安倍政権が発足して初の党首討論が、きのう開かれた。目を引いたのは、安倍首相が衆院の小選挙区定数の「0増5減」に言及した一幕だ。0増5減の新区割り法[記事全文]
「基準を満たしているか」ではなく、「どれだけ安全か」を追究し、問題があれば遠慮なくストップをかける。国内で原発事故を経験し、裁判所は変わるべきではないか。大阪地裁であった裁判は、そこを考える[記事全文]
安倍政権が発足して初の党首討論が、きのう開かれた。
目を引いたのは、安倍首相が衆院の小選挙区定数の「0増5減」に言及した一幕だ。
0増5減の新区割り法案に対し、野党側は定数削減や制度改革を求めて反発。与野党は全面対決の様相である。
安倍氏は、民主党の海江田代表に「海江田さん、この場で政治を動かそうじゃありませんか」と呼びかけた。
これに対し、海江田氏は「定数削減が一番大きな約束だ。定数削減をやると、ここでおっしゃってください」と切り返したが、時間切れで安倍氏の回答はなかった。
昨年11月にあった前回の党首討論で、民主党の野田首相は一票の格差是正と定数削減を安倍氏に提案し、引き換えに衆院解散の勝負に出た。
それから5カ月。いまだに同じところで堂々巡りを続ける国会の能天気さにはあきれる。
まずは0増5減の新区割り法案を成立させ、一票の格差是正に踏み出す。抜本改革は、首相の諮問機関である選挙制度審議会を立ち上げ、衆参のあり方も併せて根本から検討する。
私たちは、そんな道筋が現実的だと主張してきた。
ところが、与党側からは本気で抜本改革に取り組む姿勢が感じられない。
自民党がまとめた選挙制度改革案は公明党への配慮があからさまで、とうてい野党の理解を得られる代物ではない。
これでは、0増5減だけでお茶を濁そうとしていると見られても仕方がない。
一方、野党側のかたくなな態度にも首をかしげる。しかも、抜本改革を求めながら、野党各党の案はバラバラなままだ。
与党は、衆院の再可決も視野に26日までの衆院通過をめざしており、民主党の細野豪志幹事長は「横暴以外の何ものでもない」と攻撃している。
不毛な争いと言うほかない。
民主党は昨秋、0増5減の先行処理にいったんは同意している。このまま何もせず、違憲状態を放置するというのでは、あまりにも無責任だ。
野党は、まず緊急避難的な措置として0増5減の実現に協力する。その代わり、抜本改革について期限を切って具体的な検討スケジュールを示すよう与党側に求めてはどうか。
衆院議長にあっせんをゆだねる道もあるだろう。
互いに言いっぱなしの党首討論では情けない。歩み寄りに向け、各党の党首は指導力を発揮すべきだ。
「基準を満たしているか」ではなく、「どれだけ安全か」を追究し、問題があれば遠慮なくストップをかける。国内で原発事故を経験し、裁判所は変わるべきではないか。大阪地裁であった裁判は、そこを考える課題を残した。
全国でここだけ運転している関西電力大飯原発3、4号機の停止を、周辺府県の住民が求めた仮処分の申請だった。
大阪地裁は、2基の原発が国の今の基準を満たし、想定を上回る地震が起きても安全は保たれると判断し、求めを退けた。
住民側からは「時代に逆行している」との批判が相次いだ。
仮処分の審理は急ぐので、裁判所が住民と関電の主張を十分に聞いているわけではない。
それを考慮しても、原発事故後の初めての司法判断としては、期待はずれとの思いがぬぐえない。
住民側は、政府が決めた暫定的な安全基準は不十分だとし、原発周辺の三つの活断層が同時に動くなど、想定外の地震が起きれば重大事故につながる恐れがあると訴えた。
これに対し地裁は、暫定基準は「現在の科学技術水準に照らして合理的」と評価した。3連動地震が起きる恐れがあることは認めたが、関電側が主張した安全機能が働き、原子炉を問題なく止められると述べた。
政府が決めた基準を判断の根拠とし、それを満たしていれば安全とするのは、愛媛県の伊方原発をめぐる92年の最高裁判決以来の司法の主流だ。
専門家がつくった基準の是非を判断するのが難しいという考え方が根底にある。
ただ東京電力福島第一原発の事故は、時として科学の想定を超える災害が原発を襲い、甚大な被害をもたらす実例を突きつけた。暫定基準だけで原発を動かし続けていいのか。地裁はその判断に踏み込まなかった。
一方、原子力規制委員会が活断層かどうかを調べている敷地内の断層については「地滑り跡の可能性が高い」と述べた。
周辺で起きる津波の最大高さについても、安全限界を超えることはない、と判断した。
どちらもいま議論になっている問題だ。現時点で安全と断言するのは勇み足ではないか。
関電は近く、規制委の新規制基準に大飯が適合していると報告し、運転の継続を求める方針だ。ただ、基準が「100%の安全」を保証するものではないことは規制委も認めている。
3・11後の司法には、住民の安全の視点にたって、積極的な役割を果たしてほしい。