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No.3269
2012年11月5日(月)放送
原発作業員が去っていく  
福島第一原発“廃炉”の現実

史上最悪レベルの事故を起こした東京電力福島第一原子力発電所。
廃炉を終えるまでには40年もの歳月が必要とされています。
今、この現場で働く作業員を巡って、深刻な事態が起きています。
放射線の被ばく限度に近づき、仕事を続けられなくなるケースが続出。
待遇の悪化で原発を去る作業員も相次いでいるのです。

元作業員
「毎日誰かがやめて福一(福島第一)からいなくなる。
そういう形が今は多い。」

さらに、東京電力が当初、確保できるとしていた作業員の総数が実際には少ないことも分かってきました。

東京電力 原子力担当
「ある一定の幅を持って、不透明な部分はあると思います。
長期の人材の確保、これが相当難しくなってくる可能性がある。」

国家的な課題、廃炉を担う人材をどう確保していくのか。
現場の実態を検証し、考えます。

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“廃炉”の現場 原発作業員はいま

朝6時。
福島第一原発に向かう作業員の志賀央(しが・あきら)さんです。
地元・浪江町出身の志賀さんは、6年前から下請け会社の社員として原発で働いてきました。
原発までは、2時間の道のりです。

志賀さん
「今日は普段どおりなのでこんなものかなって。
遅くなると、もっと進まない。」

原発まで、およそ20キロ。
途中、志賀さんは、防護服やマスクなどの装備を整えるためにこの施設に立ち寄ります。
照明機器の設置工事をしている志賀さん。
装備を全身にまとって行う作業は極めて厳しいものだといいます。

志賀さん
「全面マスクして線量の高い場所に行く時は、マスクをしながら走らなきゃいうけなかったり、慣れていないうちはちょっと厳しい。
こんなので作業できるのかなって感じで。
実質、夏場30分、1時間やったら、休憩しないと倒れるんじゃないかなって。」

志賀さんの周りではこの半年で、10人近くが福島第一原発の仕事を辞めました。
志賀さん自身いつまで、この仕事を続けるか迷っているといいます。

「将来いつまで原発で作業を?」

志賀央さん
「それはもうわからないですね。
ほんとうに考えちゃうとその時には、違う所でやったほうがいいんじゃないかって思ったりする時もあるし、(地元の)友だちとかのためにっていうのもおかしいんですけど、一緒になって頑張っていこうかなって思うんですけど。
まとまらないです、先は。」

原発を去る作業員が相次いでいるのは、なぜなのか。
その原因の1つが依然として高い放射線量です。
地元の元請け企業の1つが取材に応じてくれました。
この会社では汚染水から放射性物質を取り除く設備の建設に携わっています。
作業員がその日の仕事を終えて、福島第一原発から帰ってきました。

現場責任者
「今日、被ばくはいくつ?」

作業員
「0.02(ミリシーベルト)です。」

会社では、作業員の1日の被ばく量をすべて記録し、確認しています。
福島第一原発で被ばくする量は今でも他の原発での作業に比べ、平均で10倍近くになっています。
国は作業員に対し1年間で、50ミリシーベルト5年間で、100ミリシーベルトという被ばく量の上限を設けています。
これを超えると原発で働くことはできません。
この会社では20人いた作業員のうち、被ばく量の上限に近づいた2人を福島第一原発の仕事から外すしかありませんでした。
残された作業員も、被ばく量は日々上限に迫っています。

元請企業 梅田義弘さん
「毎日綱渡りに近い部分もあるんですけれど、辞めていく人、配置転換を求める人、いっぱいいます。
どうにもならないというか、しょうがないこと。
現場としては非常に苦しいところで。」

作業員が原発を去るもう1つの原因が待遇の悪化です。
関西出身の40代の男性です。
去年(2011年)の秋から下請け企業の社員として福島第一原発で働いてきました。
週5日の仕事で、当初月給は手取りで、およそ25万円。
しかし、その後5万円減り20万円程度になりました。
さらに、今年8月、会社から宿舎の旅館を出て行くとともに食費も自己負担するよう求められました。

「ここは特殊な仕事なので、働いている者にしたらつらいものがある。
僕らみたいな人間が頑張っているから、第一原発が落ち着いているわけですよ。
そういう人間に対して、そういう状況に持っていくこと自体が理不尽だと僕らは感じています。」

この待遇では被ばくのリスクを背負ってまで働くことはできない。
男性は、今年9月同僚10人と共に仕事を辞めました。

待遇の悪化の背景には何があるのか。
私たち(NHK)は東京電力から直接受注する元請け企業28社にアンケートを行い、15社から回答を得ました。
すると、廃炉に向けた工事の受注単価が最近、下がる傾向にあることが分かりました。
単価が下がったと答えた10社のうち8社が理由として挙げたのが、東京電力のコスト削減に伴う競争入札の拡大。
受注競争の激化で単価が下がり、結果として、作業員の人件費に影響が出ていると見られています。

影響は、下請け企業の経営にも及び始めています。
この会社では福島第一原発の建設当初から作業を請け負ってきました。
この春以降、同じ規模の工事の受注金額が以前より3割ほど下がったといいます。

下請け企業 横田善秀社長
「うちとしては建設から携わっていたので、廃炉まで関わっていたいと思っているが、今のままでは会社の存続が危ぶまれるということで。
地元の原子力発電所に携わった会社は同じような状況だと思う。」

さらに、このままでは将来、廃炉を担う技術を持った作業員がいなくなると危機感を募らせる企業もあります。
原発の計器の保守管理に当たっているこの会社では事故後、福島第一原発で働く社員を採用できていません。

下請け企業 名嘉幸照会長
「今の状態では将来、若い人が原発に携わる人がいなくなる。
これははっきりしている。
トータル的にマンパワーも予算も考えないと、将来どうなるかと危惧している。」

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原発作業員 悪化する待遇
ゲスト野津原有三記者(社会部)

事故のあと、これまで合計で2万人以上が作業に当たっているんですが、どの程度入れ代わっているかという正確な数字は把握されていません。
しかし、取材をしていますと事故から1年8か月経った現在でも、かなり入れ代わりは多いと感じます。
特に、放射線量が高い現場では3か月ほどで被ばく線量の限度に近づいて原発を離れるケースもあります。
そして最近、理由として増えているのが待遇の悪化です。
VTRで紹介した男性は例外ではなく、地元のハローワークの求人票を見ても1日の給料が1万円前後。
月に直して20万円前後というものも、多く出されていました。

●作業員はどんな思いでいるのか

作業員は地元・福島県出身の方が多く、自分たちの作業が地域を守っているという気持ちに支えられています。
厳しい環境で仕事をしていますがその支えが失われてきているという声が今、出ています。
例えば、国が直接行う福島県の除染の作業では、日当に加え、国が金額を定めた1日1万円の手当が出るようになっています。
その結果、原発で働くよりも除染作業で働いたほうが高くなるというケースも出てきているんです。
高い線量の中、働く原発の作業員からはなぜ、待遇に差が出るのかという不満の声も出ています。

●作業員が去っていく 問われる東電

東京電力は、これまで人材の確保には問題がないと説明しています。
その根拠は福島第一原発で働くために行う従事者登録を行った作業員の総数です。
東京電力はこの数が当面必要な作業員の数を十分上回っているとして大丈夫だと説明しているんです。
しかし、その説明には根拠が不足していることが、今回私たちの取材で分かってきました。

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原発作業員は足りるのか

今年7月、東京電力は廃炉作業の見通しを発表しました。

「作業員の従事者登録の方が多めになってきております。」

今年必要な人数は1万1700人なのに対し、従事者登録をしている作業員は2万4300人いると説明。
要員の不足は生じないとしていました。

しかし、福島第一原発では次々に新たな作業が必要になっています。
事故後、がれきの処理などを行っていた元請けの大手建設会社です。

「ここが、1班?
タンクの組み立て?」

「タンクの組み立てですね。」

「で、もう1班はここ?」

東京電力から別の作業の要請を受け、対応に当たっています。
それが、大量の汚染水を保管するタンクの設置作業です。
原子炉建屋の地下で増え続ける汚染水。
これをくみ上げ保管する必要に迫られたのです。

大成建設福島地区事務所 東 輝彦所長
「間に合わない場合は昼夜でやったこともありますし、作業員、労務の段取り、調達、職員も各支店からローテーションを組んで、皆が駆けつけてなんとかミッションを達成するということでやってまいりました。」

これまでに設置されたタンクは、900基。
今後も、相当数のタンクが必要になると見られています。
当初、計画にはなかった作業員が必要になっているのです。



今、福島第一原発では実際に、どれほどの作業員が働いているのか。
東京電力の内部資料をもとに作成した9月のある1日の作業員の配置図です。
黄色で示しているのが作業員。
当初、原子炉建屋を中心に行われていた作業は汚染水のタンクをはじめ敷地内のさまざまな場所に広がっていました。
1日に必要な作業員は3000人に上っていました。
東京電力が作業の増加や被ばく限度による交代などを考慮して改めて試算したところ、1年間に必要な作業員は1万8000人であることが分かりました。
これまで発表してきた1万1700人から6000人も増えていたのです。
さらに取材を続けると、ある事実が浮かび上がってきました。
東京電力が確保できるとしてきたおよそ2万4000人は事故以降、福島第一原発で働いたことのある作業員の総数でした。
このうち、1万6000人はすでに従事者登録を解除。
先月(10月)の時点で登録している作業員は8000人しかいませんでした。
必要な作業員が増える一方で確保できる作業員の数が当初の発表よりも少ない実態。
作業員は、本当に確保できるのか。
東京電力に問いました。

東京電力 原子力・立地支部 山下和彦部長
「ある一定の幅をもって、不透明な部分があると思う。
(作業員は)入れ替えが多くて、他の仕事に入ってまた再登録ということをされていますので、全体としては(登録者数は)そんなに変わっていかないのかなと。」

東京電力は、1日に必要な作業員は3000人のため、8000人を確保していれば短期的には問題ないとしています。
しかし、長期的には懸念があることを認めました。

「必要な作業員が増えていくと、危機感や懸念はどのように考えていますか?」

山下和彦部長
「長期の人材の確保ですね。
これが相当に難しくなる可能性がある。
したがって、人材の確保と育成に力を入れていかなければいけない。」

廃炉作業を監督する立場の資源エネルギー庁です。
今後40年続くともいわれる廃炉作業を担う人材の確保について国として、どう考えているのか問いました。

資源エネルギー庁 中西宏典大臣官房審議官
「実態を踏まえて改善すべきは改善すべき点として認識しようと。
今どきタイミング的には遅いということもあるかもしてませんけれど、我々はいろいろな所で言われていることに対して、現場の皆様の声にできるだけ耳を傾けることが第一歩だと思う。」



ゲスト安念潤司さん(中央大学法科大学院教授)

●人材確保 把握があいまいになったわけは

登録作業員の数は増減しますし、被災地の一部では復興需要によって人手不足の現象もありますので、なかなかどれだけの人員を確保できるかを正確に予測するのは、確かに難しい作業ではあると思うんです。
ただ、やはり大きな組織というのはどうしても、本部といいましょうか、本社と現場との間のコミュニケーションが十分、うまく取れないと。
本社はどうしても、現場がどういう環境で働いているのか把握していないということがままありますので、それも、やはりあるだろうと思います。
ただ、長期的には今、東京電力の方がおっしゃっていましたが、なかなか不安があるということを率直におっしゃるようになったのは私はむしろよいことだと思います。

●若い人材が集まらないという状況

深刻な事態ですね。
すでにご紹介がありましたように福島第一の廃炉だけで40年かかるといわれております。
それから福島第一だけではなくて今後、経年した、年月がたった原子炉が、次から次からと廃炉になっていくわけですから、廃炉のための技術者、作業員はいくらでも必要になるわけです。
そうした中で若い人の参入がないというのは大変深刻な事態だろうと思います。
(今、作業をしている方々の知識や経験は)国民全体にとっても宝と言っていいぐらい私は大切だと思います。

●福島第一原発“廃炉” 何が求められるか

難しい問題だと思うんですが、ややセンチメンタルなことを申し上げれば、例えば、福島第一の場合あの現場の作業員の人々の努力のおかげでかろうじて冷温停止状態が保たれているということをよく認識すべきでしょう。
我々は、彼らの努力に対して敬意と感謝を忘れてはいけないと思います。
ただ、やはりなんと言ってもお金が必要です。
賃金の水準は確保しなければいけません。
一定の線量になると、職場を離れなければなりませんから、その後の雇用も確保しなければいけません。
さらには、長期的な健康の不安はどうしてもありますので5年、10年をにらんで健康管理をする、医療を提供するといった体制を整えなければなりませんが、いずれにしてもかなりのお金のかかることです。

●今後どのようにお金を確保していくのか

難しい問題ですね。
お金は、どうしても必要です。
そのお金をどうやって調達するかは基本的には、2つしかありません。
電気料金を値上げして、東電自身が確保する。
もう1つ、それができなければ税金を投入する。
どちらかです。
しかし、現在すでに、東電は一度、値上げをしたわけですし除染も廃炉も、それから被災者に対する損害賠償も皆、東電が負うと。
これはなかなか長期間にわたって維持することはできないでしょう。
そうしますと、やはり国が関与せざるをえません。
もともと、原発は国策として導入されたものですし、国民全体が利益を受けてきたことですから、その後始末もやはり、国民全体の課題として考えなければいけないんじゃないでしょうか。
(責任の主体が東電だけでは)私は、無理だと思います。

●東電 国 “廃炉”の責任は

(東電は)改めて問われるでしょうね。
これは、いろんな形で示すしかありませんがやはり、まだまだ資産の売却や子会社の売却というものの余地はありますし、それに、なんと言いましても、修繕費などの外部からの調達というものの削減する努力も必要です。
さらには、なんと言っても一番大きい燃料費ですが、これをどうやって安く調達するかまだまだ考えなければならない余地があると思います。
(もはや、東京電力だけの問題ではなく)国全体の問題です。
とにかく原発の将来をどうするかということのビジョンをはっきり示して、その中で、福島第一の処理をどのようにするかを位置づける必要があると思います。
しかも、それはもう待ったなしの課題です。

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