(cache) 紀南新聞
4月7日付
「次世代をつくりたかった」
腹びれイルカ死亡を受け研究者ら記者会見

腹びれがある雌のバンドウイルカ「はるか」の死亡を受け5日、太地町立くじらの博物館で記者会見があった。死因は臨床症状から多臓器不全と判断。はるか研究プロジェクト総括の加藤秀弘・東京海洋大学大学院教授は「進化の中に内在している遺伝的情報を確認できる唯一のチャンスだった。次世代をつくりたかった。はるかが死んで残念だが、ips細胞に可能性を残しているのでよかった」と話した。

 遺伝学的な研究などから5000万年前の鯨類は陸上生活をしていたことが分かっている。その後、水中環境に生活の場を移し適応変化していった。

 研究チームは、後ろ足が発達していた時期と、後ろ足が引っ込んで尾びれが新しくできた時期の間の空白(後ろ足の退化の過程)を、はるかが埋めてくれることを期待し研究を進めていた。

 これまでは血液細胞だけでゲノム解読していたが、今後は採取した筋肉組織を使ってはるかの腹びれの謎を解析していく。

 はるかの個体は病理解剖せず学術解剖とし、レプリカや骨格標本のための型どりをした後、冷凍保存された。

 記者会見には加藤教授、治療に当たった鴨川シーワールドの勝俣悦子獣医師と沖縄美ら海水族館の植田啓一獣医師、くじら博物館の林克紀館長、桐畑哲雄副館長、阪本信二獣医師、三軒一高町長が出席。

 今後の研究はゲノムデータの解析、腹びれ周辺の骨格を含む骨格筋の配置分析などを行っていくことになり、研究の流れを見直すため来週、プロジェクトの緊急会合を開く予定。

 加藤教授は「1年をめどに初期的な結果については取りまとめて発表したい。ips細胞を確保しているので新たな展開があるかもしれない。半年以内に、はるかの実態に迫れるような一般講演会をやりたい」と語った。

 国際的な鯨の学術研究都市を目指している三軒町長は「今後こういうことはなかろうという個体の研究をできたのは良かった。後世に役立つように先生方に研究していただければ」と話した。

 はるかは平成18年10月に太地沖で捕獲され、町立くじら博物館で飼育展示されていた。死亡時の体長298センチ、体重280キロ。推定年齢20歳前後。

記者会見する加藤教授(写真中央)ら