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野口悠紀雄「日銀が引き金を引く日本崩壊」
【第1回】 2013年4月18日
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野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]

【新連載】
円安が進んでいるが、実体経済は停滞したまま

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季節調整後も輸出数量は
減少している可能性

 ただし、以上で見た数字は、季節変動を含むものだ。季節変動を除去した場合に、ここ数ヵ月間で輸出数量が減少しているのか否かは、これまで見た数字では確実には分からない。この問題の答えは、正確には、GDP統計を見ないと分からないのである。

 以下では、その数字が分かるまでの暫定的な評価を行なってみよう。

 貿易統計においても、季節調整済みの値が「参考」として算出されている。その値を現実の価格指数で割った値の推移を見ると、図表5のとおりだ。

 円安が始まった11月には、10月に比べて大きく減少した。その後増加したが、2月に大きく低下している。水準は12年3月以降で最低だ。したがって、季節調整後の値でも、円安が実質輸出を増やしているとは言い難い。

 なお、すでに述べたように、今年2月の輸出は、中国春節の影響を受けている。しかし、上で算出した値の1月と2月の平均値0.858は、12月の数字0.872より小さい。

 したがって、季節調整後・中国の春節影響除外後でも、輸出数量は減っている可能性が高いのである。

 なお、前年に比べれば、大きく落ち込んでいることは確実だ。

 輸出数量(正確には実質輸出)が円安によってどのように影響されるかは、今後の日本経済を考える上で、重要なポイントだ。

 一般には、「輸出数量が増えないのは、一時的現象。円安が続くと、日本からの輸出の現地価格が引き下げられ、輸出数量が増加する」と考えられている。そうなるかどうかは後で検討するが、あらかじめ結論を言えば、そうはならない可能性が高いのである。

 もちろん、輸出数量が将来増加する可能性はある。しかし、それは世界経済が好転して輸入が増えた場合のことである。円安によって日本の輸出の価格競争力が高まることによって輸出が増大するという事態は、生じないと考えられる。言いかえれば、今後の日本のGDPの状況は、主として海外の事情によって決まるのであり、日本の経済政策によって決まるのではない。

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  • 第1回 【新連載】 円安が進んでいるが、実体経済は停滞したまま (2013.04.18)
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野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]

1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省入省、72年エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、2011年4月より早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問、一橋大学名誉教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。主な著書に『「超」整理法』シリーズ、『世界経済危機 日本の罪と罰』『日本を破滅から救うための経済学』等がある。 野口悠紀雄ホームページ

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野口悠紀雄「日銀が引き金を引く日本崩壊」

日本銀行が新しい金融政策を決定した。今後2年間でマネタリーベースを2倍に増加させ、消費者物価指数上昇率を2%にするとしている。これを受けて、「円安が進行して輸出が増大する。輸出関連企業の利益が増大し、株価が上がる。日本経済は長く続いた停滞から脱却しようとしている」と考えている人が多い。果たして、この期待は、実現されるだろうか?

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