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遺伝子研究は継続
腹びれイルカ「はるか」
死因は多臓器不全


 太地町立くじらの博物館で飼育されていた世界で唯一確認されている腹びれのある雌のバンドウイルカ「はるか」が4日死亡したことを受け、研究プロジェクト総括の加藤秀弘・東京海洋大学教授らが5日、記者会見した。加藤教授らは死因が多臓器不全だったとし、今後も進化の過程を解明するための遺伝子研究を継続することや、姿を後世に残すためにレプリカを作ることなどを話した。(瀧谷 亘)

■死亡までの経緯

 加藤教授によると、はるかは3月20日からエサを食べなくなり、翌日に血尿を確認。鴨川シーワールド(千葉県)の勝俣悦子獣医師や、沖縄美ら海水族館(沖縄県)の植田啓一獣医師らに協力を求め治療し、一時は血尿が止まり、エサも食べるようになったが熱は下がらなかった。

 4月4日午前10時50分に鯨類が死ぬ前にとる行動の「立ち泳ぎ」になったため、担架で取り上げ点滴を行ったが、呼吸が弱くなり、同日午後1時55分に死亡した。加藤教授は「やれることは全部やっていただいた」と述べた。腎臓、肝臓などの多臓器不全になった原因は不明。イルカの血尿は珍しいという。

 はるかの年齢は推定20歳前後。イルカは長いもので45歳ぐらいまで生きる。

 加藤教授をリーダーに三重大学、東京大学などの教授ら18人で構成する研究プロジェクトチームが、鯨類進化史上最大の謎である後ろ足の消失の解明を目指し形態学、遺伝学、生理学などの観点から研究を進めていた。2011年9月、13年1月と2頭、交尾を試みたが、妊娠は確認できなかった。

■長期間かけて解剖

 腹びれイルカについて「おそらく数百年は現れない」と加藤教授。今後は一部採取した細胞を使って遺伝子研究を続ける。子宮と卵巣はホルマリン漬けにしていて、残りの死骸は冷凍保存した。長期間かけて学術解剖する。レプリカを作るための外部形態の型どりは終えていて、来週東京で研究プロジェクトの緊急会合を開き、詳細を決める。

■繁殖できず残念

 加藤教授は「研究は道半ばにも届かなかった。次世代を作りたかった。世界で一頭しかいない個体を預けられたくじらの博物館は大変だったと思う。プレッシャーをかけてきた」。

 三軒一高・太地町長は「亡くして初めて大変なことになったという思い。後世に役立つように研究していただければ」。林克紀館長は「こういう結果になって申し訳ない」。桐畑哲雄副館長は「繁殖を期待されていたが、達成できなかったことは残念」などと述べた。

■カバに近いイルカ

 06年10月28日に太地町の沖合約13`で100頭を超えるバンドウイルカの群れが発見され、追い込み網漁で捕獲されたうちの1頭が「はるか」だった。採捕時は体長272a、体重220`。死亡時は体長298a、体重280`。名前は一般公募し、「はるか昔からやってきたイルカ」という意味で決まり、同博物館内で飼育していた。

 イルカを含むクジラの仲間は5000万年前には陸上生活をしており、現在のカバに最も近い動物だということが遺伝学的な研究などから分かっている。陸から海へと生活の場所を変えていく中で消失した後ろ足の謎を解明するため、研究が進められていた。



世界で唯一確認されている腹びれのあるイルカだった「はるか」


記者会見する(左から)阪本信二獣医師、植田啓一獣医師、勝俣悦子獣医師、加藤秀弘教授、三軒一高町長、林克紀館長、桐畑哲雄副館長=5日、太地町立くじらの博物館
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