麗の台詞
テーマ:ブログ聞こえてきた銃声に血の気が引いた。
ドクン、と心臓が鳴る。たまらず会場まで再び駆け出そうとして一歩踏み出した時、後ろから手首をがっしりと掴まれた。
「待ってください!このまま乗り込む気ですか!死にますよ!?」ダイエット
肩で息をしているまだ若い刑事は白夜の手首を掴んだまま、小さく「やっと追いついた・・・」と呟いた。
扉から次々と彼の仲間が現れる。そして聞こえてきた銃声に反応して、所持していた拳銃を取り出していた。
「我々が動くまで大人しく待っててください」
「嫌です」
間髪をいれずに白夜は即答した。思ってもいなかった返答に、一同が唖然とする。いや、半ば予測は出来ていたが、それでも普通は少し位苦しそうに葛藤したり、考える素振りなど見せるだろう。この状態で堂々と警察官に反発するとは思っていなかった。白夜の手首を掴んでいた若い刑事は少し困り顔で焦りを見せた。
「いや、あのそれは困るんですが・・・」
「散々待たされたのはこちらなのに、再び待っていろと仰るのですか。そもそも貴方達が早く来ていれば麗さんが無茶をする事もなかったのですよ。愛する女性が捕らわれているのにただじっと黙って待っていろと?」
言われた刑事は思わず声を詰まらせた。
白夜も彼等が相当やきもきした思いで出動命令が出るのを待っていたのはわかっている。警察の組織が複雑でそれでも早期解決に向けてがんばってくれていたのは、隼人の話から聞いていた。しかし抑えきれない衝動と不安を抱えたまま、じっとこの場で待つなんて耐えられない。せめて状況を確認したい。邪魔はしないから自分も同行させてほしい。
その想いが伝わったのか、刑事に相応しいような鋭い目つきと鍛えられた肉体を持つ男が、嘆息しながら了解した。
「決して無茶はしないと誓ってくれるなら、まあ中を覗くくらいは許しますよ」
突入はさせられないが、と苦々しい表情で告げた。この中で一番リーダーなのか信頼されているのか、彼が決めた決定に反論を唱える者はいなかった。自分達が十分警戒して気をつければいいだろうと視線のみで了解を示した。
白夜は一言「感謝します」と伝えて、警戒心を強めながら会場へ真っ直ぐに向う警察官の後を追った。
ボスが指でぱちんと合図した直後。
黒尽くめの男達が一斉に武器を構え直す姿を目撃した。
ちょ、ちょっと待って!これってかなりやばくない!?
一歩後退するけど、多分背中を見せた瞬間に一発ズガ―ンだ。後ろを見せたら撃たれる。そう思うと逃げ出す事もできないでいた。
捕まえろと命令を受けた彼等が何で銃を構えて私に向ってくるの!か弱い女の子に対してそんなに大勢の男が動くとか、この卑怯者ども!!
「逃げなさい麗!」
聖君の必死の声が聞こえた。自分は椅子に縛られているままなのに、私を案じて逃げろと言ってくれる。近付いてくる彼等と聖君の顔を交互に見つめて、私は必死に考えた。ここでの最善の策は一体何だ!
男の一人が私に銃を向けた。脅しのつもりだろうけど、今は脅しだと確信がもてない。そして情けないほど足が地面に埋まったかのようで動けない。全身汗でびっしょりだった。先ほどまで強がりを見せる余裕もないし、隣に座るK君のことも気になる。
捕まえろと言われたのは私一人。ならK君は見逃してくれるんじゃ・・・?
「K・・・K君、逃げて」
傍観者のようにただ座って黙ってみていたK君は、「そんなことできるわけないでしょ」と淡々と言った。
「女の子一人でがんばらせて挙句に守られるって、俺どんだけ情けない男なの。麗が捕まるなら俺も捕まるよ。格闘技とかは出来ないけど、庇う事は出来るはず。一人で逃げだすなんてしたら、ファンの子から幻滅される」
マイペースな口調でそう言ってから、私を紫の瞳で見上げてきた。巻き込まれているのはK君の方なのに、パニックになるどころか客観的に物事を見ているようだった。そのクールで冷静な眼差しに私の焦りも落ち着いてくる。
「ご、ごめんね、K君・・・でも何か今の台詞かっこよかった。ちょっとときめいたよ!」
なかなかこんな場面で言える台詞ではない。彼の本来の性格から来ているのかわからないけど、どこか達観して歳の割りに落ち着いているところを見ると、次第に恐怖が薄まってきた。これで私より年下って思えない・・・実は年齢詐称しているんじゃ・・・
「失礼だね、していないよ年齢詐称なんて」脂肪燃焼
「っ!?今私の心読んだ!?」
「麗は顔に出やすいからわかりやすい。俺はプロフィール通り23歳だよ」
2歳年下だったか。メイクの所為かちゃんとした年齢までは見た目からはわからなかったけど。
「これが終わったら、何かいい詩作れそうな気がする」とぼそりとK君が呟いた。歌詞をほとんど彼が担当しているからか。こんな状態なのにそんな事まで考えられる余裕のあるK君は大物だと改めて実感した。
「うん、その時はCD送って!だからお互い無傷でここから出よう」
雑談混じりな話をしたから少し冷静さが取り戻せた。焦ったらだめだ。パニックになんてなったらその時点で死ぬ確率が上がる。
今は逃げる素振りを見せたら撃たれるだろう。だから大人しく彼等の言うとおり従う方が・・・
ジャキンとマシンガンのような銃をスライドさせた音が聞こえてきた。仲間の一人は手にロープを持っている。ってどっから出してきたのそれ!さっきまでなかったよね!?
やばい、本格的に捕まる・・・・・・!!
近付いてくる彼等の姿を見たくなくて顔を背けて目を瞑った。
けれどいつまで経っても足音が私に近付いてくる音が聞こえない。ロープで体を縛られる事も、何かで攻撃される事もなく、異変を感じて思わず薄っすらと目を開けようとした。
「麗。あれ」
K君の指で示すほうにゆっくりと顔を向けると、信じられない光景が飛び込んできた。状況が理解できず、思わず驚愕で口を開けた。
「お前ら。一体どういうつもりだ」
低く地を這うような声はボスの物で。ボスが告げた発言は尤もだと思った。
私達に向っていたはずの黒尽くめの男達は、呆然と立ち尽くしている数名を残した全員が、一斉にボスに銃を向けている。椅子に座る彼の周りをぐるりと囲むように、拳銃やマシンガンを頭に突きつけて、他の男はロープなどボスに巻きつけようとしている。ボスを除いて12名いた仲間の男のうち2人は響と森田さん。そして輪に加わっていないのは4名だ。それ以外は全員、ボスを囲むようにして反旗を翻していた。
唖然とする私とK君、そして聖君をよそに、仲間の一人が目出し帽を脱いだ。
「簡単だ。お前が仲間だと思っていた男達と俺達が入れ替わっていただけだ」
現れた顔の人物を見て、思わず「あ!」と声をあげた。
「あの人って柔道のオリンピック選手じゃなかったっけ?あ、もうとっくに引退したか」
K君の言葉につられて頷く。
その逞しい体は衰える事がなく、未だに鍛えられているようだった。引退して何年か経つけど、その人はまさしく数年前のオリンピックでメダルを取った人物。
そして次々と目出し帽を取り正体を晒し始めるのを眺めて、私は信じられない思いでいっぱいだ。だって全員がどうやらこのパーティーに招待されていた人物で、いつの間にか彼等の仲間と入れ替わっていたのだから。
「ど、どーゆーこと・・・?」
脱力しそうになるのを堪えて、ぽつりと呟いた。
「さあ、見たまんまなんじゃない?」
どこか意地悪そうに笑ったK君の顔を見て、瞬時に悟る。
「もしかして、知ってたのこれ?だからそんなに余裕だったの!?」
「うん」
悪びれた様子もなくK君はあっさりと頷いた。続いた言葉に今度こそ脱力したくなった。
「だってこんな面白そうな場面、自分の目でちゃんと見たいじゃん」
案外いい性格をしていると、K君に対する見方が少し変わった。さっきまでのかっこいい台詞も嘘か!
「別に嘘ではないけどね」
「だから、人の心を勝手に読まないで!!」
輪に加わっていなかった4名のうちの2人も帽子を取った。その一人は響で、もう一人は恐らく森田さんだろう。残された2人は戦意喪失になったのか、呆然としたまま動けずに立ち尽くしていた。
「響!どーゆーこと!?」
近付いてくる弟に訊ねると、少し緊張が解けた顔で響は微笑んだ。
「うん。麗ちゃんが僕にやったことをね、森田さんに協力してもらって。さっきのトイレ休憩に行った時に見張りをしていた彼等と入れ替わったんだ」
聞けばどうやら男性トイレには念の為2人見張りをつけていたそうで。男性は体力も力もあるから一人だと抵抗されると言ったら、簡単に仲間の一人が付いて来てくれたそうだ。そして隙を見て森田さんが相手を気絶させて、招待客の中から背格好が似ている人物の協力を仰いだ。トイレに順番に人が行くたびに仲間に交代を伝え、そして彼等自身もトイレに行きたかったからかあっさりと頷いたらしい。そして次々と身包みを剥いで、彼等のフリをして潜伏していたそうだ。
ちなみに仲間だった男達は未だにトイレで捕まっているらしい。恐らくロープか何かで身動きが取れなくさせているのだろう。
一部始終説明されて、思わず言葉を失った。まさかそんなことをしていただなんて・・・!
「助かったけど、なんて危ない真似を・・・!」
「え、それ麗ちゃんが言っちゃう?」
うっ、それを言われると痛い。なにせ私も人の事は言えない・・・。
気付くとボスは武器を奪われた上に数名の人の手でロープを巻きつけられていた。
そして流石に全員と入れ替わる事は出来なかったそうで。取り残されていた仲間の一人がいきなり息を吹き返したかのように、出口に突進してきた。そう、私の後ろにある出口を。肥滿
「どけ―――!!!」
体格のいい男が拳を振り回しながら威嚇するように私に叫んだ。
思わず咄嗟に響の背中をドンと押して離れさせる。でもその一瞬で間合いを詰められて、間近に迫る男に反応が遅れてしまった。
「えい」
小さな掛け声とともに、K君が絶妙なタイミングで男の足を引っ掛けた。目の前で倒れかける男に止めを刺すように、思わず反射的に私の右足が出た。
ガン!
そのまま倒れる男の左肩を踏みつける。
「うわ、麗・・・ヒールで踵落としは容赦がないね」
「ち、ちがっ!今咄嗟に足が出ちゃって!!」
踵落としをするつもりはなかったんだよ!
それに頭を狙わなかっただけありがたく思って欲しい。そのまま唸る男の体をピンヒールでぐっと踏むと、暴れていた男が変な呻き声を出して大人しくなった。
「いくらスリットが入っててあげやすくても、ドレスのまま脚を上げる真似、男の前でしちゃダメだよ。さっきビリって音したけど、大丈夫?」
「え、嘘!あ、ああ・・・!スリットが破れた・・・」
よく見たら膝上5cm程度だったスリットが、今では太ももの真ん中あたりまで破れていた。埃塗れになったり、裾を焦がしたり、スリットが破れたり・・・散々な目に遭っているドレスはもう使い物にならないだろう。
諦めの溜息を吐いたところで、K君が再び話しかけてきた。
「ね、麗。そのままさ、女王様っぽい台詞言ってみて」
「は?何それ!嫌だよ、何で私が!」
「いいじゃん。今ぴったりだし。男を足蹴にしているんだから似合うと思うよ」
それはしたくてしているわけじゃない!
踏みつけている足をどかしたら、この人また暴れるかもしれないじゃん!!
「『頭が高い。地面に這い蹲んな、この豚男』とか」
な、なんて台詞を・・・!!
でもどこかワクワクしているK君の顔を見ると、ある意味彼にはお世話になったし、その台詞を言う位大したことじゃないかと思えてくるから不思議だ。もしかしたらアーティストとして何かのインスピレーションを得ようとしているのかもしれないし・・・
一度唸って考えた後、「一度だけだよ?」と訊ねた。
一息深呼吸をして、右手を腰に当てながら男を見下ろして言い放つ。
「頭が高い。地面に這い蹲んなさいこの豚男!」
コレで満足か!とちょっと呆れた笑みでK君を見たら、K君は一言「あ」とだけ呟いて私の後ろに視線を向けていた。
つられるように後ろに視線を向けてみれば、いつの間にか開け放たれている両開きの扉が。扉を開けたであろう若い刑事っぽい男は、まずいものを見たかのように咄嗟に視線を逸らした。そして刑事の後ろから現れた人物を見つけた時。いっきに顔から血の気が引いた。
「と、とととと東条さん・・・・・・」
え、どれが?と訊ねるK君の問いは完全に無視して、私は気絶したいほど後悔した。
唖然とした顔で私を見つめるその視線は、私と足蹴にしている男に向いていて。
あんなにも会いたいと願っていた人物に会えた事が嬉しいはずなのに、この状況では全く喜べないでいた。
なんで今このタイミングで来るんですか・・・・・・!!!減肥茶