Jは東南アジア人気のコンテンツになれる

金子 達仁 | スポーツライター/FC琉球スーパーバイザー

JFL第6節が行われた4月13日、気持ちよく晴れた沖縄県総合運動公園陸上競技場では、ちょっとした“事件”が起きていた。

日本で行われた、日本のチーム同士の試合だったにもかかわらず、日本人の取材陣は少数派だったのである。

多数派を占めたのは、マレーシア人だった。

3月下旬、FC琉球は2人のマレーシア人選手を獲得していた。この日は、そのうちの1人、すでにA代表でもプレーしているアタッカー、ワンザック・ハイカルという選手のデビューが予定されていた。マレーシア・サッカー史上初めて日本のプロチームでプレーする選手が誕生する瞬間を報じるべく、国営放送を含むテレビ4社、新聞5社、計9社16人の取材陣が沖縄まで乗り込んできていたのである。

日本の選手が海外への移籍を果たすたび、日本のメディアは彼らを追っかけて海を渡った。決して少なくない数のファンも、同じ行動を取った。だが、海外の選手が日本への移籍を果たし、海外のメディアが大挙して来日したことが、かつてあっただろうか。日本の新聞では片隅に小さく結果が報じられただけだった3部リーグの試合が、マレーシアでは大々的に取り上げられたのである。

ここ数年、Jリーグは積極的に東南アジア市場の発掘に取り組んできた。いま、いくつかの国ではテレビでJリーグが放送されるようにもなった。

前進ではある。だが、Jリーグの持つコンテンツとしての魅力は、必ずしも高いとは言えない。当然である。日本人でもないのに、なぜイングランドやスペイン、CLではなくJリーグを選ぶ?わたしがタイ人ならば、マレーシア人ならば、選ぶはずがない。

だが、自国の選手がプレーしているとなれば話は別だ。ロシア・リーグは決して魅力溢(あふ)れるリーグではないが、本田がいるがゆえにチャンネルを合わせる日本人は間違いなくいる。

同じことが、東南アジアでは起こりうる。

このエリアでは、時差の関係で欧州の試合がオンエアされるのは深夜であることが多い。さらに、自国のリーグは夕刻から夜にかけて。昼の時間にキックオフされる日本の試合は、東南アジアのテレビ局にとって「欠けたピース」を埋めるコンテンツになりうるという声も聞いた。

Jでプレーする東南アジアの選手が生まれてくれば。

獲得する側の担当者からすれば、懸念されるのは選手のレベルだろうが、ガンバ大阪のあとタイなどでプレーし、今回、琉球の選手獲得に全面的に関わってくれた木場昌雄さんは「大丈夫どころか、J1のトップクラスでやれる選手だってたくさんいます」と太鼓判を押す。わたしも、まったく同感である。

ちなみに、FC琉球の公式フェイスブックの「いいね」は、マレーシア人選手の獲得以降急上昇し、今週初めには4000人を超えた。コメントの中では「ユニホームはどこで買えるのか」という英語、マレー語による質問が目立っている。

(2013年4月18日付「スポーツニッポン」に掲載)

金子 達仁

スポーツライター/FC琉球スーパーバイザー

1966年1月生まれ。神奈川県横浜市出身。法政大学社会学部を卒業後、日本スポーツ企画出版社編集部勤務を経て、95年にフリーに。現在はノンフィクション作家、ラジオパーソナリティ、サッカー解説、FC琉球スーパーバイザーなど多方面で活動している。趣味は自動車、日本酒、阪神、ヘビーメタル、漫画、麻雀、旅行、料理、育児、読書など幅広い。主な著書は「決戦前夜」、「28年目のハーフタイム」、「秋天の陽炎」、「泣き虫」など。

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