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間違えないでね

エリザベスがいなくなってさみしい?」

 玄関前で、エリザベスの行ったほうを見ていると、そうアンジェラが聞いてきた。

「ちょっとね。一人だったら死にそうな気分になってたかも」OB蛋白痩身素(3代)

 そしてすぐ側に立っているサティの顔をみて笑いかける。うん、サティがいるからね。

「アンジェラこそずいぶん心配してたじゃないか。喧嘩ばかりしてたから仲が悪いのかと思ってたよ」

「別に嫌いじゃないのよ。ちょっと突っかかってくるから言い返してるだけ」

 そういうものか。それにしても最後のあれ。やっぱりそういうことなんだろうか。ファーストキスって言ってたし。でも異文化だし、どの程度の意味があるのか。恋愛感なんかは話してるとそう違いはないと思ったが、キスがどうのこうのってのは話に出たことがない。

 サティとティリカちゃんは朝食の後片付けに先に中にはいった。ちょっと聞いてみるか?

「こんなこと聞いていいのか、よくわからないんだけど。ほら、おれって遠くの国の出身だろ?風習って色々あるし、エリザベスがその、最後に……」

「キス?」

 ほんの一瞬だったし、死角で見えなかったかもって思ってたがばっちり見られてたか。

「そう。あれってどの程度の好意でするものなんだろうか。うちのほうじゃかなり好きじゃないとしないんだけど、こっちは気軽にするものなのか?」

 ファーストキスとは言ってたけど、イタリア人みたいに挨拶かわりにチューチューする国もあるし。いやあれは頬だっけ?

「気軽になんかしないわよ。エリーはちゃんとマサルのこと好きだよ。わかってあげないとかわいそうじゃない」

 この前も冗談とか言ってたし、軽い気持ちでするのかと思ったけど、日本とそんなに変わらないんだな。てことはあれ?冗談って言ったのも……

「うん、ごめん。好意を持ってくれてるのはわかってたんだけど、友達としてとか弟子としてとかかもしれないしって」

「そうね。あの子ちょっと素直じゃないところもあるしね」

「昔ね、ちょっといい雰囲気になった子に告白したことがあったんだ。でも結果は惨敗でね。友達として好きだけど、そういうことじゃないって。そのあとはぎくしゃくしちゃって疎遠になっちゃってさ。それが2回もあったんだ……」

 好意を寄せてくれるそぶりがあっても、それが友情なのか、ただの愛想なのか。それとも本当に愛情なのか。よくわからない。

「そう……」

「それからそういうの怖くなっちゃって」

「安心しなさい。エリーもサティもちゃんとマサルのことが好きだから」

 サティは誤解のしようもないけど、まさかエリザベスがな……

「わたしも」

「ん?」

「マサルを好きだから。間違えないでね」

 そういうとおれを置いて、アンジェラはさっさと家に入っていった。





 しばらく気持ちを落ち着かせてから家に入ると、アンジェラがまた後で来ると言って入れ違いに出て行った。ちょっと顔をあわすのは恥ずかしかったからありがたい。

「じゃあ準備してティリカちゃんをギルドに送っていくか」

「はい」

 まずティリカちゃんを送って、サティを訓練場に預けて。野ウサギの肉がなくなっちゃったから、草原で狩り。それと薪用の木を切る。今日の予定はこんなもんか。アンジェラのことは後でゆっくり考えよう。ちょっと混乱してる。



 ギルドに着き、ティリカちゃんを副ギルド長のところに連れて行く。

「いやー、毎日すまんなあ。何かお礼でもしたいところだが、なにか希望はあるか?またあの酒もってきてやろうか。知り合いの蔵で作ってるやつでな。なかなか手に入らんのだよ」強効痩

 ドレウィンはギルドでは上司部下ではあるが、家族のいないティリカちゃんの保護者代わりでもある。

「ああ、それはいいですね。あのお酒美味しかったですよ。でもそんなに気にしないでも。サティは喜んでますし、ティリカちゃんそんなに食べないですしね」

 大食いのサティに比べてティリカちゃんの食べる量は普通だ。

「それにギルドには世話になってますから」

 実際、訓練場で無料で鍛えてくれるのはとてもありがたい。

「そうかそうか。まあ酒は今度もらってきてやるよ」

「はい。サティ、訓練場に行くぞ」

「はい、マサル様。ティリカちゃんまたね」

「ばいばい。おねーちゃん」



 訓練場に行くとサムソンさんは若い冒険者の相手をしていた。声をかけるとそいつを置いて、すぐにこちらに来た。

「よくきたな。今日もたっぷり鍛えてやろう」

「はい。教官どの!」

「あの。あっちはほっておいていいんですか?放置されてどうしていいかわからないって顔してますよ」

 教官の数は限られているので指導は基本先着順だ。誰もあいてなければ自主練習でもして待つことになる。

「やつは一人前の冒険者だ。半人前のサティちゃんを鍛えるほうが大事に決まってる!だがそうだな。マサル、おまえ相手をしてやれ」

「少しだけですよ。このあと用事もあるんですから」

「おい貴様。こいつに相手をしてもらえ」と、冒険者のほうに押し出される。

 木剣を取り、冒険者の前へ行く。先ほどサムソンさんとやっているのを見た感じでは、クルックと同程度か少し強いくらいだろうか。相手をするのに問題はなさそうだ。

「ではお相手します」と、構える。

 この世界の冒険者はみな背が高いし、体格がいい。じゃあみんなそうなのかと言うとそうでもない。そこらへんを歩いている人や、店で働いてる人なんかは小さい人も普通にいる。きっと体格もよくて運動が得意なやつが冒険者になるんだろう。

「おいチビ、お前あの子の連れか?横入りしやがって。どうせならあの子を連れてこい。おれがたっぷりと可愛がってやるよ」

こいつも結構でかい。160cmのおれと比べて頭一つ高いし、体格もいい。背も小さく、体も細いおれじゃタックル一つで吹き飛びそうに見えるだろう。ずいぶん馬鹿にしたような口調だ。

 だがちょっとむかっと来たぞ。おれがチビなのは本当だが、サティに目をつけたのは許せない。横入りも別にこっちが無理してやったわけじゃない。教育的指導が必要だな。

「まあまあ。回復魔法も使えますから、本気でかかってきてもいいですよ。それともチビが怖いですか?」

「なあにおぉ。くそチビ、逃げるなよ。ぼっこぼこにしてやるよ!」

 あ、やべ。ちょっと怖い。暁のオルバさんやラザードさんに比べたら全然迫力にかけるから余裕こいてたら、やっぱり怖いわ。そう言えばクルックや教官とかを除いて、他の人とやるの初めてだっけ。

 おれがちょっとびびったのが分かったのだろう。ニヤニヤしながら近づいてくる。

 そいつが上段に振りかぶり打ちかかってくる。それを盾で受け、カウンターで軽く胴を打ってやる。防具の上からだが、少しは痛いだろう。

 よし、やっぱりそれほど強くないぞ。怖がって損した。

 一本いれられて怒ったのだろう。顔を真っ赤にして襲い掛かってくる。

 だが、頭に血がのぼって動きが雑になっている。相手の攻撃を受け流しながら、ほらほら足元がお留守ですよ?と蹴りを足にいれてすっころばせてやった。

「ジェンド!冷静に動きを見ろ。マサルはもっと本気でやれ!」美諾荷葉纖姿

 遊んでたらサムソンさんから指導が入った。ジェンドと呼ばれた冒険者も立ち上がり今度は慎重に距離を取っている。

 本気か。寸止めなんて器用な真似はできないが、木剣だし、防具も着てるからそう酷いことにはならないだろう。教官達は本気でやっても余裕で相手をしてくるし、クルック達とはどこか手加減をしていた。日本では喧嘩なんかしたことがない。相手を怪我させるのが怖いし、静かに殺気を向けてくるこいつはもっと怖い。だがこれは訓練だ。それにサティにちょっかいを出そうとしたこいつにお仕置きも必要だ。やるしかない。

 ジェンドはカウンターでやられたので今度は待ちの作戦のようだ。だからこちらから打ち込んでやる。1合、2合、3合。うわ、こいつ思ったより強いぞ!?クルックと同程度とかとんでもない。

 だが小兵のおれを非力と侮ったのだろう。相手の木剣を盾で力任せに打ち払い、側頭部に容赦なく剣を打ち込む。ヘルムの上からだったが、どっと地面に倒れうめいた。

 やばい、頭にまともにいれちまった!?【ヒール】【ヒール】

「おい、大丈夫か?」

 ジェンドは頭を振って立ち上がった。

「くっそ。もう一本だ!」

 すごい目で睨みつけてくる。そんなに睨まれると怖ええよ。やるんじゃなかった。一発いれて倒してスッとしたし、もうやりたくなかったがこいつはやる気まんまんだ。

「ああ、だがこのあと用事がある。あと一回だけな」と、平静を装って告げた。



 少しヒヤッとする場面もあったが、3発ほどいいのを入れるとジェンドは倒れた。倒れてゲホッゲホッと咳き込んでいる。最後の胴でアバラが折れたかもしれない。

「ほら、いま回復してやるから【ヒール】【ヒール】」

 ヒールをかけてようやく呼吸も落ち着いてきたようだ。

「すまない。マサルと言ったか。おまえ強いな。チビって馬鹿にして悪かったよ」

「いや、こっちこそ教官取っちゃって。お互い様ってことで」

 ちょっと心が痛む。おれの強さは所詮チートスキルの借り物だ。この人はきっと血の滲むような努力をしてきたんだろう。おれの本来の強さなど、クルックどころかサティにすら勝てないかもしれない。強いって言われるとほんとに申し訳ない気分になる。

「そうか。また今度相手をしてくれないか?」

 なんだ。普通に話せばいい感じの人だな。顔は怖いけど。

「ああ。機会があればな。じゃあおれはそろそろ行かないと」

 サティに声をかけて訓練場をあとにする。さて、このあとは草原に行くんだが、少し寄るところがある。

 おれはまた奴隷商に来ている。今度は普通に扉をくぐる。前と同じ禿の人が出迎えてくれた。そういえば名前すら聞いてないな。

「おや。お兄さん。あの子はうまくやってますか?もしかして返品とかじゃ……」

「いえいえ。よく働いてくれますよ。今日は別の件でして」

「そうですか。よく働いてくれますか。そいつはよかった」

 きっと変な想像をしてるのだろう。だが面倒くさかったのでそのままにしておく。

「じゃあまたお買い上げに?新しい子が入ってますよ」

「あ、いえいえ。この前の一番右の年上のおねーさんいましたよね。あの子まだ残ってますか?」

 もし残っていたら買い取ってもいいかもしれない。お金はあるし。数字減肥

 正直ここに来るのもずいぶん迷ったのだ。だがサティと話してるとちょくちょくおねーさんの話が出てくる。ずいぶん面倒を見てもらったらしい。

「また会いたい?」と聞くとサティは首を振った。

「もし誰かに買われたらわたしのことは忘れてご主人様にしっかりご奉仕しないさい、わたしもそうするからって。だからいいんです」

 そうか。おねーさん男前だな。でもサティ、ちょっとうるうるしている。やっぱり会いたいんだろうな。


「あー、あの子ね。ちょっと前に売れちゃって」

 しまった。もっと早くに来るべきだったか。でもお金が入ったの2日前だし、エリザベスがいるとついてくるって言いだしかねなかったんだよな。

「そうですか。どこに売られたんですかね」

「それはお客様の個人情報になりますのでちょっと」

「ああ、いやいや。うちの子がね。仲がよかったみたいなんですよ。それでどうしてるかって心配してて」

「そういうことでしたら。どこの方かは教えられませんが、さるお金持ちにメイドとして買われましてね。その方の悪い評判は聞いたことはありませんから、よくしてもらってると思いますよ」

「そうですか」

 うん、それを聞いたらサティも喜ぶだろう。

「あー、あとですね。一番高かった子。あの子は……」

「あの子も売れちまいまして」

 むう。ちょっと残念だな。まあ買い取るお金も足りないんだけど。

「今日も見ていきますか?準備してきますよ」

「あ、いいですいいです。このあと用事があって。教えてくれてありがとうございました。では!」

 そう言って店を後にした。危ない危ない。迂闊に見たりしたらまた買ってしまうかもしれない。

 おれは子猫がいたら拾って帰ってきちゃうタイプなんだよ……玉露嬌 Virgin Vapour

切望

少しだけ、腹部が張ってきた。
外から見ただけでは妊娠していない時とあまり変わらないが、腹に触れてみると少しだけ大きくなっているのが分かる。
自分の体内で胎児はスクスクと育っているようだ。三便宝

「早く生まれてきて。」

(私の可愛い赤ちゃん


寿は嬉しそうに腹を撫でる。
そんな寿を見ていて、神奈は安堵の息を吐いた。
王城に着いたばかりの時は、状況を受け入れられず茫然としていた寿だったが、最近は落ち着いて来ている。
腹の子が心の支えになっているのだろう。
我が子が順調に育っていることが寿にとって救いなのだ。
ここに来て三ヶ月が過ぎた。


「神奈、お願いがあるの。」

寿は神奈に近づき、目の前に座った。
何やら言いづらそうな様子だったが、神奈の目を見て気持ちを固め、口を開いた。

「陛下にお会いしたいの。」

寿の発言を聞き、神奈は目をパチクリさせる。
寿の口からそんなことを聞くとは思わなかったのだ。
寿自身迷っているようで、その瞳の奥で不安が揺れている。
この三ヶ月で王に会ったのは、廊下ですれ違ったあの時だけだ。
寿の口から王の話が出たのは本当に久しぶりだ。

「陛下に…?」
「えぇ。お会いして話さなければならないことがあって。」

そう思いながら踏み切れなくてかなり時間が過ぎてしまったけれど…と寿は俯く。
腹の子が大きくなる度に、喜びと不安で一杯になる。
この子を我が子として育てられるのだろうかと。
寿にとって腹の子は生きる支えだ。それを奪われたら…不安で仕方ない。
王の元へ行って、どうするつもりなのかを確かめなくてはならない。
神奈は大きく頷いて見せた。

「対馬様に取り次ぎを願い出てみます。」
「お願いね。」



翌日の夜、対馬が寿の部屋に現れた。
王に会いたいという旨を改めて伝えると、今から王の居室に連れて行ってくれるという。
いつもなら数名の侍女を連れて部屋を出なければならないが、対馬が一緒であるので身一つで部屋の外に出ていいらしい。
心配そうな神奈に「大丈夫だから」と笑い、留守を頼んで部屋を出た。

対馬に導かれながら歩き進む。
あまり人とすれ違うことがないのは、夜だからであるのと、ここが城の奥…つまり王の私的な空間であり臣下達が来ない場所だからである。
王やその妻妾が暮らす場所なのだが、現在は王と寿しかいない。
空室ばかりだ。
王太后は王妃だった時の部屋を出て、離れた場所で暮らしているらしい。
対馬は寿の体を案じゆっくり歩いてくれる。
最近知ったことなのだが、対馬は現在城に住んではいるが城下に妻子がいるらしいのだ。
もうすぐ四十になるというが、見た目は年齢より若く見える。
王の私室に着き、対馬が外から部屋の中に声をかける。
だが返事がない。どうやら部屋にはいないようだ。
今日の公務は既に終了しているので、執務室に居る筈はないし…と対馬は首を捻る。

「もしや…、」

何か心当たりを思いついたようである。
対馬が寿を振り返った。

「恐らく…あの場所かと。
寿様、私が探して参りますのでどうぞこちらでお待ち下さい。」
「対馬様、私もご一緒させて下さい。」

王を待つより、いるであろう場所にこちらから出向いた方がいいかもしれないと思いそう言った。
対馬は少し考えてから頷いた。巨人倍増


「陛下はいつもお忙しいのですか?」

城内を歩きながら対馬に尋ねる。

「えぇ。毎朝軽く体を動かされた後から夜までご公務に勤しまれています。
…働き過ぎだといつも申し上げているのですが。」

対馬は苦笑する。
王にとって、仕事は趣味と言っても過言ではないのだと言い切る。
宴も茶会も必要最低限しか行わず、ただただ仕事漬けの毎日なのだと。

「あの方は生まれながらにして国王となる宿命でございました。
勉学も武芸も人並み以上に出来た事で周囲は期待を寄せ続けました。
それが幸か不幸か…今でも分かりません。」

対馬は立ち止まり、天に浮かぶ月を見上げる。
何処か更に遠い所を見ているように寿には見えた。
対馬は我に返り「失礼しました。参りましょう。」と言って歩き始めた。
寿はその後を追う。
だが何故か対馬の言葉が気になった。

(幸か不幸か分からない?どういう意味なのかしら。)

暫く歩き進むと、城の庭で的を目掛けて弓を引く王の姿を見つけた。
暗闇でもその美しい立ち姿は寿の目にはっきりと飛び込んで来た。
キリキリと音を立て矢を引いている。

寿は対馬に指示されたように、渡り廊下に座り待つことにした。
王はまだ寿に気づいていないようで、的を射抜くことに集中している。
ビュッと放たれた矢は的の中央を居抜いた。
それだけでなく、威力があった所為か的ごと後ろに倒れてしまった。

(凄い…、)

王が武芸が得意だというのは本当らしい。
的が使い物にならなくなってしまったので、これ以上鍛錬出来ないと判断したのか、対馬に渡された手ぬぐいで汗を拭き弓を預けた。
そして城の中に向かおうと振り返る。
座っている寿を見て一瞬驚いた顔をした。
対馬がなにやら耳元で囁いている。
王はそれに小さく頷き、寿の方に向かって来る。
寿が床に手をつこうとしたのを手で制し、その少し離れた所に腰を下ろした。
寿を見ずに汗を拭う。
侍女が水を持ってきて王に渡し、王はそれを一口で飲み干した。
唇から零れた水が首筋に伝う。

「調子は。」

一瞬何を聞かれているのか分からなかった。
だがすぐに体調の事を指しているのだと気づく。

「…とてもいいです。」

王は腹をちらっと見た。
寿はその視線に気づかないフリをして、王を見据えた。
すると王も見つめ返して来た。

「何故私をここに閉じ込めたのでございますか?」

まずこの事を問いただしたかった。
何故王城に連れて来られたのかを、それを命じた張本人に聞かなければならない。

「私は…都合のいい女なのでしょう?
たとえ陵辱しても何も出来ない、何も主張出来ないと思ったから。」

涙が零れる。
王はその涙を見て、息を呑んでいる様子だった。

「王妃様をお迎えになるのではなかったのですか?
この子をどうするおつもりなのですかっ…私をどうするおつもりなのですか?」

言いたいことを全て吐き出した。中絶薬RU486
正確にはもう一つだけ聞きたいことがあったが口に出来なかった。
怖くて聞けなかったのだ。
興奮して叫んでしまったことにより、城の中から何人かがやってきた。
王は手を振り、彼らを追い払った。
寿は俯きながら息を整える。

「…私から奪わないで。この子を奪わないで。」

切なる願いだった。
この子と引き離されないなら、辛い事を耐えられる。
だが奪われたら生きていけない。
それ程大切な存在になっているのだ。
生み出す為の器ではなく、この子の母になりたい。


「そのようなつもりはない。」

王が静かにそう言い放った。
寿は涙をそのままにして、ゆっくり顔を上げ王に向けた。
本当に?と目で尋ねると王は頷いた。
寿は王の腕に縋り付く。
その縋る手を一度外させてから、王は寿の腰を自分の方に引き寄せ、背に手を置いた。
二人の距離は縮まった。

「私が憎いか。」

無理やり連れ去り、城に閉じ込めて。

「…。」
「そなたの不安を今、理解した。
不安を抱かせたことをまず…謝りたい。」

更に寿を引き寄せ、強く抱きしめる
身体を動かしていたからか王の胸は熱かった。
長い黒髪を撫でる。
その優しい手つきに寿は涙が溢れる。
幸せだったあの頃と同じ触れ方をする。
王の心が分からない。この方は一体何を考えているのだろう?

「貴方様の御心が分かりませぬ。
言葉にしてくれなければ…私には分かりませぬっ。」

分からない事が何より不安なのだ。
悪い想像しか浮かんで来ないのはその所為である。
自分達は言葉なしに分かり合える関係ではない。
言葉にしなければ何も分からない。
寿は王の胸を押し、顔を上げた。
美しい琥珀の瞳が揺れているのが見て取れた。

「私は、」

寿は王の次の言葉を待った。MaxMan

隧道

携帯電話の液晶画面が、ふっ、と暗くなる。
 我に返った朗は、慌てて適当なキーを押した。メール送信の手前で中断していた画面が、一瞬にして眩く復活する。
 ここは、化学準備室。扉を隔てた隣の化学室では、七人の化学部員が部活と称した談笑の真っ最中だ。sex drops 小情人
 どこか思いつめたような瞳で液晶画面を凝視していた朗だったが、小さく息をついて実行キーに指を滑らせる。微かに力の入る指先。
 
『送信しました』
 
 送信完了画面を一瞥してから、携帯電話を折りたたむ。白衣のポケットにそれを仕舞い込むと、朗は化学室への扉のノブに手をかけた。ふと、あの有名な叙事詩の一説が脳裏に浮かび上がってくる。
 
 ――この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ――
 
 だが、ベアトリーチェが自分に微笑む事はないだろう。
 ……柄にも無い。思春期のガキでもあるまいし、詩人を気取っているつもりなのか。
 朗は自嘲の笑みを押し殺しながら、ゆっくりと扉を引き開けた。
 
 それは、本当に偶然の出来事だった。
 三週間前のあの日の放課後、来月行われる予定のサイエンスダイアログ――スーパーサイエンス関連授業の一つ、外国人特別研究員による講演会――の書類を地学室へ届けに行った帰り、朗は階段に続く廊下の角を曲がろうとして怪訝そうに歩みを止めた。
 微かな足音が、上方から降ってくる。
 階段の上り口までそっと近寄ってみれば、薄暗い踊り場に制服のスカートの裾が翻るところだった。それは一瞬のちに手すりの陰に消え、上履きのゴム底が立てるくぐもったような足音だけが、更に上へと遠ざかっていく。
 一人ではない。おそらくは二人分の足音。
 北校舎は四階が最上階だ。この上には屋上と天体観測室しか存在しない。そのどちらにしても生徒が勝手に立ち入っても良い場所ではなかったし、なにより人目が全く無い。いくら「良い子ちゃん」揃いの楢坂生にしても、いや、プライドが高く体面を気にする事の多い楢坂生だからこそ、他人の目の無いところでは羽目を外したくなるというものだろう。
 他人に聞かれたくない内緒話程度ならば可愛げもあるのだが、それを超えるレベルとなると話は簡単には済まなくなる。朗は足音を忍ばせながら、そっと階段を上り始めた。
 
 踊り場に立ち、手すりの陰からそっと上を見上げると、階段の上、正面にある天体観測室の扉の前に立つ二つの人影があった。左手、南側に位置する、屋上へ通じる扉のすりガラスを透かした陽光が、柔らかくその二人を照らしている。
 化学部の前年度の部長と、副部長。もしくは、三年十組のクラス委員と、八組のクラス委員。そして、……秘密の恋人と、恋敵。
 思わず朗は、手すりの陰に身を潜めた。
 鍵の開かれる音が薄暗い空間内に反響し、それからほんの少しだけ階段全体の明るさが増した。開いた扉から差し込んだ光が二度ほど揺らぎ、そうして辺りは再び薄闇に包まれる。
 
 天体観測室か。
 柏木陸にとって、鍵を借り出す事など造作のない仕事の筈だ。成績優秀で品行方正な彼ならば、難しい言い訳を捻り出さなくとも、すぐにその望みは叶えられた事だろう。
 
 ――セフレ、だそうです――
 あの、やけに大人びた陸の表情が、朗の脳裏に蘇る。
 
 彼は、私と同じ処に立っている。
 十二年前の自分には想像する事すら出来なかったであろう、今私が立つこの場所に、あいつは立っているのだ。
 
 足音を立てないようにして朗は階段を上りきった。全身全霊の注意を払い、屋上への扉を静かに開く。
 寒露とは名ばかりの太陽光が、暗がりに慣れた朗の眼底を射抜く。眩暈を感じ、平衡感覚を失いそうになりながらも、朗は密やかに扉を閉めた。
 気配を殺しながら、壁に貼り付くようにして建物の角からそっと西を覗けば、観測室の南側の窓を開けた陸が、部屋の中央に向かって踵を返したのが見えた。彼の姿が死角に消えるのと入れ替わりに、今度は声が、朗の元へと風に乗って届けられる。
 モラルやプライドなど、くそ喰らえだ。
 朗は立ち聞きを決め込んで、観測室からの死角で息を潜めた。
 
 
 
 地獄の門ならぬ化学室への扉をくぐり抜けた朗は、目の端に志紀を捉えながら、何食わぬ顔で作業中の教卓へと戻った。
 ややあって、びくん、と志紀の身体が震える。
 その動きはあまりにも微かで、それに気がついたのはおそらく朗ただ一人だろう。朗が密かに見つめる中、至極冷静に志紀はスカートのポケットを探り始めた。他の六人の化学部員が僅か注意を志紀に向けたが、彼女が携帯電話を取り出したのを見て、再び雑談へと帰っていく。
 
 ほんの一瞬、志紀が朗を見た。
 つい先程に朗が送ったメールが届いたのだろう。
 送付する事をあんなにも迷っていた割に、肝心のその文面には微塵の躊躇いも存在しなかった。酷くそっけない呼び出しのメール。温かみの欠片《かけら》もない、たった一言の。
 メールが万が一他人の目に触れてしまった場合を想定しての事であるのは確かだが、それとは別に、試薬のつもりでもあるのかもしれない。何事もなかったかのように携帯電話を仕舞い込む志紀を視界の端に意識しながら、朗は、おのれをそう分析していた。
 この誘いに彼女はまだ応じてくれるのだろうか。甘言を弄せずとも、威迫せずとも、彼女が自らの意志でこの誘いに乗ってくれるかどうか、それを間接的にでも判じようというのだろう。
 そうして、最後には言い訳にするのだ。
 彼女が来なかったのは、あのあまりにも味気ない文面のせいに違いない、と。
 
「おい、有馬、お前もそう思うだろ?」
「え? ゴメン、今、ちょっと聞いてなかった」
 志紀を会話の輪に戻そうと思っての事だろう、原田嶺が殊更に大声で彼女を振り返った。
 声を掛けられた志紀は、少しだけ慌てて再び朗に背を向ける。身振りを交えた大げさな嶺の語りに小刻みに相槌を打つ志紀から視線を外し、朗は来週に迫った講演会の準備を再開した。
 
 今年の講師は、オーストラリアから隣県の国立大に来ているポスドクで、専攻は応用地質学。よって、地学の山口教諭と、比較的専門分野の近い朗が共同で窓口となっている。ああ見えて、山口教諭は海外遠征の経験も豊富な優秀な研究者だ。今回、朗は事務方に徹するつもりで、煩雑な雑務を一手に引き受ける事にしていた。
 縁の下のなんとやら。ある意味、講演会の成否の鍵は自分の手中にある。単純で忌々しい事務作業も、そう思えばやり甲斐も出てくるだろう。談笑する志紀を盗み見てから、朗は雑念を追い払うべく手元の書類の山に視線を移した。
 実のところ、スケジュールには充分な余裕がある。決して急ぐ作業というわけではない。だが、今、この時間、朗は無理矢理にでも仕事に没頭しようとしていた。VVK
 そう、これ以上余計な事で心裡を乱されるのは御免だ。約束の時間が訪れるまでは、もう何も考えたくない……。
 
「お邪魔ー」
 がらがらと化学室の後ろ側の扉が開き、高嶋珊慈が長身を少し屈めて室内に入ってきた。いち早く気が付いた嶺が、右手を上げて応答する。
 紙の束を繰る朗の手が、止まる。
「おう、珊慈、もう終わったのか?」
「ってか、高嶋先輩、剣道部って引退、ないんですか?」
「まっさかー。自主錬、自主錬。俺ってキンベンだから」
 朗らかに笑いながら、珊慈が一同に近づいてくる。戸口から一番近い、嶺と志紀の間の椅子に座ろうとして、彼はほんの僅か躊躇った。
 躊躇ってから、珊慈は志紀の後ろを回り込んだ。嶺の正面側の実験机にひょいと腰をかけ、語らいの輪に加わる。訳知り顔で微かに口角を上げる珊慈に、嶺は少し照れくさそうな笑みをみせた。
 
 二人の秘密の遣り取りに気が付いた者は一人もいなかった。……朗を除いては。
 そうだ、あの時も、彼らはきっとこんな表情で、あの言葉を交わしていたのだろう。
 
 ――本当に彼女の事が大切なんだな――
 ――あいつを傷つけたくない――
 
 朗の意識は、再び三週間前へと時の流れを遡っていった。

天体観測室を出た二人の気配が、階下へと去っていく。朗は、建物内への扉を静かに押し開いた。
 志紀が何事もなく陸をやり過ごすことが出来て、本当に良かった。朗はもう一度安堵の溜息をついた。
 彼女が原田との仲を否定しなかった事については、背に腹は換えられないというものだろう。自分達の関係を公言する事無く、あいつの誘いを振り払おうとするならば、これぐらいの嘘は仕方が無い。
 
 そう、嘘、だ。
 
 今や、有馬志紀が心を寄せているのは、同級生で幼馴染の原田嶺ではない。化学部の顧問にして教師であるこの私、多賀根朗に他ならないのだから。
 良く笑い、たまに怒り、時に拗ね、適度に真面目で、適度に不真面目で。授業でも部活でも真摯な瞳で疑問に向き合い、物怖じする事無く議論する、そんな彼女があんなに甘い声で鳴くなどと、私以外の一体誰が知っているというのだろうか。
 まるでおねだりでもするかのように、情欲に濡れた瞳を潤ませながら私の愛撫によがり狂うなどと。
 
 彼女は、私のものだ。
 志紀達に鉢合わせすることのないように四階の廊下を西に進みながら、朗は白衣のポケットから携帯電話を取り出した。半ば衝動的に、朗は志紀にメールを打つ。たった一言だけ、『いつもの場所で待つ』と。
 
 
 中央階段を一階まで降りると、渡り廊下への開口部を挟んですぐ西が化学室だ。二つある扉のうち、黒板に近い方は薬品棚で半分塞がれてしまっているため、生徒も教師も専ら手前側の扉を使用している。
 扉の引手に朗が手を伸ばした時、中から屈託の無い笑い声が響いてきた。
 
 原田嶺。幼い頃から志紀と時間を共有していた男。自分の知らない彼女を知っている、あの男が笑っている。
 
 ――一年の時から、君ら良い雰囲気だもんな――
 
 確かに、以前彼女は奴に想いを寄せていた。だが、それは恋と呼ぶにはあまりにも幼く、愛というよりも独占欲に似た感情だったと思われる。多分、おそらくは。いや、きっとそうに違いない。
 そして、もう彼女の心は奴には無い。それは間違い無い。そうでなければ、自分の呼び出しに応えてくれる筈がない……。
 
 扉の向こう側は、未だ朗の存在に気が付いていない様子だった。引手にかけた手をそっと引っ込めると、朗は廊下を静かに奥へと進み始めた。ポケットから鍵を取り出し、普段あまり使うことの無い、直接準備室に繋がる扉を開ける。
 このところ多忙な日々が続いた事もあって、自分は少し疲れているのだろう。ただ、それだけだ。
 それだけなのだ。
 そう自らに言い聞かせながら、朗は準備室の長椅子に身を沈ませた。
 
 
 化学室にいるのは、嶺とその友人、高嶋珊慈の二人だけのようだった。
 窓際に陣取っているのだろう、窓を通して彼らの声が明瞭に聞こえてくる。暑い夏、志紀との逢瀬に窓を閉めきったのは大正解だったな、と胸のうちで朗は呟いていた。
 
「本っ当に、誰も来ねえな。修学旅行の説明会って、こんなに長かったっけ?」
 欠伸の切れ端とともに嶺がぼやく声。対する珊慈は至極冷静な様子でそれを受け流している。
「憶えてない」
「有馬とか柏木とかも、何してんだ?」
「皆、お前みたくヒマ人じゃないんだよ」
「お前が言うな」
 
 暢気なものだ。朗は独りごちた。
 その二人が、先程天体観測室で交わしていた会話を知ったら、奴はどう反応するだろうか。男宝
 そもそも、元来がウブな志紀の事だ。朗が彼女をものにしていなければ、彼女が何も知らないままだったらば、陸は簡単に目的を遂げる事が出来ただろう。甘い言葉を並べ立てて、雰囲気を盛り上げて。もしくはもっと強引に……、丁度三ヶ月前の朗のように。
 
「そういや、さ。嶺、ちょっと聞きたい事があるんだけど」
 少し改まった声が、一呼吸ついた。
「お前さ、有馬さんと付き合ってンの?」
 
 ややあって、何かを盛大に噴き出す音が聞こえてきた。
「な、ななな何を突然言い出すんだよ! んなわけねーだろ!」
「あ、そ」
 
 今日は、一体どういう日なのだろうか。立て続けに他人の恋愛話を聞かされる羽目になろうとは。それも、当人達のあずかり知らぬところで。
 眉間に皺を刻んだ朗だったが、それでもしっかりと耳をそばだててしまっていた。志紀の名前が出た以上は、捨て置くわけにはいかない。
 
「……何だよ。一体、なんでそんな事聞くんだよ」
「クラスの奴にリサーチ頼まれたんだよ。有馬さんってフリーなのか?って。そいつ、オプションの存在を気にしてたから、ここは直接、そのオプションに訊いてみるか、と思ったんだけど?」
 飄々とした声に、苛ついた声が噛み付く。
「誰だよ、そんな物好きは」
「ここでバラしたら、反則だろ」
 ぐ、と嶺は言葉に詰まったようだった。
「じゃ、彼女は完っ全っにフリーなんだな? こう、なんつーか、アタックし放題? 奥手そうだし、押して押して押しまくれ、みたいなアドバイスしとくけど、OK?」
「ま、まてマテ待てマて」
 ガタガタと、丸椅子が音を立てる。
「なんだよ、付き合ってるんじゃないんだろー?」
 
 珊慈の、人の悪そうな笑顔が目に浮かぶようで、聞き耳を立てている朗も、つい苦笑を浮かべてしまう。
 
「付き合ってねえよ。付き合ってねえけど……、ちょっと待てよ」
「なんだよ、予約済みとか言うんじゃないだろうな」
「そ、それは……その……、なんて言うか、ほら……、くそっ、だからさぁ」
 
 嶺が、じたばたと盛大に足掻いている気配が窓越しに伝わってくる。奴は一体どうするつもりだろうか、と、朗はさらに意識を隣に向けた。
 やがて、嶺は意を決したような声音で訥々と語り始めた。
 
「あいつの性格はお前も知っているだろ? 男と女の区別がついてないんじゃねーか、ってほどにお子様な奴相手に、付き合うも付き合わないも無いだろーが」
「……まあ、確かに、彼女はあまり「オンナ」って感じじゃないなあ」
「だろ? こないだなんか、柏木が誕生日だって言うから、十八禁モノ差し入れてやろうか、って話してたら、『柏木くん、アクセサリー好きなの?』だぜ? 信じられるか?」
「俺にしてみれば、女子のいる前でそんな話題をふる方がどうかと思うが」
「女子つったって、志……有馬だぜ?」
「あー、はいはい。好きなコほど、ちょっと困らせたくなるよねー」
「……! 違ぇよ!!」
 
 一人密かに化学準備室で、朗は頭を抱えていた。一応は恋敵と言えるかもしれない相手の、あまりの幼稚さに頭痛を覚えて。
 だが、それは決して不快なものではなかった。むしろ、ある種の懐かしさすら感じさせられるほどの……。
 
 遠い記憶が、校舎のあちこちから染み出してくる。
 そうだ。放課後の教室、はにかんだように恋愛相談を持ちかける友人相手に、経験者を気取ってもっともらしい事を嘯《うそぶ》いていた事もあった。その後、友の反撃を受け、二人で派手に自爆し合った憶えがある。
 
「悪かったよ、茶化して」
 先程までとうって変わって真面目そうな珊慈の声に、朗の意識が現実に引き戻される。
 大きな溜息は、嶺のものだろう。
「とにかく、さ。まだまだあいつはコドモなんだよ。男と女の違いなんて、生物学的なシステムでしか認識してないと思う。そんな奴を無理矢理こちらのペースに引きずり込むなんて事、出来るわけないだろう?」
 
 
 その瞬間、細い、針のようなモノが、朗の胸を貫いた。
 
 
「……本当に彼女の事が大切なんだな」
 そう嶺に静かに返す珊慈の声は、とても柔らかい。だが、その声さえもが、朗にとっては刃《やいば》のようだ。
「ば、ばばば馬鹿野郎! 違うつってるだろ! あいつに振り回されて疲れるのが嫌なんだ!」
 
 胸に突き刺さった針は、朗の痛みを吸い上げて、ゆっくりとその太さを増していく……。
 
「ふぅん。それなら、相談主に『取扱注意』と念押しておけば良いってわけだ? あいつ結構イイ奴だから、有馬さんの事、それはもう大事にしてくれるだろうしー」三體牛鞭
「おい! 珊慈ィ!」
 
 針はいつしか杭と化していた。息苦しさに襟元を緩めども、胸の傷は絶え間なく朗を責め立て続ける。
 おのれの醜さを。
 …………非道さを。
 
「観念しろよ?」
「お前、その相談主とやら、フカシじゃねえだろうな」
「いや、それはホント。ただ、これを機会に、ちょいと嶺の本音を聞いとこうかなーって思ってさ」
「……志紀とは、付き合ってなんかねえよ。まだ」
「まだ?」
「悪いか?」
「べっつにぃ? でも、その気があるなら、さっさと告っちまえよ」
「……近過ぎンだよ。色々、あまりにも、さ。正直なところ、ヘタを打って俺自身も傷つきたくないし、それに……、あいつを傷つけたくない」
 
 やめてくれ。もう沢山だ。
 耳を塞ぐも、声々は容赦なく朗のもとへと届けられる。
 
「でも、いつまでもそうやっているわけにはいかないだろ?」
「……まぁな。そうだな、卒業したら……」
「チキン野郎」
「うるせえ! とにかく、俺は言ったぞ。これで満足か」
「ああ、しかと聞いた。相談主の方にゃ、適当に言っとくさ」
「……悪ぃ」
「ま、頑張れよ。応援してるからさ」
 ほどなく、廊下側から複数人の賑やかな話し声が響いてきた。時をおかず、ガラガラと引き戸の開く音がする。
「あれ? 今日は先輩達だけですかー?」
「おー」
「もう、校長の話、なんであんなに長いんスかねー」
「ところで、先輩、…………」
「ああ、そりゃ…………」
「…………」
「…………」
 先客の二人が窓際から離れたのだろう、生徒達の話し声はゆっくりとフェィドアウトしていく。
 
 
 どこのどいつだ。先手を打ったなどとほくそ笑んでいたのは。
 ……つい先程まで朗を満たしていた満足感は、腹立たしいまでの敗北感にその席を譲り渡してしまっていた。
 
 お前は、自分の事しか考えていない。
 朗の中で、誰かがそう糾弾する。
 彼女の事など微塵も思い遣っていないくせに、と。
 彼女の気持ちなどお構いなしに、ただおのれの快楽を追求しているだけではないか、と。
 朗は下唇を噛んだ。自分は、原田には勝てないのだろうか。
 
 仮にそうだとしても、おめおめと負けを認めるわけにはいかない。
 昏《くら》い光が、朗の瞳に静かに灯る。
 恐怖でも良い。快楽でも良い。どんな動機付けだろうと構わない。要は、志紀を絡み取り、縛り付け、逃さなければ良い話なのだ。
 今現在、彼女を手にしているのは、他の誰でもなくこの私なのだから。
 
 そうだ。彼女は私のものだ。
 
 朗はポケットから携帯電話を取り出した。メールの着信を示すライトが小さく点滅している。
 これまでの「お誘い」は、全て部活中に直接行われていた。朗が志紀に符丁めいた声をかけ、志紀は微かな身振りでそれに返答する。メールを使うのは、早めに退出した彼女に人払いが完了した事を伝える時に限られていた。
 だから、これが志紀から届く初めてのメールだった。先刻朗が送信したメールに相応しく簡潔な、『了解』の二文字が朗の目を射る。
 
 他の男から告白を受け、動揺しているであろう彼女を、どう料理するか。朗の瞳に灯った火は、その光量をいや増していった。
 ……そして、遂には自らの台詞によって、その炎は臨界点に達する事になる。
「そいつも断ったのか。原田のために」
 
 だが、それでも。彼女は私の物・だ。
 薄暗い化学準備室、隅の昏《くら》がりよりも更に深い闇に飲み込まれ、朗は志紀を貪り続けた。ただひたすら、嗜虐的な衝動のままに。狼1号

赤のチーム結成

嗚呼、なんてこったいセニョリータ。ドンマイケルだぜ田山圭太。

 
 俺、見事にヤラかしちまったよ。アラームのセットし忘れちまったよ。今、8時22分だよ。あ、23分になっちまった。
 寝惚けた目を抉じ開けながら、目覚まし時計を手にした俺は大きく溜息。最悪……完全に遅刻だ、遅刻。家を出る時間とっくに過ぎちまってるって。天天素

 上体を起こしてポリポリと頬を掻き、俺は視線を下ろす。
 そこにはスヤスヤとまだ夢の中にいるヨウとシズの姿。起きる気配、まったくなし。
 予想は付くけど一応、二人に「遅刻するぞ」って声を掛けてみる。何度目かの呼び掛けに二人はモゴモゴと答えた。「遅刻なんてどーでもいい」「まだ……寝る」っだってさ。

 
 ったくもう……、母さんが朝から出掛けていて家にいないから、ゆっくりと寝られるんだぜ? いたらヒッドイ目に遭ってたんだからな。


 寝ている二人を置いて、俺だけ学校に行くわけにもいかない。

 仕方が無いから先に洗面と制服に着替えさせてもらって、軽く朝食の準備して(自分の分は食ってしまって)、二人が起きてくるまでテレビを見ることにする。
 朝から流れる話題ニュースを眺めていたら、利二からメールが来た。それに返信して、またニュースを見る。そうやって時間を潰していたら、ようやくヨウが起きてきた。学校のジャージのまんま。

 時刻は九時を回っている。余裕で授業始まっちゃってるよ、おい。

 何処に座れば良いか分からず居間の出入り口に立ち尽くしているヨウを手招きして、テーブルに着いてもらうよう指示した後、俺は台所に向かった。
 カフェオレをコップに注いで、皿にあんぱんを載せてたら、シズも起きてきた。俺は二人分の朝食を用意して居間に戻る。ヨウは目が覚めたみたいだけど、シズはまだ眠たそうだった。いやシズはいつも眠たそうだけどさ。

 
「今日のことだが……ケイ、シズ、学校をサボらねぇか? 俺はみんなにメールを送って呼び出そうと思っているんだ。今の時間帯なら、近くの寂れた公園に集まっても誰もいねぇだろうからな。集められるだけ集めて話したい」

 
 あんぱんを口に入れながら、ヨウはテーブルに頬杖ついた。
 行儀悪いぞ、なんて言ったら睨まれそうだから、代わりにさっきの問い掛けの返事を返した。「いいよ、話し合いは早めにするべきだろうしな」
 眠たそうに目を擦りながらシズも返事を返す。「ああ、異議はない」

 母さんにばれたら大変だろうし、サボりたくもないけど、でもこればっかりはな。早め早めに話し合って手を打っておかないと。

 俺達は日賀野達と本格的に対立する。


 俺はテーブルの上に置いてあった携帯を手に取った。


「ヨウ、俺がみんなにメールを出すよ。お前、まだメシ食ってるし。メールは早い内がいいだろ?」

「悪いな、頼む。みんなにはこうメールしてくれ」


 ヨウの言葉をそのとおり打って画面に表示させていく。

「―――…モトで最後だな。うっし全員揃った」

 
 ブランコに乗って、悠々と立ち漕ぎしていたヨウは、全員揃ったことに満足気に頷いて勢いよくブランコから飛び降りた。
 反動でギィ……ギィ……と公園に金属の軋む音が鳴り響く。曲美

 けど誰もその音に目をくれる奴はいなかった。
 隣のブランコに腰掛けていた俺も、ヨウの後を追うようにそれから降りてみんなに歩み寄る。

 最初に公園に来たのはワタルさんだった。
 はじめから学校をサボってたみたいで俺達が公園に到着する頃に合流した。その次はハジメと弥生。授業の最中にも関わらず抜け出してやって来たらしい。次に響子さんとココロ。一時限目だけ授業を受けて抜け出してきたようだ。地味真面目ちゃんのココロまで抜け出してくれるのは意外って思った。マジで。
 最後はモトだ。中学校から公園まで若干距離がある。だから一番最後にやって来た。

 つまり誰一人欠席せずに、この場に全員揃ったということだ。

 一部を除いて、みんな、何となく呼び出された雰囲気を察してるんだろうな。
 「ヤマトのこと?」ハジメが開口一番にヨウに疑問を投げ掛けた。ヨウは頷いて昨日のこと、宣戦布告してきたことについて話し始める。さして誰も驚く様子はなく、そういう展開になって当然だという顔をした。

 だよなぁ。
 ずっとちょっかい出され続けていたみたいだから、そういう展開になってもおかしくないよな。

「中学の“あの日”の対立から、これは始まった。あの日から今日に至るまで随分俺達は奴等にしてやられてきたが、もう我慢の限界だ。今度はこっちから仕掛ける。本気で掛かるつもりだ」

「やーっと本気でやれるりんこ。判断を出すのが遅いってぇ」

「うるせぇなワタル。判断を出すってなんだよ。俺は別にリーダーじゃねえぞ」

「も、リーダーも一緒でしょ。あの時の対立から、ヨウちゃーんはリーダー的存在だったし? 向こうはヤマトちゃーんが頭(かしら)だもののん。じゃあヨウちゃーんがこっちの頭するべきなのが筋ってもんっしょいワッショイ」

 「もしかして無自覚だった?」ワタルさんはケラケラ笑う。
 この状況でよく能天気に笑えるな……、感服するよ。 
 だけど響子さんもワタルさんの意見に同調していた。ヨウはリーダーだって。そして副リーダーはシズだって。それぞれそういう素質がある、彼女は煙草の先端を噛みながら言った。

 まあな、ヨウはヤマト対等にやり合えるだけの力はあるし、シズもいざって時になると的確な指示や意見を出すみたいだしな。リーダー、副リーダーってのも分かる気がする。うん納得。

 「リーダーって柄でもねぇんだけどな」ヨウは顔を渋めながら話を続けた。


「宣戦布告した以上、もう後には引けねぇ。特にワタル、シズ、ハジメ、響子、モト、そして俺は引けねぇ。なにせ分裂した時のメンバーに入ってるんだからな。引いたら最後、負けを認めることになる。ンなの、俺の性分じゃねえ」

「誰でもそうだって。うちだってちょっかい出されっぱなしで腸煮えくり返りそうだ」


 響子さんはゆっくりと紫煙を吐き出しながら鼻を鳴らす。分裂時のメンバーは全員同意見みたいだ。引く気配も異論を唱える気配もない。
 「問題は三人だろ」響子さんは名前を呼ばれなかった俺、弥生、ココロを順に指差す。

 そりゃな……、俺達は中学の事件と全くの無関係。高校から知り合った関係だから、関係ないっちゃ関係ないけど。

 陰男子という名の勇気を振り絞っておずおずとヨウに意見する。K-Y Jelly潤滑剤


「俺はヨウの舎弟だし、二人だってもうヨウ達と関わった。関係ないけど関係あるだろ? 関わるなって言われても、多分もう手遅れだと思うぜ。俺なんて日賀野に二度も絡まれてるんだし」


「これで関係ないって言われて突っ返されたら、私、ヤマト達のとこに行っちゃうかも」

「えええ……っ?! 弥生ちゃん。ほ、ほんとに?」

「嘘だよ、ココロ」


 オドオドするココロに弥生は舌を出した。ココロはもう、と呆れたような顔で微苦笑を漏らす。
 俺達の気持ちに満足したヨウは、改めて、俺達を見据えるとハッキリ言った。


「これからはグループじゃねぇ。チームだ。俺達はチームとしてこれから動く。もう、ヤマト達から何度もちょっかい出されるような、ちんたら適当につるんでるグループじゃねえ」


 ヨウはブランコ側に落ちていた空き缶を拾いに歩き始める。


「正直言うと、俺は前々から奴等のことは潰してやりたかった。ワタルやシズ、モトと何度か、ヤマト達の仲間を潰したことはあるけど、本格的に潰してやる機会はなかなかなかった」


 空き缶を拾ったヨウはグシャッと片手でそれを握り潰す。


「けど宣戦布告した以上、もう引けねぇし。分裂した事件がどうのこうの……じゃねえ。これは俺達のプライドがかかってるッ、と!」


 空き缶を設置されているごみ箱へと放り投げて俺達に振り返った。



「俺達の目的はひとつ、ヤマト達を潰す。そのためのチームを此処で結成だ。いいな、テメェ等。奴等にヤラれることがあっても、ぜってぇ負けんじゃねえぞ」



 ヨウの言葉を聞いて俺は目を伏せた。
 今をもって俺は、完全に不良の世界に両足を突っ込んだ。もう、逃げられない。福源春

落ちこぼれ”でも飛び出せ!

7時限目が終わった頃合を見計らって、俺とワタルさんは学校に戻った。
 本当はSHRが終わってから教室に戻ろうって思ってたんだけど、どうせ放課後戻っても結果は同じだ。それに担任や生徒会からお呼び出しも喰らうに違いない。だったら腹括って教室に戻ろう。蟻力神

 ワタルさんと二人で出した結論だった。

 教室に戻ったらSHRが始まっていた。
 おかげでクラスメートから注目を浴びちまうハメになったよ、スッゲェ恥ずかしいっつーか居た堪れない。担任の前橋に早く座るよう催促されて、俺はいそいそと自分の席に着く。後ろから視線を感じる。多分、ハジメや弥生、そんでもって利二の視線だと思う。みんなに返信してないもんな。

 チラッと目を動かす。俺の見た席には透が座っていた。
 ちゃんと授業を受けたかどうかは分からないけど、透、教室に戻って来てくれて良かった。自然と安堵の息が漏れる。

 まだ心の準備ができていないせいか、SHR時間が延々と続けばいい。なんて思ったんだけど前橋は淡々と話を終わらせてしまった。
 しかも例の事件のことで話があるのか、俺を含む不良メンバーは生徒会室に行くよう呼び出しを喰らってしまった。予想はしてたんだけどさ、こうやって現実を目の当たりにするとヘコむよな。どんな嫌味言われるんだろ、ヨウ達になんて言い訳しよう、色々とヘコむ。 

 「起立」学級委員・横野の号令に合わせて、俺は重い腰を上げた。鈍く左肩が痛む。頭を下げた直後、みんなは鞄を持って教室から出て行く。んで、俺は教卓に着いている前橋に呼ばれた。

「お前はいつから、仕事を増やす面倒な生徒になった。頼むから増やすな、俺の仕事を」

 出席簿で何度も頭を叩かれながら、軽くお小言を貰った。合間合間に問題があったなら職員室に来い、そう俺に言ってくる。
 一応、教師らしい仕事はしてくれるんだな。それとも俺を心配してくれてるのか? ま、どっちにしろ、あんま世話にはなりたくない。なったらそれこそ、面倒になるから!

 担任から解放された俺は、疲労交じりの溜息をついて踵返す。そしてびっくり。そこには弥生がいたから。
 むむっ。眉間に縦皺を作っている弥生は、俺を睨み付けて「バカ!」と罵声を浴びせてきた。

「なんで返信しないの! 心配したんだよ! ワタルと何していたの!」

「え、あ、ご……ごめん。ちょっと、えーっと、ちょっとワタルさんと」

 俺、言い訳下手くそ!

 しどろもどろ目を泳がせながら、頬を掻きながら、誤魔化していたらハジメが俺達に歩み寄って来る。「何か、あった?」俺の制服や頬を指してきた。
 どう隠しても隠し切れない頬の擦り傷やカッターシャツの汚れを指摘され、俺は汗をたらたら流す。ハジメ、鋭い。

 突然、背中を軽く叩かれた。
 左肩に響いて思わず痛みで声を上げそうになったけど、グッと堪えて、ゆっくり振り返る。
 そこには利二がいた。利二は俺の焦った顔に微笑して、「後でメール返せ」それだけ言って教室を出て行った。呆然と地味友の背を見送ってたけど、俺は利二の気遣いを察した。心の中で後で絶対に返信しようって決めて、口パクで礼を言う。

 あ、そういえば透。
 俺は目だけ動かして透を探す。教室にはもういないようだ。どうしよう…、スケッチブック、俺が持ったままなんだけど。明日よりも今日渡したいな。

「ケーイーッ、質問に答えてよ!」

「うわぁつ?! や、弥生、近いッ、顔近い!」

 至近距離に弥生の顔があるっ! 女の子の顔がある!
 女の子とかにあんま接したことないから、こういう状況はスッゴク意識しちゃうんだって。日陰男子なら気持ち、分かってくれると思うけどさ。大慌てで後ろに下がる俺に対して弥生は容赦ない。「説明してよ!」グイグイ寄って来る。

「逃げないで説明してよ、ケイ!」

「いやさ、そのさ」

「ハッキリ説明して! 此処で!」

 うわぁああー……女の子ってしつこい。恐い。強い。
 俺は必死に逃げ道を探す。

「と、とにかく生徒会室に行こうぜ。呼ばれてるしさ」芳香劑

「そのとおりだね。話が終わってからでも、ゆっくり聞けるし。ケイ、逃げられないと思っときなよ。ヨウも相当気にしてたみたいだから」

 うわぁああー……ハジメさん、脅しはナシだぜ。マジで。
 引き攣る顔を無理やり緩ませるように、愛想笑いを浮かべてみたけど、やっぱ引き攣り笑いにしかならなかった。

 

「失礼しまーす」

 弥生とハジメの3人で生徒会室に入ると、そこには既にヨウとワタルさんがいた。タコ沢は来てないっぽい。
 あ、そういやアイツ、職員室前にいたな。職員室を通ったら、しかめっ面作って廊下に立ってたもん。呼び出しでも喰らったのか? 役員もいるけど肝心の生徒会長はまだ来てないようだ。

 ワタルさんはニヤニヤ笑っていたけど、ヨウに質問攻めされていたのか、スッゲェ困った顔を作っている。でも余裕そうだな。困ってるけど、どこか愉しんでるもん。俺が入って来たらワタルさん、目を輝かせて手を振ってきた。

「ケイちゃーん、さっきぶり! 早速だけど、ヨウちゃんのお相手頼めるー? ヨウちゃーんの相手、僕ちゃーん疲れちゃった」

「あ゛ぁん? テメェ、疲れるようなこと何一つしてねぇだろうが。俺が質問してもヘラヘラヘラ笑うだけ、ざけやがって」

 なんで入って早々、そういう無茶振りが降りかかってくるんでございましょうか。俺、まだ心の準備も何もしてないのに。
 ワタルさんに向かって無理ムリって首を横に振るけど、ワタルさんも無理ムリって首を横に振ってきた。ワタルさんの方が付き合い長いでしょ! 頑張って相手して下さいよ! 俺にヨウの相手なんて荷が重過ぎるって!

 なんて思ってたら、ヨウが俺と視線を合わせてきた。若干、睨まれてる気がする。気がするじゃない、睨まれてる。

「おいケイ、分かってンよな」

 地を這うような声で俺に問い掛けてくる舎兄が恐い、恐いよ、泣きたいよッ。
 俺、忘れてた。ヨウは学校でも畏れられている、恐ろしい不良だってことを。味方だと心強いけど、敵になるとめっちゃ恐い。恐過ぎる。

 じゃあキレイサッパリ本当のことを言ってもいいけど、言ったらいったで地獄を見る気がする。
 どうして自分を呼ばなかったんだ! みたいなカンジで怒られそう。それにワタルさんは二人でシメたことで解決したって言った。あまり報告したくないようだし(魚住のこともあるしな)、俺も収穫のない喧嘩をしてきただけだもんな。

 グルグル考えをめぐらせていたら、生徒会長が中に入って来た。

 席に着くよう指示されたから、俺は弥生たちと一緒に席に着いた。
 ヨウは相変わらず、須垣先輩を毛嫌いしているようでガンを飛ばしていた。そんなヨウも恐いけど、笑顔で綺麗にスルーしている須垣先輩も凄い。種類は違うけど、どっちも敵に回したらヤだよな。こういうタイプたち。
 自分の指定席に座った須垣先輩は、ニッコニコ笑顔で俺達を見てきた。

「谷沢くんは暴行事件(ただの喧嘩だけど)を起こして、職員室にいるそうだ。情報によれば“タコ”のことでどうのこうの……」

 タコ沢……、お前、そんなにタコ嫌いか。いやそうしたのは俺とヨウのせいだろうけどさ。

「まあ谷沢くん抜きで話そう。彼抜きでも差し支えないしね。さてと」

 指を組んで、俺とワタルさんにチラッと視線を送ってくる。


「二人とも戻って来たようだね。“おサボリ”は楽しかったかい?」


 ひっじょうに棘のあるお言葉をどーも。
 俺とワタルさんは顔を見合わせて肩を竦める。

「楽しかったですよね、それなりに」

「ほーんとにねぇ、それなりに」

 棘のある会話をしてやった。いやさ、ヨウ達がいるって分かってるんだけど腹立つじゃん。俺達に非があるとしても、やっぱ腹立つじゃん。相手が生徒会長だけに。 
 クスリ、笑声を漏らす須垣先輩は眼鏡のブリッジを押す。

「分からない人がいるかもしれないから説明すると、こちらの二人が生徒会と交わした約束を破ってしまったんだ。たかだか1週間、サボらず授業に出ればいい話なのに。とてもイイ誠意を見せてくれたもんだ。やっぱり君達は信用ならないよ。犯人だって思われても仕方が無い」

「ということは、疑われるのは僕ちゃーんとケイちゃーんだよねぇ。二人っきりでデートしちゃったし。ほーかのみんなは真面目に授業ちゃんを受けてたし」

 みんな偉いよねぇ。僕ちゃーんには無理むり。ワルイコちゃんだから。
 ニヤニヤ笑って机に足を置くワタルさんは、ポケットから煙草の箱を取り出した。情愛芳香劑

「これも学校で吸っちゃったたたーん」

 そう言うワタルさんだけど、俺が知ってる限り、学校では吸ってない。トイレで吸おうとはしてたみたいだけど、結局、吸わなかったっぽいし。
 ワザワザ疑いが掛かる物品を生徒会の面子に見せるのは、より自分に注意を向けるため。それがワタルさんなりの、詫びなのかもしれない。理由があっても、約束を破ってみんなに迷惑を掛けたっていう…ワタルさんなりの詫びの仕方かもしれない。

 なんかワタルさんのこと、俺、誤解してた気がする。
 ワタルさんって人のことをからかうお調子者のウザ不良と思っていたけど、しかも苦手とか思っていたけど、この人はちゃんと他人を気遣う不良なんだ。馬鹿して、人をキレさせて、だけど裏では友達のために行動する。憎まれ役も買って出る。

 ワタルさんってそんな人なんだなぁ。完全に誤解してたよ、俺。

 そうだ。後でお礼、ちゃんと言おう。
 喧嘩に連れてってくれたお礼。ワタルさんがいなかったら、俺、勝てなかった。ひとりじゃ何もできなかった。スケッチブックを取り戻すことさえも、できなかったから。

 ワタルさんの発言に須垣先輩は呆れたような顔を作ってきた。
 調子が狂う、顔にそう書いてある。須垣先輩自身、もっと青い顔をして欲しかったのかもしれないな。焦って焦って許し乞いをしてもらいたかったのかも。頭部を軽く掻いて、今度は溜息。「君達の疑いは晴れたよ」残念そう言ってきたのは溜息をついた後のこと。

「ある生徒からの情報で、二年の生徒が生徒会の窓にヒビを入れたって通報があった。真実を確かめにいったら、犯人のひとりが認めたよ。オメデトウ、君達は一応身の潔白が証明されたんだ」

 ある生徒、それって透のことじゃ。そうだ。きっと透だ。透が生徒会に報告してくれたんだ。
 自分の身が危なくなるかもしれないのに、奪われたスケッチブック捨てられるかもしれないのに、アイツ、俺達のために。犯人のひとりが認めたっていうのは、ワタルさんが美術準備室でシメた先輩不良だろうな。うん。シメ方がシメ方だったもんな。

「犯人が捕まった、だぁ? 詫びやがれ! 散々人を犯人扱いしやがって! しかも休み時間まで俺達を見張ってやがっただろうが! 監獄にでもいる気分だったぜッ。犯人扱いしやがったことに対しての詫びを、此処で、詫びやがれ!」 

 噛み付くようにヨウが怒声を張ったけど、須垣先輩はニッコリ。「謝らないよ」
 カッチーンときたのかヨウは軽く腰を浮かせる。だけど先輩は表情を崩さない。肩を竦めて、キラースマイルを俺達に向ける。

「君達はこちらの約束を破った。それは変わらないし、君達が疑われたのは日頃の行いが悪いせいだ。寧ろ、約束を破ったことを謝って欲しいくらいだよ」

「ンだと……さっきから聞いてりゃ……」

「吠えるな、負け犬」

 二人の間に火花が散る。根本的に根っこが合わないんだろうな、二人って。
 そういえばヨウ、言ってたな。やり口は日賀野に似ているって。きっと似ているが故に拒絶反応を起こしてるんだ。日賀野のこと、スッゲェ嫌ってるし。
 話は終わりだとばかりに須垣先輩が手を叩いた。仕事の邪魔になるからさっさと出て行け、っていうのが態度にデカデカ出ている。自分から呼び出しておいて、酷い扱いだよな。

 荷物を持って腰を上げたら、「次は容赦しない」須垣先輩は真顔で俺達に言い放った。

「何か事が起こったら、真っ先に君達を疑わせてもらう。特にそっちの二人は“おサボリ”を優先した。何かあったらその時は」

「だってぇ、ケイちゃーん。肝に銘じとかなきゃいけないねぇ」三體牛鞭

「あははっ……、そうですね」

 生徒会から完全に信用を失くした。
 でもそれは、べつに痛くも痒くも無いことだと思う。俺達にとって、俺にとって“おさぼり”の方が大切だったしさ。
 まあ、生徒会長に弁解してもそれはただの吠えにしか思えないだろうな。先輩にとって俺達は約束を破った“負け犬”なんだしさ。いいよ、負け犬でも。断れないで、泣く泣く舎弟になっちまった時点で俺は負け犬だぜ。

 だったら負け犬は負け犬なりに頑張らせて頂きます。

「ああ、そうだ」

 須垣先輩は俺とワタルさんを呼び止めた。俺達は勿論、自然と他のみんなの足も止まる。
 振り返れば、気味が悪いほど笑顔を見せている生徒会長がそこにはいた。


「“おサボリ”お疲れさま。怪我の治療は早めに。特に田山くん、左肩、お大事に。今日中に病院に診せた方が君のためだ」 

 俺は左肩に手を伸ばしながら、目を見開いた。なんで先輩が左肩の怪我を知ってるんだ。この怪我を知ってるのはワタルさんと、怪我を負わせた先輩不良だけだぞ。なんで先輩が知ってるんだよ。その場にいたわけじゃあるまいし。
 しかも“おサボリ”お疲れ様ってどういうことだ。先輩、俺達が何をしていたのか知ってるのか?
 突然の言葉に動揺しまくっている俺の背中を叩いて、ワタルさんは不愉快そうに笑いながら鼻を鳴らした。

「やっぱテメェ、信用ならねぇーよ」

「光栄だね」 

 ニッコリ。
 須垣先輩はしてやったりとばかりに笑顔を見せてきた。その笑顔は、どことなく毒を含んだ、寒気のする嫌な笑みだった。

「荒川のいる不良グループ。日賀野がいる不良グループ。ま、どっちが潰れても、僕としてはいいんだけどね」

 生徒会室から出て行くヨウ達の背を見送った須垣は小さく笑みを浮かべた。


「潰し合ってくれれば、万々歳さ。不良ほど醜い存在は無いからね。ああヤダヤダ、不良なんて大嫌いだ」中華牛鞭

銀の姫君

「姫様、イースィンドの学園はいかがでしたか?」

「最悪」

 そう言って私は、ベッドに倒れ込んだ。疲れた。身も心も。

 無遠慮に私に浴びせかけられる視線も、無駄に広く、必要以上に装飾が入れられた校舎や教室も、回りくどいイースィンド風の物言いも、何もかもがうっとおしかった。簡約痩身

 この一週間でレクチャーされた様々なルールや風習、マナーもたいがいだと思ったが、貴族の子弟が私に群がって行う冗長な挨拶など、本当にどうしようもなかった。

 この国は無駄が多過ぎる。非効率的だ。彼らの前口上をまともに聞けば、それだけで日が暮れてしまうだろう。時間の浪費以外の何ものでもない。

「最悪」

 そう、最悪だ。無駄に言葉を重ねない私が、思わず二度も口にする。

 それで全てを察したのか、侍従長のゾフィーは何も言わずに冷たいハーブティーを淹れてくれた。このような気配りを、イースィンド人に求めるのは酷というものだろうか?

「ゾフィーのハーブティーだけは、変わらず美味しいわね。それだけが救いだわ」

「ありがとうございます」

 アップルミントの香りが、ささくれ立った心を癒してくれる。すーっと、清涼な風が吹き抜けていくような感覚が、体に溜まった嫌な熱を掃ってくれる。

 今、この瞬間だけは、余計なことを考えずに済む。

 「着飾った猿」の国へ留学に来たことも。私に与えられた使命も。これからのことも。そして―――あの〈悪魔〉のことも。

「―――駄目ね、私。考えまいとして、余計なことを考えてる」

 いくらゾフィーのハーブティーが絶品だからとはいえ、悩みを消し去ることはできはしない。

 人の思考を制御しうるは、人の意思のみ。くだらないことで頭を悩ませるなど、私の未熟さの証明に他ならない。

「これでは、イースィンド人を笑えないわね」

 「余計」はイースィンド人の専売特許だ。決して、鉄とも称されるバルトロア人に関わりある言葉ではない。そうあってはならない。

「姫様。そうイースィンド人を馬鹿にするものではありませんよ。偏見は眼を曇らせます。姫様には、公平無私な判断をしていただきたく存じます」

「そう、ね。私は、イースィンドに学びに来たのだものね」

 ゾフィーの言葉に、ハッとさせられた。

 そうだ。私には、イースィンドの教育を評価するという使命がある。万人に示す評価には、主観を交えてはいけない。どのような一文を記すにも、明確な根拠が必要なのだ。

 評価に必要なのは、客観のみ。不快感など、主観の極みではないか。

「まだ、例の先生とはお会いになってはいないのでしょう? 失望にはまだ早いですよ」

「そうね。肝心の実技担当、サヤマ教諭は、ジパング出身だと聞く。ジパング人は、バルトロア人と似たところが多いのでしょう?」

「ええ、私も若い頃に一度出会ったきりですが、その方は勤勉で礼儀正しく、かつ、合理的な方でしたよ」

「私が読んだ書物にも、そのように書かれていたわ。加えて、サヤマ教諭は約半年で、イースィンドに『効率』というものを意識させた人物……やはり、期待できるわね」

「ええ、ええ。この度の留学、何も悪いことばかりではございませんよ」

 思えば、担任のレオン教諭も、イースィンド人でありながら、バルトロア気質の人間だった。今日は悪いところばかりに目がいったが、なるほど、考えてみれば「最悪」には程遠い。感情と偏見に振り回され、結論を急ぎ過ぎた。反省すべきことだ。

「姫様。明日は迷宮での実習だと聞きました。早速、サヤマ先生のご指導を賜れますよ」

「楽しみね。バルトロア式を凌ぐともいわれる、効率的なスキル習得法……必ず、学びとってみせるわ」

 改めて、決意を固める私。そうだ。この留学を無益なものにするもしないも、私次第だ。

 「頑張る」という言葉は使わない。バルトロア人に相応しいのは、「有言実行」のみ。やると言葉にしたからには、やる。失敗などあり得ない。

 そうでなければ、民に示しがつかない。私や、他の留学生たちは、王侯貴族だ。結果を出せぬ者が、他者の上に立つなどあってはならない。

 王族、貴族たるもの、常に己を律し、国益を第一とし、自分ができる最大限のことを……。

「ドロテア様っ! いらっしゃいますか!」

 ……常に己を律し……。V26即効ダイエット

「あぁ、ドロテア様っ! 私、怖かったんです! 発情した猿のようなイースィンド人たちが、私の体を舐め回すようにじろじろ見つめてきて……」

 …………常に己を、

「中等部三年S組のSって、『猿』のSですよ! もー、ひそひそ話でさえも、キーキーキャーキャーうるさくて……イースィンド訛りが、聞くにたえませんでしたよ!」

 ………………常に、

「ドロテア様はいかがでしたか? 嫌な思いはなさいませんでした? ああ、私、そのことだけが心配で、心配で……」

 ……………………。

「せめて、私がお傍にいられたらいいのですが……あぁ! ドロテア様と同じ年、同じ月、同じ日に生まれなかった我が身が、つくづくうらめし」

「【フローズン・ソーン】」

 耳障りな雑音ごと、エレオノーラを氷の茨で縛り上げる。〈凍結3〉状態にもなれば、しゃべりたくてもしゃべれないだろう。

「ゾフィー。これ、片付けておいて」

「はい、姫様」

 やはり、ゾフィーは頼りになる。氷のオブジェをひょいとかついで、窓から放り捨てた。実に無駄のない動きだ。

 しかし、エレオノーラにも困ったものだ。留学生として選ばれるほどの力量の持ち主なのだが、どうにも姦しい。私を慕ってくれるのはありがたいが、必要以上に口を開くのは、バルトロア女性としていかがなものか。

 ともあれ、どうにも意気込みが空回りしてしまった。せっかく、決意を新たにしていたのに台無しだ。

 こんな日は早めに夕食をとり、寝てしまうに限る。睡眠は気持ちの切り替え、疲労回復のために最も有効な手段だ。

 質の良い睡眠で、気持ちもコンディションも整え、明日の迷宮実習に備えよう。

 そう決めた私は、ゾフィーにその旨を伝え、食堂へと向かった。





「おはようございます、ドロテア様」

 かけられた声に振り向けば、そこには大貴族の娘がいた。

 フランソワ・ド・フェルディナン。フェルディナンといえば、バルトロアにまでその名を轟かせている、知らぬ者なき大貴族だ。

 二十年前の戦争では、先代当主ジェローム指揮下の〈魔導大隊〉が猛威を振るった。荒れ狂う炎の渦に、数多くのバルトロア騎士が飲み込まれていったという。

 〈火炎の鬣フェルディナン〉、〈魔導大公〉、〈死を振り撒くもの〉……これら全ては、ジェローム・ド・フェルディナンを指す二つ名だ。口汚い言葉でなら、それこそ数え切れないほどのあだ名で呼ばれていただろう。

 彼は、まさしく脅威であったのだ。圧倒的な力をもって、敵を押し潰す。微塵に砕き、欠片たりとも残さない。イースィンドの武の体現者は、恐怖をもってバルトロア人の記憶へと刻み込まれている。

 そのような人物の血を受け継ぐ者だ。やはり、他の学生とは一線を画している。

 現に、フランソワは微笑んでいるが、その目には何の感情も浮かんでいない。好奇、打算、友愛、嫌悪……そのどれもが感じられない瞳は、まるで底が見えない湖のようだ。

 分かる。この目は、観察者の目だ。どこまでも冷徹に、対象の全てを測ろうとする目だ。彼女にかかれば、私など虫ピンに刺された昆虫標本と同じということか。

 …………面白い。

「ええ、おはよう、フランソワさん」

 私が、このドロテア・イザベル・フォン・ローザリンデ=バルトロアが、虫けらのように見られて気圧されるとでも? 小娘のように怯え、屈服するとでも?V26Ⅲ速效ダイエット

 面白い。全くもって、面白い。軟弱な精神しかもたないイースィンド貴族の子弟の中で、このような気概をもった者がいるなど、実に面白いことではないか。

 さすがフェルディナン。さすが西方の大貴族。

 気にいった。私はフランソワ・ド・フェルディナンを気にいった。彼女と同じクラスになったことは、この度の留学における数少ない幸運だ。

「フランソワさん。これから、よろしく」

「ええ、こちらこそ。バルトロアの流儀を存分に学ばせていただきますわ」

 握手を交わし、私たちは微笑む。握った手から、揺るぎない自信と誇りが伝わってくる。

 これが、フランソワ・ド・フェルディナン。いずれはイースィンドを支える、大貴族の娘。

 相手にとって不足はない。私とこの娘は、好敵手であり……。

「うーっす。おはよーさん」

 ……私とこの娘は、

「うおっ!? 時間間違えた……十分もはよ来ちまった」

 …………私とこの、

「すげー時間を無駄にした気分だ……朝の十分だぞ、おい」

 ……………………。

「おぉ、ベルベット。今日もシャンとしてんな~。俺は眠たくてぐんにゃりだわ」

 誰だ……! 大事な場面に、気が抜けるような言葉で水を差す者は誰だ……!?

 あれか。あの男か。なるほど、見るからにだらしがなさそうだ。

 なんだ、あの寝ぐせを微妙に残した黒髪は。なんだ、あの気だるげな半開きの眼は。そこからのぞくは、黒い瞳か。まるで〈悪魔〉のようだ。

 ………………ん? 

 ………………〈悪魔〉?

 ………………あれ?

 あれ? あれ……!?

 あ、あああ、ああ、あああああ……!?

 あの髪……! あの眼、あの顔は……!

「トイフェル……!」

 暗い海の底から浮上するように、私の脳裏に、あの夜の光景が浮かび上がってくる。

 宝物庫で踊り狂う三匹の〈悪魔〉。

 鳥、犬、魚……それぞれが異形の頭をもつ、恐るべきトイフェルたち。

 ぎょろりと、物影に隠れていた私に向けられる〈悪魔〉たちの瞳。

 ぼそりぼそりと交わされる、〈悪魔〉たちの言葉。

 私を貫かんと迫る、歪な嘴。

 そして―――。

 魔の山で死んだはずの〈悪魔〉たち。その内の一体が、今、私の目の前にいた。V26Ⅳ美白美肌速効

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星の下で

俺達の暑い夏は終わった。
 
夏休みも終わり、暑さだけでは夏は続いているが気分的には夏が終わる9月。
 
そして、学校がはじまり始業式を迎えた。三便宝
 
始業式の後は、クラス分けのテストがある。
 
今までの目標はAクラス。
 
でも、俺の好きな子はSクラス。
 
ということは、狙うのはもちろん……。
 
Bクラスの俺が狙うのには天と地の差があるくらいだった。
 
でも、今の俺になら可能性はゼロではなかった。
 
ランクテスト終了から3時間後、クラス分けの結果が発表される。
 
そして……俺は彼女を屋上に呼び出した。
 
蒼い空と白い雲、晴れ渡った今日は、俺にとって忘れられない日になるかもしれない。
 
「あ、あの……」
 
屋上のドアが開き、唯が現れた。
 
『クラス結果が終わったら屋上に来てほしい』
 
彼女はちゃんと来てくれた。
 
「あの、Sクラス合格おめでとうございます」
 
そう、俺はBクラスではなく、Aクラスでもなく、Sクラスに入ったのだ。
 
「ありがとう、夏休み中に唯さんが教えてくれたから」
 
「私だけじゃなく、雄太さんの努力の結果ですよ。でも、どうしてSクラスに?」
 
祥子の件がなくなった俺にはもう上のクラスを目指す理由がないと思ったのだろう。
 
「俺が勉強していたのは好きな人のためだったろ?だから、同じクラスになりたかったんだ。祥子がAクラスだったから目指したように、唯がSクラスだったから目指した」
 
彼女の表情が驚きの表情にかわる。
 
俺はもう一度、その言葉を口にする。
 
「唯、俺はキミの事が好きだ。友達としてじゃなく、恋人として俺の傍にいて欲しい」
 
彼女への告白。
 
唯には俺の想いは届くのだろうか。
 
「……はじめて、あなたに出会った時は初恋の人に似ていたから興味をもっていました。だけど、今は雄太さんだから、興味をもって……」
 
彼女はいつもとは違う恥らうような微笑で、
 
「好きになりました」
 
俺に想いを告げてくれる唯を抱きしめる。
 
そして、どちらからともなく唇が交じり合う。
 
「祥子さんの事があったのに、どうして私を好きになってくれたんですか?」
 
唯の言葉は幸せの中にある僅かな不安だったのだろう。
 
だから、俺は彼女に伝えた。
 
「唯の優しさ、思いやりに惹かれて、もう唯の事で頭がいっぱいだったから」
 
俺達は今日から恋人として始まっていく。
 
祥子との恋愛は傷つく痛みを知った恋愛だった。巨人倍増
 
だけど、唯との恋愛はその傷を乗り越えていける恋愛だと思うんだ。
  
 
あの告白から、3ヵ月の月日がたち、季節は12月になった。
 
雄太はSクラスの授業にはじめは混乱していたが、さすがというべきか、あっというまにそれ相当の実力を身につけていた。
 
彼と私の関係が変わったように、私達自身も変わっていく。
 
私は吹奏楽部に入って他人と積極的に接する事にした。
 
今までの私はどこかで他人を拒絶していたからだ。
 
トラウマの克服、とまではいかないけれど、昔の私に戻りかけている気がした。
 
雄太は再びバスケ部に入って、レギュラーとして頑張っている。
 
何でも以前は1年でレギュラーを取るほどの実力だったらしく、彼の復帰はバスケ部にとって期待されていた事らしい。
 
2人とも勉強に、部活に大忙しで自分の時間も満足にとれない状況が続いた。
 
でも、どんなに忙しくても最優先なのは……私と雄太が一緒にいる時間だった。
 
それは昼休憩だったり、放課後だったり、そんなに多くの時間は取れないけれど、2人で一緒にいる時間が私の至福のひと時だ。
 
きっと、これからもそんな関係が続けられる。
 
だって私達は愛し合っているから。
 
クリスマスの近いある日の放課後。
 
その日はひさしぶりに一緒に帰れる事になった。
 
「こうやって2人で帰るのは久しぶりだよね」
 
寒い中を彼と腕を組みながら歩く。
 
「そうだな。2人とも部活で忙しくて、中々時間とれないからしょうがないけど」
 
「雄太は特に期待されてるからバスケ部が離してくれないし」
 
少し愚痴めいた口調で彼に言う。
 
「そういうな。俺だって唯といる時間は大切だから、できるだけとるようにしてる」
「わかってるよ。私も応援してるから、文句は言わない。だって、2人の時は私を愛してくれてるの十分感じるしね」
 
私は彼の頬にキスをする。
 
彼に恋をしてから、私は積極的になっているみたいだ。
 
自分でも抑えられないというのが妥当な答え。
 
私に幸せを与えてくれるのは、彼だけだから。
 
逆に雄太を愛しているのは私だけという気持ちもある。
 
「唯、ホントに変わったよな」
 
「今の私は嫌い?前のままの方がよかった」
 
私は彼を雄太と呼ぶ事にして、彼の前では口調を本来のモノに変えた。
 
敬語口調は正巳の事があってから自分を守るために作った偽りの姿を演じていただけ。
 
だから、彼の前では素直になりたくて、本来の口調で彼に接している。
 
はじめは、彼も驚いていたようだけど今はそんな私も受け入れてくれている。
 
「今の方がいいよ」
 
そう言ってくれる彼。
 
今なら言えるかもしれない。中絶薬RU486
 
私は今まで言えなかった事を話すことにした。
 
「あのね……、祥子がクリスマスに皆でパーティしようって誘ってきてるんだけど、雄太はどう?行く気ないかな?その……雄太の気持ちがまだダメならしょうがないけど」
 
人は簡単に想いを振り切れるわけではない。
 
私が正巳を振り切るのに時間がかかったように。
 
気にしていない素振りを見せる彼にだって祥子の話題は避けていたし、あれから彼女と話すこともないみたいだ。
 
凱君とは仲良く話している所を見る限り、友情は続いているみたいだけど。
 
黙ったまま考えごとをする彼。
 
無理もない、と思う。
 
「いいんじゃないか。唯が一緒なら、俺はどこにでもついていくよ」
 
それは予想していなかった答えだった。
 
てっきり、断られるモノだと思っていた。
 
「いいの?もちろん祥子と凱君も来るんだよ」
 
「唯は俺がまだ引きずっていると思うのか?確かにあの時の俺は彼女の事で精神的にショックを受けていた。けれど、唯を好きになって俺は救われたから。俺には唯がいるから、俺はもう迷わないし、悩まない。心配することない、大丈夫だよ」
 
彼は私の腕を振りほどいて真っ直ぐ私のほうを見つめてくる。
 
「だから、ずっと俺の傍にいてくれ」
 
「うん。私は雄太の傍にいるよ……」
 
私も雄太のおかげで、正巳の影を振り切れ、こんなにも誰かを愛せる自分を取り戻せた。
 
これからどんな困難が待っているかもしれないけれど、私は彼を好きでい続ける。
 
それが私の望む未来へ続いていく鍵なのだから。
 
私は満天の星空の下で、私達の幸せを願った。MaxMan

幸せの代価

この幸せを壊したくない。
 
俺の傍に杏がいてくれる、その幸せを……壊したくなかった。
 
杏は俺に好意を持っていた。
 
幼馴染としてではなく、男女としての好意を抱いているのに気づいてた。VIVID XXL
 
数週間前、俺はついに杏から好きだと告白された。
 
好き、と面を向かって言われた時、俺は彼女に答えを出せなかった。
 
もちろん、彼女の事は嫌いじゃない。
 
その告白を受け入れられなかった理由はひとつ。
 
俺には既に杏に隠れて付き合っている恋人がいたから。
 
その相手は彼女の親友、奥村華鈴。
 
だから、俺は杏に真実を告げられずに今まで通りの関係を続けている。
 
その後も何度も彼女に告白されたが、明確な答えを言えないでいた。
 
彼女を傷付けてるのはわかっているが、この関係をもう少し続けていたい。
 
俺はそんな自分勝手なヤツなんだ。
 
杏と遊びに行く約束をしていた日曜日。
 
いつものように彼女を自宅へ迎えに行ってから、俺達はデートをしていた。
 
杏と一緒に買い物をしたり、映画をみたりする事は、俺が華鈴と付き合いはじめてからも幼馴染として続いていた。
 
今日は話題の映画を見た後にファーストフード店に入る。
 
適当にバーガーやらポテトやジュースを頼み、他愛ない雑談をしていた。
 
しばらくして、杏が俺の方をじっと見てるのに気づく。
 
「どうかしたのか?何かついてる?」
 
「ふふっ、何でもないよ」
 
と言いつつもまだこちらを見てる。
 
「……な、何だよ?その視線がすごく気になる」
 
「別に、そういうんじゃなくて……やっぱり、恥ずかしいから言わない」
 
杏にしてはこういう態度は珍しい。
 
いつもはもっとはっきりと自分の気持ちを言うのに。
 
「別に言ってもいいのに?」
 
「本当に笑わない?」
 
「笑わないって。俺がそんな奴じゃないのは知ってるだろ」
 
幼馴染というは相手の良い面も嫌な面も知ってるものだ。
 
杏は少しだけ躊躇ってから言葉にした。
 
「こうしてるとホントの恋人みたいだなぁって」
 
微笑しながらジュースに口をつける彼女。
 
こういう時の彼女はすごく可愛い
 
杏の顔を見慣れた俺でさえ見惚れる笑顔。
 
これも遠まわしに「早く告白の答えを出して」って言ってるんだろうな。
 
俺は彼女の髪をそっと撫でてやる。
 
「それをどうして笑うと思ったんだ?」
 
「だって、また言ってるとか思ったでしょ。私本気なのに、真剣に考えてくれないもん」
 
「そんなことないぞ」
 
言葉ではそう言っても、行動で示してないと不安なんだろうな。
 
俺が逆の立場なら、と考えれば彼女の気持ちは痛い程わかる。
 
「じゃ、答えを聞かせてよ……」
 
杏が俺の瞳をジッと見つめてくる。
 
真っ直ぐ澄んだ綺麗な杏の瞳に吸い込まれそうになる。
 
「それとこれとは別だ、って何しようとしてる?」
 
そのまま、ぐっと顔を近付けてくる彼女を制止する。
 
「えへへっ。キスして欲しいな」
 
「……バカ」
 
俺はキスの代わりに彼女のひたいに“でこピン”をかました。福潤宝
 
音をたてて鳴り響くと「痛い……」とおでこを押さえ俯く彼女。
 
ほとんど力をいれてないから大丈夫だろう。
 
それにもめげずにこちらを見上げて口を膨らませるんだ。
 
「……キスくらい、いいじゃない。崇弘ちゃんの意地悪」
 
彼女は俺が思っている以上に純粋な子だった。
 
そんなバカみたいに真っ直ぐなところが好きだったりする。
 
俺の事が全てだと言う彼女の気持ちは十分伝わっていた。
 
伝わってはいるのに、その気持ちに答えらなれない自分が嫌いだ。
 
 
 
杏に用事があるからと別れた俺が向かったのは別の喫茶店だった。
 
カランッと音がなる扉を開けて中にはいる。
 
「あら、早かったのね?もう少し時間がかかると思ってた」
 
テーブルでケーキを美味しそうに食べている少女が声をかけてきた。
 
「……よぉ。少し切り上げてきたんだ」
 
その姿を確認して俺は複雑な心境になる。
 
華鈴は特に気にするでもなく、前の席に座るように促した。
 
今日、杏とデートする事はもちろん華鈴に伝えて知っている。
 
華鈴はもちろん杏の気持ちを知っているので、俺が彼女とデートする事を止めないし、杏の好きなようにさせていた。
 
それは裏切り続けている罪悪感から逃れるように。
 
しかし、最近の彼女は何かが違う。
 
それこそが俺の今の悩みでもあった。
 
今日もデート中に突然メールで会いたいと言ってきて、こうして俺は彼女の待つ場所へやってきたわけだ。
 
「何でメールしてきたんだ?」
 
「メールだと迷惑だった?」
 
「いや……そういう意味じゃないんだけどさ」
 
彼女に惹かれて告白したのはこちらだ。
 
華鈴の事を好きな気持ちに変わりはない。
 
「会いたくなって、崇弘にメールしただけじゃない。別に2人のデートを邪魔するつもりなんてないし。だから、デートが終わってからでいいって送ったでしょ。時間はいつでもいいの、私が貴方に会いたかった。それだけよ」
 
「だから来たんだけどさ……」
 
「それじゃ問題ないじゃない。何を気にする必要があるの?」
 
俺が言いたいのはそうじゃない。
 
どうしてこんな事をするようになったかと聞いているのに。
 
口に出しては言えないので、俺は心の中でため息をはいた。
 
最近の彼女はいつもこんな調子で杏と何かあった時にはその後に俺と会いにくる。
 
もちろん嫌なんかじゃないんだけど、今まではこんな事なかった。
 
「杏を騙して付き合ってる。それは確かに悪い事よ、でも……崇弘は私のモノなんだから。よその女にベタベタされて、黙ってみているのは嫌なの」
 
そう言って俺の唇を人差し指で押さえつける。
 
冷たい手をしている、ずっとこのクーラーの効いた室内にいた証でもあった。
 
「もちろんあなたの唇も私のモノよ」
 
そのままキスしてくる彼女を俺は受け止める。
 
柔らかい彼女の唇の感触、吸い付くようにしっとりとしている。
 
華鈴が独占欲が強いのは知っていた。
 
だけど、華鈴の“それ”は付き合いはじめて時間が経つごとに大きくなってくる。
 
「でもさ、こんな事してたら杏にバレやすくならないか?」
 
もし彼女が不思議がって後を追ったりしてたら、いや、杏はそんな事しないな。
 
どちらにしろ、杏に会った後に華鈴と会うのは危険が大きい。
 
「今さらでしょ。私たちが付き合って数ヶ月になるのよ」V26 即効ダイエット
 
「……だとしても、だ。ばれてしまう可能性を考慮に入れておいてくれ」
 
「ばれてしまう可能性。そうね、隠し続けるという事はいつかはそう言うときが来るという事だもの。でも、それは仕方ないわ。私達は裏切りの罪を手にしたの。その代償がいかに重くて、辛いものか。これから知るんでしょうね」
 
付き合い始めてから杏に隠し続けている俺達の関係。
 
すでに彼女はその行為に慣れたのか、それとも杏に知られてもいい覚悟があるのかわからないけれど、この頃はすごく積極的な行動をする。
 
本音で言うと俺はまだ覚悟決まってないんだ。
 
幼馴染の杏との関係壊したくないって思うようになってきたりして。
 
華鈴と付き合い始めた頃はそんなの吹き飛ばすくらいの覚悟はあったのに。
 
いざ、こうして彼女と付き合い杏を騙してるとあの頃の覚悟が薄くなる気がする。
 
俺がこんなダメだから余計に華鈴の行動に敏感になっているのかもしれない。
 
「ねぇ、崇弘。貴方の弱い所は決断力のなさ。自分の選んだ道を後悔を引きずって歩くところよ。それなら最初から自分の望みを抱いてはいけない。自分の選んだ道くらい、しっかりと前を向いて歩いて。そうじゃないと私が不安になるから」
 
それだけの覚悟持って俺は彼女と付き合う道を選んだ。
 
既に時は動き、俺も行動して華鈴を手にした。
 
「貴方は引き返すことはできないわ」
 
「……ちゃんと分かっている」
 
もはや、やり直しも選択しなおす事もできないんだ。
 
俺が華鈴にキスをしたあの屋上から全てはひとつの流れとなって始まった。
 
これは止められない流れ、どこに行き着くのかは誰にも分からない。
 
「それならいいの。いざという時、なんていうから。私はどんな結末になろうと自分の選んだ行動に悔いはない、貴方もそうであって欲しい」
 
そう言って、華鈴は俺に雰囲気を変えて囁くのだ。
 
「もちろん、この後は暇なんでしょう?」
 
「ああ。別に用事なんていれてない」
 
「それじゃ、今度は私とデートして。今からならまだ楽しめるし、いいわよね?」
 
あっという間に会計を済まして、俺の手をとる華鈴。
 
俺は華鈴の事を愛しているけれど、こんな風に彼女が変わるなんて思ってなかった。
 
代価として払ったものは大きいけれど、それでも俺達は幸せの中にいる。
 
その時はそう思っていたんだ。
 
……自分の気持ちが彼女から少しずつ離れている事に気づかないで。
 
分かれた道、その選択肢に俺は何を置いてきたのか。
 
それは大切な絆でもあり、かけがえのないモノでもあったはずなのに。OB蛋白の繊型曲痩 Ⅲ

天使とお風呂で

「ふふーん♪」
 
私、夢月は鼻歌交じりに身体を洗う。
 
お風呂場でのんびりと30分ぐらいお風呂に入るのが私のスタイル五便宝
 
夕食を終えて、私は冷たいシャワーを浴びている。
 
初夏の蒸し暑さから解放される気分。
 
「ふぅ、涼しいなぁ」
 
私は鏡で自分の身体をジッと眺めていた。
 
女の子としては標準的な体型、でも、これじゃ私は納得できない。
 
「もう少しぐらい成長してよね」
 
自分の胸を揉みながら、溜息がちに囁く。
 
私に足りないのは……男の子を誘惑する魅惑の膨らみだと思うんだ。
 
私の双子の姉、星歌の身体のラインを思い出して私は毎回へこむ。
 
どうして双子として生まれたのに、神様は不公平なの?
 
私よりも身長も高いし、胸も大きくて、身体の面では全然相手にならない。
 
「はぁ……これじゃお兄ちゃんを誘惑できないよぅ」
 
ダメだ、このままじゃ……私は勝負にすらならない。
 
私には幼い頃から大好きな人がいる。
 
初めて蒼空お兄ちゃんと出会ったのは私はまだ幼い小学1年生だった。
 
真っ直ぐな瞳、彼に私を見つめられた瞬間に恋に落ちた。
 
子供の頃から優しく私を妹として接してくれた。
 
カッコよくて、クールな印象を受ける私の義理のお兄ちゃん。
 
彼に私を好きになってもらいたい。
 
……それだけが私の願い、私の気持ち。
 
そんな私には恋の強敵がいる。
 
「絶対にお姉ちゃんにだけは負けたくないもんっ」
 
私は身体についた泡を洗い流しながら、そう呟いた。
 
私のライバルは身近にいる、私の双子の実姉……星歌お姉ちゃん。
 
お姉ちゃんから直接、お兄ちゃんが好きとは聞いてないけど、双子だから分かるんだ。
 
星歌も蒼空お兄ちゃんが好きなんだって。
 
あまり積極的ではないけれど、彼女は彼に対して想いを抱いてるみたい。
 
初恋は私の方が早かったのに……なんて言っていられない。
 
恋は勝負、卑怯でも、正攻法でも勝てなければ意味はない。
 
だから、私は先制攻撃としてお兄ちゃんに告白した。
 
大好きだって……言ったはずなんだけど。
 
「……好きだって言っても、何も変わらないのかなぁ」
 
私の告白に驚いたお兄ちゃん。
 
妹としてではなく、女の子としての一面を初めて見せたから。
 
でも……私は寸前で怖くなり、恋人にしてとは言えなかった。
 
……まぁ、結局、彼には妹としてしかまだ見ていないと言われたんだ。
 
告白は失敗、フラれたわけではないけれど、ダメだったことには変わりなくて。
 
あれから私達の関係は目に見えて変わってない。
 
うぅ、それはそれで悲しいよぅ。
 
……私の失敗は妹でいすぎたことかもしれない。
 
ずっと仲良くて、甘えてばかりいた。
 
理想的な兄妹としての関係は築いてきたつもり。
 
でも、妹でい過ぎて恋人とは違うと言われるのは辛いの。
 
「……妹かぁ。それでも今はいいけどね」三便宝カプセル
 
妹は妹なりにお兄ちゃんを攻める方法を考えてみる。
 
さぁて、次はどういう手を使おうかなぁ。
 
ふふふっ、この夏は私にとって激動の夏になりそう。
 
「私を本気にさせたお兄ちゃんが悪いんだからね」
 
私はそう言って、お風呂の湯船に入ろうとしたその時、突然、ガラッと風呂場のドアが開いたんだ。
 
「……え?」
 
湯気がこもる室内に入ってきたのはお兄ちゃんだった。
 
「ふぇ、お兄ちゃん?」
 
「え?あ、えっ!?わ、悪いっ!」
 
私が入ってるとは思ってなかったみたいで、彼は私の身体から視線を逸らした。
 
「すまん、すぐに出るから」
 
「待ってよ、いいじゃない。兄妹なんだから、ほら、一緒に入ろう」
 
「そういうわけにも……って、僕を引っ張るな」
 
私が彼の腕を掴んで止める、彼は恥ずかしそうに顔を赤らめる。
 
「ちょっと待て、夢月。落ち着け。とりあえず、タオルをつけろ」
 
彼に身体を見られてもいいんだけど、大人の事情により、私はタオルを身体に巻いた。
 
よせて、あげて……頑張って谷間を作って、お兄ちゃんを悩殺♪
 
……うぅ、見た目でそんなに変わらないのが悲しい。
 
「お兄ちゃんも大事な所を隠したら……?」
 
「妹よ、真顔でこっちを見ないでくれ」
 
 
 
……。
 
と、いうわけでお兄ちゃんと一緒にお風呂に入ることになりました。
 
わーい、子供の頃以来だからすごく楽しい。
 
「間違ってる、兄としてこれは間違っている」
 
ぶつぶつと言いながら、お兄ちゃんはお風呂に浸かっている。
 
「お風呂の時間を間違えたのはお兄ちゃんでしょ?」
 
私達は普段からこういうミスがないように時間で決めているんだ。
 
でも、今日はお疲れ気味らしくて彼が時間を間違えて入ってきたってわけ。
 
私にとってはチャンス到来だけどね。
 
「……普通は『きゃーっ』とか叫ぶだろ。何で、普通に僕を受け入れる?」
 
「愛してるからに決まってるじゃない。それに、叫んだらお姉ちゃんに怒られるのは私だもん。細かい事は気にしないで。今さら恥ずかしがる間柄でもないでしょ。お兄ちゃんと私はお互いに見せ合いっこした仲でもあるし」
 
「僕の人としての尊厳を守るために言わせてくれ。あれは幼い頃の過ちだ」
 
小学生の頃はよく私はお兄ちゃんと一緒にお風呂に入っていた。
 
まぁ、いろんなこともしたけどね、ふふっ。
 
お年頃になってから、お兄ちゃんがお風呂から私を追い出すようになって自然に一緒にお風呂には入らなくなったんだ。
 
娘がお風呂に入ってくれなくなったパパのような気持ちだったのを思い出す。
 
「夢月も成長したから、こういうのはマズイだろ」
 
「えへへっ。いくつになってもたまにはお風呂ぐらいいいよ」
 
「……中身は変わってないようだ」
 
「それは禁句!もうっ、お兄ちゃんも意地悪な所は変わってない」
 
私の家のお風呂はそれなりに大きくて、二人で入っても大丈夫。
 
肩までお湯に浸かると、お兄ちゃんは懐かしそうに語るんだ。
 
「……一緒に入るのは5年ぶりくらいか」蟻力神
 
「そうだね。私が小学6年生くらいだから」
 
寂しかったんだよね、この広いお風呂にひとりっきりで入るのは……。
 
だから、しばらくはお姉ちゃんと一緒に入っていた。
 
「ねぇ……お兄ちゃんって巨乳好き?」
 
「ぶっ!?い、いきなりなんだ?」
 
「この前、ベッドの下で見つけた本とかそんな系ばっかりだったから」
 
「忘れてくれ、夢月。何も見なかった事にしてください」
 
必死に私に頭を下げるお兄ちゃん。
 
「別に男の子なんだからいいよ。むしろ、年頃の男の子にそういう趣味の本とかない方が心配だもんっ。……たまにマニアックな人もいるみたいじゃない」
 
「そういう物分りのいい妹は嫌だよ。うぅ、僕はそういう趣味では……」
 
「つまり、貧乳でもいい?私みたいなのでも許容範囲?」
 
「僕はびにゅ……すまん、妹とそう言う話をする兄は人間として最低な気がした」
 
私でもまだ勝負はできるという事らしい。
 
そういうのは素直に嬉しい。
 
私は彼の身体を眺めながら感想を述べる。
 
程よく引き締まって筋肉のついている身体。
 
「お兄ちゃんも昔に比べて大きくなったよね」
 
「夢月、どこを見て今、言った?お、おい?」
 
「ホント、大きい……触ってもいい?」
 
私が手を伸ばすと彼はなぜか動揺を示す。
 
昔は小さかったのに……いつのまにか男の子って成長してるんだ。
 
「ま、待て、早まるな。それはいけない、これはダメだぁ!」
 
「……背中を触るだけなのに?ダメ?」
 
「わざと言っただろ、お前……」
 
「別に♪勘違いしたお兄ちゃんが悪いんだよっ」
 
彼をからかうのが楽しくてしょうがない。
 
私は湯船から出て、久しぶりに彼の背中を流してあげる事にする。
 
「でも、本当に大きくなったよ。昔は私と変わらないくらいだったのに」
 
彼の背中に触れていると何だか安心できるんだ。
 
背中を洗うと彼はくすぐったそうに言う。
 
「……大人になったからな。僕も成長したってことだよ」
 
「うん……あっ、前は自分で洗ってね。……ふふっ」
 
彼はバッとタオルで隠す、男の子はいろいろと大変だ。
 
「あ、はい。すみません。その配慮に感謝します……。はぁ……夢月は天然なのか計算高いのかよく分からなくなってきた。この可愛い小悪魔めっ」
 
可愛いって褒められたのかな、あはは……。
 
「……お兄ちゃん、大好きっ。愛してるからね。ぎゅーっ」
 
甘えるような声でそう言うと、私は彼にタオル姿のまま抱きついた。
 
「ちょ、ちょっと待て。何か突起が当たってる!?そ、それ以上は……勘弁してくれ」
 
「妹の未成熟な身体に興奮するなんて……お兄ちゃんのエッチ♪」
 
私も結構ドキドキしてるのは多分、気づいてないだろうね。
 
私も感じている……子供の頃とは明らかに違うの。
 
身体の成長以上に、心も成長しているんだ。
 
それまで何度も一緒にお風呂に入ってきたのに、胸の鼓動の高まりが止まらない。
 
私と彼の関係は妹以上恋人未満。中絶薬
 
私はその理想的な関係が長続きする事を望みつつも、更なる関係の発展を望んでいた。

スペシャルデイズ

「……お前、どうするつもりなんだ?」
 
いつものように放課後、僕は園芸部で活動をしていた。
 
雑草を抜いて、肥料をまいたりしていると、信吾お兄ちゃんがやってくる。巨人倍増枸杞カプセル
 
その第一声がそれだったので、僕は尋ね返した。
 
「どうするって、何のこと?」
 
「桜華との関係だよ。最近、ずいぶんと仲が良いようじゃないか」
 
「普通の兄妹に見える?」
 
「いや、桜華が普通の妹じゃないからな。ブラコンでヤンデレで、俺が兄とするならちょっと勘弁してくれと言いたいぞ」
 
ブラコンは分かるけど、やんでれって何ですか?
 
僕は作業を止めると、お兄ちゃんの方へと振り向く。
 
「やんでれっていうのは?」
 
「何だ、そんな事も知らないのか。病んでるデレだよ」
 
「……だからデレって?それは何の言葉なわけ?」
 
彼は「春日は漫画とか見ないからな」とため息をつくと、
 
「ようするに“行き過ぎた愛情”ってやつだな。相手を好き過ぎて心が病んでる。人はそれをヤンデレと呼んでるらしい。危ないぜ、ヤンデレっていうのは」
 
彼は何だか自分に経験があるような言い方をする。
 
「ヤンデレの人と付き合ったことがあったり?」
 
「俺の高校の時の彼女がそれでな、いきなり俺を原付バイクで俺を引いたんだ。全治2週間の怪我で入院をさせられた。彼女は何と言ったと思う?『2週間も信ちゃんの看護ができるね』って笑って言ったんだ。その時の笑顔を忘れていない。女の笑顔の怖さを知った17歳の夏だった」
 
彼はゾッとするようなことを言う。
 
「それから2週間、俺はナースプレイを楽しむ彼女に、入院という名の監視生活をさせられた……。原付バイクで引いた時点で普通にこれって障害事件だよな?」
 
「そ、それは、怖い……」
 
「だろ。俺も学校や警察、親に言うのは躊躇って心の中にしまって置いたぜ。まぁ、当時、俺が他の女と浮気したから、それを睨まれての行動だと今になっては思うが」
 
……いや、むしろ、それは彼女なりの復讐では?
 
浮気をしたお兄ちゃんが明らかに悪い気がする。
 
とりあえず、ヤンデレさんというのは怖い人らしい(作者経験談)。
 
そして、我が義妹もそのヤンデレさんということは……僕もかなりまずい?
 
 
 
家に帰ると誰もいない、脱ぎ散らかされた制服がリビングに転がっている。
 
それを拾い上げると、ソファーに生足が……。
 
すらっと伸びた足、モデルをしているだけあって綺麗だ。
 
「んんっ……」
 
ソファーで寝ているのは桜華だった。
 
熟睡しているのか物音を立てても起きる気配がない。
 
無防備な姿、ていうか、スカートぐらいはいてください。
 
6月に入って蒸し暑くなったのか、シャワーを浴びたのだろう。
 
そして、ゴロンっとそのまま寝てしまった、と……。
 
「とりあえず、服を着てください」
 
僕はタオルケットを彼女にかける。
 
下着姿でよかった、時々、桜華は全裸で寝てる場合があるのだ。
 
べ、別に僕の前ではなく、本人が言ってるだけでそれを見たわけじゃないんだ。
 
……ホントだってば、と誰にでもない言い訳をしてみる。
 
「さて、どうするかな……今日は桜華とファミレスに行こうと思ってたのに」
 
今日は両親は結婚記念日とかでふたりで外食するらしくていない。
 
仲の良いふたりだ、別に僕らはコンビニのお弁当でもかまわない。
 
特別な日っていうのは大事なものだから。RU486
 
「桜華はどうしよう?」
 
桜華がここで寝ていて風邪でもひかれた困る。
 
……どうしようかな、起こす?
 
起こした場合の脳内シミュレーション。
 
『私の裸、そんなにみたいの?見せてあげよっか』
 
そう言いながらこちらに迫る桜華を容易に想像できる。
 
男の子の下半身に非常によくない状況になる可能性が大だ。
 
桜華の性格なら下着姿に恥じらう事は絶対にない。
 
「うん、放置しよう」
 
仕方ない、これも僕の身の安全を守るためだ。
 
一応、この状態なら寝ても風邪はひかないはず。
 
こっそりとその場を立ち去ろうとする。
 
しかし、運悪くテーブルの上に置いてある携帯電話が鳴り響く。
 
僕は慌ててテレビの物陰に隠れてしまう。
 
隠れる必要は多分ないけど、ついくせで……。
 
「んぅっ……?」
 
それで桜華は目を覚ましたらしく携帯に手をのばす。
 
「……ふぁい?誰……って、宗岡(むねおか)先輩!?」
 
僕はその様子を見守るが、いきなり起き上がったのでタオルがはだけてしまう。
 
うぉっ……生で下着姿を見てしまいました。
 
慌てて視線をそらす、お願いだから服を着てよ。
 
「いえ、ちょっと寝ていたので。私に何か用事でも?」
 
先輩からの電話らしい、しばらくはとりとめもない会話を続ける。
 
うーん、男の人かな、桜華の話す口調からするとそんな感じが見てとれる。
 
「そういうんじゃないんですよ。……残念ながら、私の片思いです」
 
何の話だろうと気になっていると、桜華はとんでもない事を言う。
 
「先輩は優しいですね。きっと宗岡先輩みたいな人が恋人だったら幸せになれるのに」
 
――ドクンッ。
 
僕の心臓の鼓動が激しく高鳴る。
 
恋人、桜華の好きな人……?
 
いつだったか、僕は和音ちゃんの言っていた事を思い出した。
 
『告白?いえ、桜華はまだしてませんよ?桜華の好きな人はこの学校の3年生の先輩みたいなんですよ。どうにも怪しい雰囲気でした』
 
兄離れしてしまう寂しさ。
 
その時は感じていたけど、全然他の人を想う素振りがなくて。
 
ここ数週間は素直モードの可愛い妹だったので、余計に忘れていた。
 
『まだ、どの人っていう特定の名前までは分からないんですが、中学の時くらいから付き合いのある人がいるらしくて……。その人の事をずっと思っている、そんな素振りを見せていたんです。3年生の人だったんですねー』
 
桜華には僕ではない好きな人がいる。
 
……それが電話の相手の宗岡先輩なのか?
 
楽しそうに会話する桜華を見ているとそう感じてしまう。
 
「今度、また一緒に遊びに行きませんか?私も会いたいですし」
 
桜華は今度その先輩と会うつもりらしい。
 
相手がどんな人なのか分からないっていうのは微妙に不安だ。
 
僕から好意の対象を変えてくれるのはいいけど。
 
兄妹の恋愛は初めから無理なんだ。
 
僕らは理想的な兄妹に近づいている。
 
だからこそ、今の関係は無意味に壊したくないんだ。中絶薬
 
「それじゃ、また連絡しますね。はい。さよならですっ」
 
桜華は電話を切ると嬉しそうに「先輩……」と呟く。
 
彼女のそういう姿、あまり見た事がない。
 
「……くしゅんっ。うわぁっ、寒い。ていうか、何で私……?あー、そっか。シャワー浴びてからすぐ寝てし……まって?」
 
運悪くお互いの視線が交差しあう、僕はとりあえずこう言った。
 
「お、おはよう、桜華。昼寝はいいけど、服ぐらい着ようよ」
 
「きゃっ!!ば、バカっ。お兄ちゃんのバカっ!!エッチ!」
 
僕にソファーの座布団を投げつける桜華。
 
「妹の裸を見るなんて、ひどいわよっ」
 
「誤解だ、そんなところで寝ている桜華が悪い」
 
その攻撃を直撃する僕は顔面に痛みを感じながら慌てて私服に着替える彼女に言う。
 
「それに、いつもはそれくらい堂々と見せつけてるじゃないか」
 
「違うもんっ!あれは……見せていい奴で、これはダメなのっ!」
 
「僕にはその違いがよく分からない」
 
「ふんっ。どうせ、お兄ちゃんは下着と水着の区別もつかないんでしょ」
 
さすがにその区別はつくけど、恥ずかしさの度合いが違うってことなのかな?
 
女の子って本当によく分からない。
 
頬を赤く染める桜華、意外な反応にびっくりだ。
 
彼女の女の子らしい正常な反応に逆に戸惑ってしまう。
 
「……それで、何でそんなところに隠れているの?」
 
「いや、特に意味はなくて。それよりも、誰と電話していたんだ?」
 
「――誰でもいいでしょ?お兄ちゃんには関係ないし」
 
桜華は誤魔化すも何もそこで会話を終わらせる。
 
どうやら聞かれたくない、そんな風に思える。
 
本当に好きな人なのかもしれない……
 
「あっ、それはどうでもいいからご飯食べに行こう?お兄ちゃんを待っていたのよ」
 
「うん。どこにいく?駅前だとファミレスかな?」
 
「えぇーっ。せっかく、お金をもらってるんだからいいところにいきたい。ホテルのフレンチとか、高級ディナーとかさぁ」
 
「……夕食代、1000円でそれは無理。フレンチはダメだけど、フランス料理風のお店にしようか?確か、駅の通りに新しく出来たお店があったよな」
 
僕はそれまでわりと幸せな日々を過ごしていたのかもしれない。
 
どんな形であれ、義妹に好かれていた……特別な日々を。
 
これから僕らの関係が変わってもその日常は続くのだろうか。
 
「今日はお兄ちゃんの奢りで美味しいものを食べてやる」
 
「いや、予算はひとり1000円までって決まってるから」
 
「……そこは冗談でも、いいよって言ってくれなきゃ。甲斐性なしは嫌われるわよ」
 
くすっと微笑する桜華の横顔を見つめる。
 
僕はどうしたいんだろう?
 
彼女の兄になりたいのか、それとも恋人になりたいのか……答えはまだ出ていない。威哥王
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