2012-11-09 16:31:41

それを僕にやれと?

テーマ:ブログ

「お帰りなさいませ、若。丁度連絡をつけようと思っていた所です。実に間が良い」

「巴、珍しいね。お前がこんな時間から亜空にいるなんて。調査は順調なの?」

 いつもは夕食に滑り込みで帰ってくる印象の巴。その彼女が随分早くに亜空に戻ってきている事に驚く。
 巴は僕が命じた内容をこなした後、確か亜空の気候に四季をもたらすとか何とか言って朝から晩まで世界中をぶらついている。以前は見送った世界地図が欲しいと提案されて許可したのを覚えている。Xing霸・性霸2000
 毎日毎日飛び回っている割には、あいつは亜空の案件や和食再現も順調に進めている。脱帽ものの働きぶりだ。こいつ一人一緒にいてくれたら現代でも起業とかやれてしまいそうな有能さ。感謝の意味と、それから地図は高い買物だけどいつか必要になる気もしたからそれ程悩まず購入を決めた。

「さて、その事です。かなりの有力候補を一つ見つけたのです。行動を起こすのは明日からのお祭りが終わった後で構わないのですが若の許可を頂きたく」

 学園祭か。話をしたら澪だけじゃなく、巴もかなり食いついてきたんだよね。結局全員で楽しもうって事になった。亜空もこの一週間は休日にした。休みと言っても、結局皆何かといつも通りに近い生活をする事になるでしょうとエマは苦笑していたな。実に勤勉な人達だ。家族サービスとかすれば良いって言っておいたけど、どうなる事やら。

「有力候補ね。行動って具体的にはどうするの? 僕が行って門を作って戻ってくるだけなら今からでも良いよ?」

 それほどの手間でもない。実際これまで痕跡を残した門からも侵入者なんていないし、いたとして巴達が梃子摺る相手でも僕が亜空に戻って対処すれば良いだけだ。

「……若。確かに若はご自身の努力で力を身に着けられました。自信になさるのも結構ですが、過信は禁物です。一寸先は闇と申します」

「自惚れる気は無いけど、巴たちも認めてくれたんだ。自信にもなるよ。何、そんなに危険な場所なの?」

 過信って程でも無いと思うんだけど。大体女神がいきなり攻め込んでくるような状況でも無い限り、亜空は防衛体制も整っているのに。

「完全に魔族の支配領域の中、ヒューマンがもし順調に戦争に勝ち進んだとしても後数年はかかる場所です」

「……」

 ナンダッテ? 

「それに近くにヒューマンの街の跡地を利用した魔族の砦もありましてな。人よりも魔の理に長けた彼らの拠点近くに亜空への門の痕跡を残すのは愚策でしょう」

「……」

 全くだよ。何でよりによって巴の希望する場所がそんなに危険なんだよ。荒野の一部だった、とかならすぐに行けるし考える事も少ないのにさあ。
 嫌な予感もしてきた。不幸か? また不幸なのか?
 いい加減に幸せも欲しいよ、僕だって。


「若?」

「……ちなみに、お前さ。行動って何をする気? 後、僕に許可も取らないで魔族の砦に接触したのか?」

「何と申されても……安全を確保するだけです。砦へは実際には近付いてすらおりません。実地調査と情報からの分析は同時に行なっています故、大体ですが予測が可能になってきております」

 そう言うのと同時に、巴は色彩豊かな地図を僕に見せる。カラーって訳じゃない。彼女が気候を調査した結果を色で塗り分けているからカラフルな代物になっている。高価な世界地図を塗り絵にしているのか。それも違う。巴が自分が持ち歩く為に複製した方の地図だ。
 確かに。熱帯、亜熱帯、温帯、寒帯……。さらには気温の予想分布から日本の四季との相似具合まで。物凄い情報量が書き込まれている。それが僕にも見て取れる。要点をまとめるのが上手な秀才のノートを見ている気分になった。

「で、ここか。日本の気候との差異は、予想とは言え九割五分は一致すると。これは凄いな」

 しかし何回見てもこの地図は不思議だ。偶然の一致と言えば、まあ終わってしまう。違いもある。
 でもこの世界の地図は僕には何度見ても……。
 歴史上で誰かが作った曖昧な日本地図、そんな印象を受ける。縮尺が狂って、色々と突っ込みどころもある、昔の地図のような。絶對高潮

 例えば九州(と僕には思える場所)。下が末広がり、扇の様に広がっていて終わりは描かれていない。ここは荒野を示している。ツィーゲは陸続きになっている関門海峡上にある。僕らが転移で移動した黄金街道は山陽道、新名神、中央道の半ばまでの高速道路の様に感じた。その先には西にリミア王国、東にグリトニア帝国があって北関東半ばからは魔族の領域なのだろう、滅亡した大国エリュシオン以北はあまり正確には描かれていないように見える。北海道にあたる地域は欠片も描かれてない。存在しないのか発見されていないのか。僕の想像では、これだけ似ているのだから発見されていないのだと思うけど。
 瀬戸内海の代わりに連なる山脈に隔てられた中国地方と四国地方、湖など近くに無いがロッツガルドは琵琶湖の畔位の位置にある。実際の距離感は転移で移動した事もあって今ひとつ掴めないけれど、位置関係は日本の地方に当てはめて結構簡単に覚えられた。海は太平洋、日本海にあたる二つが確認されているようだけど、どちらもその先は描かれていない。何も無いのか、それともさらに世界が広がっているのかは不明だ。相似が日本だけで無いとするなら当然他にも陸地はある筈だけど、外洋の情報自体が希薄なのか、そんな話は一切聞かない。ルトあたりなら何か知っているかもしれないな。

 巴の指し示した場所を見ながら、地図について感じていた事を色々と思い出す。それにしても、この場所、確か……。

「是非確保したい場所です。構いませんか?」

 鼻息荒く、とまではいかないが巴の様子は明らかに逸っている。

「構いませんか、って。安全確保出来ないじゃん。そこ魔族の支配地域なんでしょ?」

「問題ありません。ご許可を頂ければすぐに掃除してしまいますから」

 掃除って。戦う気満々か。

「砦なんだよ? どうやって?」

「正面から潰すまで。問題ありません」

 戦う、のか? 何だか本当に散策でもするように提案されるな。流石に即決は出来ない。問題ありません訳ないだろうと言いたい。うん、言葉が変だ。

「……少し考えさせて」

「仕方ありません、わかりました。良いお返事を期待してますぞ」

 巴はやや不服そうながら引き下がってくれた。彼女を信用していないんじゃない。でも砦を攻撃すると言うのは流石に判断が難しい。果たして軍勢に対する事を巴がどう考えているのか。それに魔族に喧嘩売るのは間違いなく、今後敵視される事もほぼ確定だろう。自分たちの立ち位置を決める決定になりかねない。

「悪いね。まあ、しばらくは学園祭を楽しみながら和の食材作りをのんびり進めてくれる?」

「お言葉に甘えまして。先日若に教えてもらった件で麹(こうじ)への理解も大体出来ましたので色々進められそうです。上手く行きましたらお酒など商会でも扱える物がご報告できるかと。それでは」

「ああ。また夕食の時に」

 巴が去っていく。麹への理解、ね。僕も半分も理解してないんだけどさ。曖昧に話した内容でも巴や識にはそれなりに手にするものがあったようで。感心されて照れくさい思いをしたな。本当に大した事は言ってないから。
 麹に限らず、発酵そのものの説明をおおざっぱにしただけ。目に見えない小さな小さな生物がデンプンや糖を食べてアルコールや旨味を発生させる、と言った感じ。後、アルコールを食べて酢を作る仲間もいるからお酒を造る場所と酢を作る場所は離した方が良いとか、取り留めのない雑学だったと記憶している。
 それでも、巴と識は最後まで聞いてくれた。麹とは特殊な薬か触媒の類では無かったのかと妙に感心していた。時々、あいつらが僕の記憶のどの部分を見て誤解しているのか聞きたくなるな。詳しく調べた訳でもなく、ただ聞きかじっただけの情報を記憶から正確に拾うのは、まあ想像しただけでも難しいってわかるけどさ。あんな触りにもならない話を聞いて行動出来るくらい優秀なのになあ二人とも。
 識なんか、この世界の酒作りなどでも同様の働きをする微生物がいるならそれを応用できないかとぶつぶつと推論を組み立てていた。あいつも最近、土いじりや食品の研究が様になってきているように思う。良いか悪いかはまた別にして。

 巴と別れた後、その足でモンドに会う為に森鬼の住まいを訪れる。ああ、そう言えば彼から森鬼の移住について頼まれていたな。全員を移住させたいと。長老の一人であるニルギストリと言う人がこちらに試験的に住んでいる森鬼の若者が異常に成長しているのを見て議会を納得させたんだそうだ。実際には故郷に寄った若者がお土産に持ち込んだ食材や装備品などが魅力的に映ったのかもしれない。樹刑からの回復が取り合えず可能になった今なら、彼らへの恐怖心ももう無い。向こうが願うなら、別に叶えても良いかと思っている。問題は荒野で彼らが管理している森や一部の草原を今後どうするか位。まだ保留ながらほぼ全員移住は決まりのような状態にある。美人豹

「わ、若様!?」

 気配の接近に気付いたんだろう、森鬼が慌てて近寄ってきて驚きの声を上げる。一人で森鬼の住まいを訪れる事は確かにそんなに無かったから無理も無いか。とは言え巴を連れてくる必要も感じなかったし、澪は鼻歌交じりに料理しているし、識はエマと打ち合わせしてて邪魔する気もなかったからなあ。コモエちゃんは基本この時間はお昼寝しているから論外だし。

「久しぶり。モンドはいる?」

「は、はい! すぐに連れて参ります!」

「いや、僕が行くよ。話があるのは僕だし」

「では隊長の所までご案内致します。どうぞ、こちらです!」

 緊張は全身から伺えるけど、しっかり対応してくれてモンドの所まで先導してくれる。始めの頃とは偉い反応の違いだな。巴のごうも、いや訓練プログラムは優秀なんだと再確認できる。

「やっぱり、他の種族の皆と比べると居住エリアが狭いね。皆を移住させる時期が決まったら引っ越す?」

 村と言うよりも宿舎みたいな扱いだもんなあ。まばらに住居はあるが、村ほどの規模を感じない。正しく仮の住まいと言った佇まい。

「皆の移住はご許可頂けるのですか!?」

「まだ本決まりでは無いけど、殆ど決まりだね。向こうの長老さんたちも大分乗り気みたいだし。それに君達が樹刑を習得する手助けもその内出来ると思うから。よく頑張ってくれている、僕を含めて皆そう思っているよ」

「……っ!? ありがとうございます!! 今後も全力で任務、訓練に臨みます!!」

 随分と真面目な人だ。エリスは見習うと良いよ。何であの性格のまま、過酷な訓練を乗り越えてトップクラスの成績を修めているのか。あれも、色んな意味で奇才なのかもしれない。アクアはあれでも高慢な棘(とげ)が取れて、真面目さが良い方に作用してきていると思うんだけど、エリスは性格的にはあまり変質していない様に見える。あ、モンドに当面エリスの叱り方も聞いておくかな。なんだかんだであいつはお客さんから評判も良い方だしクズノハ商会の大事な従業員でもある。相当な馬鹿をしない限りは更迭する気も無い。甘い、かもしれないけどね。

 事前に連絡していた様子は無かったのに、モンドが家の前まで出てきていた。森鬼、侮れない子。手を挙げて彼に来訪を告げる。深々と頭を下げて応じてくれた。先日のバナナミルク、結局あの日は森鬼に振舞えなかったし、話をして今日の夕食後にでも紹介してあげよう。僕はモンドの所に辿り着くと、彼に移住の話やロッツガルドでの仕事の話、それに新メニューの話を次々に切り出す。

 凄く有意義な時間だった。たっと一つを除いては。

 モンド。

「反省の拳と戒めの蹴りです」

 エリスへの説教方法を聞いたのは僕だ。でもその回答を真顔で言われても僕にどうしろと言うんだ?超級脂肪燃焼弾

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