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野口悠紀雄「日銀が引き金を引く日本崩壊」
【第1回】 2013年4月18日
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野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]

【新連載】
円安が進んでいるが、実体経済は停滞したまま

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 円安が顕著になった12年10−12月期においても、輸出が減少していることに注意が必要だ。図表2の実額で見ると、12年1−3月期をピークとして、それ以降は継続的に減少しているのである。これは、中国経済の減速とヨーロッパの景気後退によるものだ。10−12月期の実質輸出は、大震災後の11年4−6月期よりさらに低い水準だ。

 震災による落ち込みをならして見れば、図表2に見るリーマンショック後の実質輸出の推移は、つぎの3つの期間に区別される。

(1)落ち込みからの回復期:10年7−9月期頃まで

(2)安定期:10年7−9月期頃から12年4−6月期まで

(3)減少期:12年7−9月期以降、最近時点まで

 しばしば、「リーマンショック後の急激な円高が日本の輸出の競争力を低め、それが日本経済回復の障害になっている」と言われた。しかし、上で見たように、急激な円高の時代に、日本の実質輸出は(大震災の影響を除外すれば)、減ったのではなく、増えたのである。

 この間に日本の実質輸出が増大した基本的な要因は、すでに述べたように、中国の経済刺激策など、世界経済のリアルな面での要因である。実質輸出に影響を与えているのは、為替レートではなく、世界経済のファンダメンタルズなのである。

 この事実は、今後を考える場合にも、重要な意味を持つことになる。

実質純輸出と実質設備投資の落ち込みが
経済の足を引っ張る

 2007年からの実質純輸出の推移を示すと、図表3のとおりだ(注)。

 経済危機によって大きく落ち込んだあと、回復して、10年には07年の水準を超えた。しかし、大震災で落ち込んだ。その後回復したが、12年1−3月期をピークとして減少している。

 12年10−12月期の水準は、08年10−12月期や09年4−6月期より少なくなっている。11年10−12月期に比べると5.1兆円ほど少ない。これは、12年10−12月期のGDPの約1%である。これだけ総需要が減少しているわけである。

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  • 第1回 【新連載】 円安が進んでいるが、実体経済は停滞したまま (2013.04.18)
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野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]

1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省入省、72年エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、2011年4月より早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問、一橋大学名誉教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。主な著書に『「超」整理法』シリーズ、『世界経済危機 日本の罪と罰』『日本を破滅から救うための経済学』等がある。 野口悠紀雄ホームページ

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野口悠紀雄「日銀が引き金を引く日本崩壊」

日本銀行が新しい金融政策を決定した。今後2年間でマネタリーベースを2倍に増加させ、消費者物価指数上昇率を2%にするとしている。これを受けて、「円安が進行して輸出が増大する。輸出関連企業の利益が増大し、株価が上がる。日本経済は長く続いた停滞から脱却しようとしている」と考えている人が多い。果たして、この期待は、実現されるだろうか?

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