ロンドン五輪ボクシングミドル級金メダリスト村田諒太さんのプロ転向、そして女子フィギュア界のアイドル浅田真央ちゃんの引退−と先週のスポーツ界は、2人のスーパースターの進退表明がありました。
村田さんは27歳とプロボクサーとしては遅いプロデビュー。一方の真央ちゃんは22歳のあまりにも早過ぎる引退表明です。対照的な道を選んだ2人ですが、共通する部分もあります。天才的な超一流プレーヤーが持つ「素質」がそれです。
すなわち「努力できる才能」というやつです。
そもそも天才とは99%の努力と1%の才能で成り立っているものです。そのことをお2人とも苦しみの中で体得しているのであります。
もちろん彼らには天賦の才がありましょうが、それを凌駕するものすごい努力も続けていた。
そのすごみがお2人を天才たらしめているのであります。
彼らは、努力を継続する大切さと苦しみを、誰よりも知っている。したがって総じて天才プレーヤーといわれた人ほど引退は潔いものなのです。なぜなら天才は頭ではなく感覚で、自分自身の限界を知っているのですから。早過ぎると思われる真央ちゃんの引退表明も彼女にとっては十分に悩み考えた末の決断なのであります。
逆を言えば村田さんのプロ参戦は、天才としての感覚で、「自分はまだまだ戦える。完全燃焼してない」と考えた末の決断なのであります。
金メダルを取った後のインタビューで、ある記者が「金メダルを取っても淡々としているように見えるが、感動とかは?」と聞きました。彼は、「これがゴールだと思えば涙も出てくると思うんですけど、取った瞬間にこれがゴールなのか、スタートなのか見えなくなってしまった気がします」と答えてます。何と自分に正直な答えでしょう。つまり彼の天性は、より高いステージで戦いたいと心の中で叫んでいたのです。彼は金メダルを取った瞬間にプロのリングが脳裏に浮かんだのでありましょう。
強豪ひしめくミドル級で世界王者になるには、アマチュア時代の何倍もの血の滲む努力が必要となるでしょう。
しかし、天性の才能を超える努力の大切さを知り、克服してきた彼なら強者揃いの中でも必ず世界タイトルを取るでしょう。フジテレビ、所属の三迫ジム、プロモートする帝拳の本田明彦会長、世界最大の広告代理店、電通とバックアップ体制も万全です。これからますます面白くなるボクシング、「あしたのジョー」のラストシーンのように、真っ白い灰になるまで完全燃焼してくれ、村田選手。応援してます。 押忍!
■石井和義(いしい・かずよし) 空手団体「正道会館」宗師で、格闘技イベント「K−1」創始者。著書に「空手超バカ一代」(文藝春秋刊)がある。