昨夜、恒例の金美齢さんの花見の会に出かけてきた。今年は桜の開花が早すぎて、すでに桜が散ってからの花見の会になってしまったが、今日はどんな人に会えるだろうかと思いながら、新宿御苑を一望できる金美齢さんのマンションに向かった。
いつも通り、溌剌とした金美齢さんに迎えられて部屋に入っていくと、WILL編集長の花田紀凱さんがおられて、私が今月号のWILLに書かせてもらった「仰天判決で日本からノンフィクションが消える」という記事の反響を伺った。
リップサービスもあるだろうが、反響は上々だそうだ。花田さんの話を聞きながら、私が知財裁判所で受けた判決のひどさを読者が理解してくれていることを感じた。
すると、政治家や新聞記者、編集者などのお客さんの中に、「本屋大賞」を受賞したばかりの作家・百田尚樹さんがおられることに気づいた。金美齢さんがさっそく私を百田さんのところに連れていってくれたのだ。
私と百田さんは、一昨年、太平洋戦争の「開戦70周年」を記念して週刊ポスト誌上で対談をさせてもらった関係だ。以来、1年4か月ぶりの再会である。
あの時は、『永遠のゼロ』の作者である百田さんと、戦争関連のノンフィクションを書いている私との対談だったので、大いに盛り上がった。今回、本屋大賞をとった『海賊と呼ばれた男』も、出光興産の創業者・出光佐三をモデルにした百田さんらしい人生観と歴史観がしっかりした素晴らしい作品だった。
久しぶりにお会いしたので百田さんと話し込んでいると、突然、そこに安倍総理が登場した。金美齢さんと安倍総理は以前から非常に親しい。昨年の花見の会でもお会いしたが、今回も北朝鮮のミサイル発射の危機がつづく中、忙しい中を縫って、顔を見せに来られたようだ。
連日の激務へのねぎらいの拍手が巻き起こる中で、安倍総理は、前日に台湾と結んだばかりの漁業協定について語った。台湾出身の金美齢さんのパーティーということもあるだろうが、北朝鮮のミサイルよりも台湾との漁業協定のことをスピーチするところが、いかにも周りに気を遣う安倍総理らしい。
私も、今回の漁業協定の意味は大きいと思っている。北緯27度以南から先島諸島北側までを日台の共同水域とした今回の協定は、事実上、尖閣諸島をめぐる中台の連携を「分断する」ものだからだ。
中国と台湾の両方が尖閣を「自分の領土だ」と主張するのではなく、一方がその主張を棚上げして漁業協定によって日本と「手を結んだ」のである。
すでに台湾の馬英九総統は昨年夏、尖閣問題で中国とは連携しないことを前提に「東シナ海平和イニシアティブ」を提唱しており、今回の日台の漁業協定締結は、中国にとって痛い。
さっそく中国外交部は会見で不快感を示したが、私は、李登輝・元総統が「われわれは漁業権さえあればいい。尖閣は歴史的に見れば、明らかに日本の領土だ」と発言していたことを思い出した。
民主党政権下では、その台湾側の本音も見通せず、日台関係さえも危機に陥っていた。安倍総理はスピーチで、自身も李登輝・元総統から「尖閣は日本の領土だ」という話を聞いていたことを明かした。
そのスピーチを聞きながら、安倍外交の基本である「自由と繁栄の弧 (the arc of freedom and prosperity)」が着々と進んでいることを感じた。これは言いかえれば“中国包囲網の構築”でもある。金美齢さんら多くの評論家、言論人を前に、安倍総理は、今回の日台漁業協定に対して「歴史的意義がある」とスピーチした。
日本が平和と民主主義を掲げて、アジアでリーダーシップを取ることができるかどうか。アジア各国の期待は大きい。民主党政権という書生のような政権に代わって、少なくとも、その価値を知る政治家が国家のリーダーとなっている意味は大きいだろう。
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ノンフィクション作家。幅広い分野で毅然とした日本人像を描く。