎新聞掲載
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