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澪はトリップ中

「御剣ですと? あの小童、死んでなかったのか」

巴の軽い驚きが言葉から伝わってくる。何とか二人を引き剥がして状況を話し出したんだけど、案の定と言うか二人ともかなりご立腹の様子。中絶薬RU486

「多分ね。それもランサーを殺した筈の竜殺しさんと一緒だった」

まずは全部話しておかないとね。話の途中で一々二人を宥めていても無駄が多いから。

「その辺りは、流石に今はわかりませんな。ただ若が女神に拉致された先の戦場は、恐らくステラ砦攻略の一戦かと。ひどい戦だったようです。ヒューマンの大敗で随分と死んだとか。そうですか、御剣が若に……ほぉ、ふむ……」

危険な目の細め方をした巴はスルーして。

ステラ砦か。聞いた事の無い名前だ。

確かに建築物の付近が一番人が集まっていた。あれがその砦か。把握出来たのは上空に行った時だったから、もう帰ってくる寸前だったけど。結局ヒューマンの負け戦になったのか。

ソフィアみたいな生き物が向こうに回ったのなら、わかるな。あれは恐ろしい生き物だった。多分僕の最後の一撃も嫌がらせ程度にしかなっていまい。

人が人を嬉々として殺しに来る場面も人生初だったな、そう言えば。傍観者じゃなく当事者だったのが今更ながら恐ろしい。

「そうか。あの女神、とんでもない所に落としてくれたな。しかも見つけたって言ったきり、後は何も言わないとか! 本気で死ぬかと思ったよ!」

「若様に、よくも……。女神、許さない」

澪は久々の会話不能状態だ。良い具合にトリップしている。目が完全に色彩を無くし、さらに据わっている。耳はまともに機能してない状態だね。

いきなり暴れに行かないから、当面宥める必要が無くて楽だなとか不謹慎にも思った。

「しかし若にあれだけの手傷を負わせるなど、どうやってやったのでしょうな。その防具に魔力。とても破れるものとは思えぬのですが、しかし結構な深手であった事も事実。うーむ」

「僕の油断と勉強不足。これに尽きると思うよ。いきなり戦場、いきなり化け物でさ。もうパニックだったから」

だって魔法を複数展開するどころか障壁がおろそかになる位ひどい有様だったんだから。

「ふむ……」

「身の丈超える位の巨大な剣を振り回して空中で二回斬りつける女だぞ。その上瞬間移動なのか別の能力なのか、距離を無視してやりたい放題。常時障壁を有効に展開すること、それに一度に使える魔力の増加は急務だと思ったね。今のままじゃ僕の利点が活かせない」

「一度に使える魔力量ですか。確かに。純度や密度はともかく、若は普段あまり多くの魔力を運用しているイメージはありませんな。変換時の効率は見事ですが総量を考えるなら、確かに指輪数個分ほどの魔力はすぐにでも練れて然るべき。澪の時は少々普段の若とは違う雰囲気でしたし」

だよなあ。僕は持ってる魔力に対して使える魔力が少なすぎる。保有するだけで得られるメリットだけでは、あまりに勿体無い。

「学園で魔法の基礎を習えば少しは違ってくると思う。向こうで識にも聞いてみるさ」

「……その件ですが。やはり儂らもそちらに同行した方が良いかと思うのです。いつまた女神が再度の干渉をしてくるかわかったものではありません。見つけた、という言葉からしてあちらも探していて発見したと考えられます」

「……」

「どうか、ご再考を」

確かに、巴が心配するのもわかる。僕だって、友人や家族がいきなり音信不通になって怪我して帰ってきたら心配するだろう。同じ状況を招かないように努めると思う。

「巴。確かに僕も女神の事は気になるよ。でも、だからこそ多分まだ知られてない巴と澪、それから亜空の存在は隠しておきたい。識はもしかしたら既に知られてしまっているかもしれないから戻すより一緒にいてもらう心算だ。今は頼んだ通り、女神の召喚への抵抗方法を調べながら当初の予定を消化して欲しい。ツィーゲに信用できる者を置いておきたいのもあるし」

そう。転移魔法陣で拉致されたんだから識の存在は露見しているかもしれない。でも巴や澪まで全部知られていたとしたら最初の転移か、その前に女神に拉致されて使い潰されている気がするんだ。

ならば、まだ二人の事は伏せておきたい。吉と出るか凶とでるかはわからないけど、これだけの事をしてくれた女神に手札を全部見られるのはぞっとしない。MaxMan

「ふぅ。女神の干渉を打ち消す作用に、妨害されない念話の開発。若から即座に儂らを呼べれば問題は大分解決しますから並行して進めていくのが最善ですな。やれやれどうにも難題ばかりですが、若が我らを切り札の様に考えてくださるのは光栄の極み。来るべき日に備えて今は甘んじて雌伏の時を受け入れましょう」

「悪いな。あの戦場に着いてから皆との繋がりが感じられなくなった。それに念話も不通状態。本当に焦ったよ。多分女神が原因なんだろうけど、その後のソフィアの指輪も気になるんだ」

「最初は女神の結界が原因だと思うのですが。一瞬回復した後にまた戻ってしまったのは、多分女神の干渉を消すナニカが原因。集めるべき情報が多すぎますな。一度その戦場にも赴いてみない事には詳しく申せませんが」

巴が口にした一瞬の回復という言葉も気になる。あの戦場全体に起こっていた事態、それは何とかして把握もしたい。まあ、僕自身が現地に調査しに行くという選択は今すぐ取る手段としては悪手だと思うから自重する。

「何から何まで手間をかけるね。一応、僕から皆の召喚についてはこっちでも努力してみる。約束するよ、もしも暴れて良い時が来たら絶対に二人を呼ぶって」

面倒事を押し付けてばっかり。すまないねえ、おとっつぁん。女神への対策なんて僕に考え付くのは思う存分弓を射て魔力だけでも奴を超えることくらいだよ。今なら防具も完成して魔力も隠せてるようですからやっちまいましょうかね。

あー、撃ち抜きたい。

「それは楽しみですな。しかしながら、あのような肝を冷やす思いは御免被りますので、何卒召喚ルートの確保は最優先にてお願い致します。儂の杞憂であれば良いのですが、転移魔法陣は極力使わず亜空を介して移動して下さい。多少の門の増加はこちらで管理してみせます」

「あ、うん」

いかん。少し弓道の禁断症状が出てきたかな。食べれなくても寝れなくても弓は欠かさなかったもんな。むしろ当然か。もう射るよ、僕は。ここはもう自重しない。

「人と魔族の戦争はまだ遠く北方。ふむ、となると戦場の検証に別働隊が必要か」

「任せるよ、巴の人選なら安心できる」

少しは持ち上げておこう。お願いしてばかりだし。それに巴なら、大問題を起こしそうな人材に仕事を振ったりする心配があまり無い。過大評価かもしれないけどね。

「有難きお言葉。つきましては澪にも一言下さいませんかな?」

巴が相当困った様子で澪を示す。相手にしたくない、と表情が語っていた。

「……」

澪か。瘴気が非常に濃くなっていて実に近づきたくないな。一応、今回みたいにならないように巴と一緒に対策を考えて、とか言っておくべきか?

うーん。

うん!

だが断る!

スルーする!

「巴が起こしてやってよ。僕は識が待っているし、もう行くよ。一人で並ばせておくのも可哀相だろう? 識はまだ状況を何も知らないんだし」

「……御意。帰還の際にはサプライズにお気をつけを。後、誤魔化しても駄目ですぞ。一番に識に連絡を取っておりましたな?」

「ま、まああまり順番は気にしないでもらえると有難い。識に最初に連絡したのも他意は無いんだから」

サプライズとか、嫌な一言だね! せめてお楽しみにと言って欲しい。しかも識に念話したの何故かバレているし。

でも今の澪にはもっと触れたくない。巴のサプライズは一応僕に利益のある範囲で仕掛けてくれるから今回は我慢することにしよう。学園が何だかんだと忙しくなれば何時落ち着いて戻れるかわからない。サプライズは別にして、二人が僕が学園にいる間にどんな行動をしたのか、今後報告を聞くのも楽しそうだ。威哥王

だが、女神を警戒してしばらくは連絡も様子を見た方が良いだろう。霧の移動は、あまり控えられないけど。これ、便利すぎるんだよね。位置の記憶はあまり多用出来ないが移動自体にはお世話になってしまうと思う。ここまで亜空を介した移動については女神に気付かれた節は無い。敢えて検証する意味で霧の門は使用していくのも手か。おそらく僕の今回の行動は女神にとって完全に意図した通り、という訳では無い筈だ。となるとあの虫のことだ、文句の一つでも言ってくると想像が出来るからな。その上で干渉が無いなら安全、と判断できるのでは……。

やれやれ、学園都市に入ってもいないのにこれだ。

どちらにせよ、やるべきことは色んな意味での自分磨きなわけで。ロッツガルドで対女神強化といきますか。ヒューマンを知り、魔法を知る前にまたしてもあの女神に引っ掻き回されるとはね。

まったく。

時期が来れば、そっちが探してくれなくても僕から行ってやるから待っていろって。したいこと、目指すもの、それさえ定まったなら別に目立たずにいる必要も無いんだよ?

目立とうが目立つまいが商売は出来るし両親の事を探るのも出来るんだから。

「あ、あの!」

既に学園に向かおうとしていた僕に新たに声がかけられる。体育座りから一転、直立不動の姿勢で愛刀を両手で抱きしめるように抱えている少女がいた。

「あ、コモエちゃん。起こしちゃったか。ごめんね」

「わかさま、ごむりしないでください!いってらっしゃい、ませ!」

子供なんだから敬語なんて無理に使わなくて良いのに。まあ、小さい子が一生懸命話しているのは微笑ましいもんだ。

「はい、行ってくるね。コモエちゃんも巴に苛められたら僕に言ってね」

ひらひらと手を振って僕は霧の門を作る。

「こもえ、がんばります!!」

身の丈よりも長い剣をしっかりと持つコモエ。初代とはあまり会話とかもしてなかった。分体って存在は本人と意識も共有しているのだと思っていたから。でも少なくともコモエは巴とは分離した人格だ。初代は本体である巴と会話も特に無いまま判断しているみたいだったから余計に勘違いしたのか、それともコモエが例外なのか。でもはっきりさせる気は無い。僕は別人だと思って接する。それで良い。

その分も含めて、僕は彼女に優しくなっているかもしれない。消滅した初代への罪滅ぼしになるでも無いのはわかっていても。

ああでも。

巴も、この位に可愛げがあればいいのにねぇ。

識の位置を把握する。

「……若、儂は侍が好きですが……衆道は止めておいて欲しいですな」

「するかっ!」

少しだけ真顔だった巴の一言に僕は断固否定を返す。

最後の言葉に寝起きながらも疲労を覚えたけど、僕は学園都市へと移動した。曲美

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