金融緩和が
引き起こす諸問題
他方で、金融緩和は、さまざまな問題を引き起こす。とりわけ問題なのは、つぎの3つだ。
1. 円安とインフレの見通しが高まると、キャピタルフライト(資本逃避)が生じる危険がある。いったんこれが起こると、コントロールは難しい。キャピタルフライトは円安を加速し、それが輸入価格の高騰をもたらす。かくして、スパイラル的な円安・インフレの過程に落ち込む危険がある。
2. 今回の日銀決定による国債購入額は、新規国債の発行額より大きい。したがって、「財政赤字がいくら拡大しても、日銀が買ってくれるから問題ない」という考えが支配的になる。そして、財政規律が弛緩し、財政赤字が拡大する。実際、社会保障制度の改革は焦眉の急であるが、ほとんど忘れ去られている。何らかのきっかけで金利が高騰すると、金融機関の資産悪化、国債利払い費の増大など、きわめて大きな問題が起きる。
3. 本来必要とされる企業のビジネスモデルの見直しがなおざりにされる恐れがある。日本の電機産業は、ビジネスモデルの抜本的な再編成を求められている。ところが、赤字が予想される企業も含めて、企業業績の改善を遥かに超える株価上昇が生じている。これによって真の問題が覆い隠されてしまい、問題が深刻化する。
以上のように判断される基本的な理由は、実体経済が改善せず、したがって資金需要が増えないと考えられることだ。そこで、今回の金融緩和の金融的側面を考えるに先立って、実体経済の動向について見ておくことにしよう。
円高の期間に
実質輸出が増大した
将来を考えるにあたっては、いま何が起きているかを正確に把握しておくことが不可欠だ。そこで、ここ数年の実体経済の推移を見ることから始めよう。
以下で見ることをあらかじめ要約すれば、「2012年11月以降の円安の進展は、輸出数量や国内生産に影響を与えていない」ということである。
実体経済の動向を見るためのもっとも確実なデータは、実質GDP(国内総生産)だ。現在得られる最新のデータは、2012年10−12月期のものだ。