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書店を応援、電子書籍はNO 好調・宝島社の戦略

[掲載]2013年03月12日

東急ハンズ新宿店の入り口近くに設けられた「宝島社書店」の特設ブース 拡大画像を見る
東急ハンズ新宿店の入り口近くに設けられた「宝島社書店」の特設ブース

 【和気真也】出版不況やオンライン書店の成長の逆風下、「sweet(スウィート)」「別冊宝島」を出版する宝島社が、とくに女性誌の分野で高いシェアを維持している。快進撃の背景には徹底して書店販売を重視する独自の戦略がある。
 東京・新宿駅近くにある東急ハンズ新宿店。駅からの連絡通路で結ばれた2階の入り口近くに、14日まで「宝島社書店」が開かれている。ピンク色の看板や布で彩られた特設コーナーに、アパレルブランドなどと共同開発したバッグやキャラクターグッズが飾られ、それらが付録になった書籍が並ぶ。
 書籍の売れ行き全体が鈍り、ネット書店との競争に敗れて閉店する書店は増えている。書店データを調査しているアルメディアの調べでは、12年5月1日時点の全国の書店数は1万4696店で、この10年で2割強減った。一方で、出版科学研究所によると、12年の書籍や雑誌の市場規模は前年比3・6%減の1兆7398億円で97年以降、低下傾向が続いている。
 状況を打開しようと、宝島社が2010年、福岡の紀伊国屋書店を皮切りに手探りで始めたのが「宝島社書店」。付録のバッグをハンガーで飾り、宣伝用DVDを再生。女性が好むアロマの香りも流す。書店らしからぬ演出に戸惑う店員もいたが、期間中の売り上げは3倍に伸びた。この3年で延べ約4700の書店で実施し、今回の東急ハンズで初めて書店以外に展開した。
 なぜ書店のためにここまで頑張るのか。マーケティング本部の桜田圭子部長は「販売流通網こそ出版社の財産だから」と言い切る。東急ハンズに出店したのも、「書店の応援」。訪れた客が書籍を手にとって、次は書店へ足を運ぶきっかけにするのが最大の狙いだ。
 売上高が減り続ける出版不況に直面し、多くの出版社がいま経営資源をつぎ込むのは電子書籍だ。NTTドコモや大日本印刷などが運営するサービス「honto(ホント)」には雑誌だけで120社超が参加する。
 昨年10月には電子書籍で世界をリードする米アマゾンが国内でサービスを開始。富士キメラ総研は、電子書籍全体の市場規模は2012年度で654億円と予測。17年度には約2300億円規模に膨らむと見ている。
 しかし、宝島社はこの動きに距離を置く。電子書籍参入を明確に否定し、2010年には新聞広告で「電子書籍に反対です」と宣言までした。
 電子書籍が拡大するなか、あえて書店販売にこだわる戦略について、桜田部長に聞いた。
   ◇
 ――書店が出版社の財産ですか。
「例えば、自動車メーカーであっても本や雑誌を出版することは可能です。では出版社でなければ出来ないことは何か。足元を見つめれば、書店や取次会社などの出版流通網を使えるのが一番の強みです。積み上げてきた信頼や商習慣があって築いたもの。だから、書店が必要ない電子書籍のことも考えません」
 ――アパレルブランドなどとつくる付録が、雑誌好調の原動力と言われます。
 「雑誌を買わない層に手にとってもらうために始めました。でも、雑誌もブランドアイテム付録も同じ自社が生み出すコンテンツ。トートバッグや化粧ポーチ作りに本気で取り組み、生地やボタン選びから縫製まで、10年かけてものづくりのノウハウを積み上げてきました」
 ――書店を応援しようと思ったきっかけは?
 「マーケティングのため書店を回り、本が好きで、重労働をこなす店員に頭が下がりました。閉店とか販売不振とか、暗いニュースが多いのに……。彼らが楽しく働ける場所をつくりたいというのが出発点。
 「定価690円の女性誌のライバルは、カフェのキャラメルマキアートだったりする。女子が使うお金と時間の奪い合いです。制すには、何はともあれ足を運びたくなる売り場が要ります」
 ――電子書籍には参入しませんか。
 「関心ありません。一番の強みである出版流通が使えないのは得策ではないでしょう。それに、スマホが好例ですが、本当に便利なものは一気に普及する。電子書籍は元年と言われて久しい」
 「出版社は雑誌や本を文化の一環とざっくり捉えてきた。電機メーカーなら当たり前にする、商品に付加価値をつけたり、売り方を工夫したりする努力が足りなかった」
 ――まだまだ出来ることがあると?
 「東急ハンズで来店客の会話を聞いていたら、半数がブランドムックを知らなかった。4千万部も出していて、書店はみんな知っているから消費者にも浸透したと思っていた。でも、逆にいえばまだまだ。書店で手に取ってもらえる余地はあります」
     ◇
 宝島社 1971年、自治体のコンサルティング業で会社設立。74年に「宝島」で出版に参入し、76年に「別冊宝島」を創刊、89年の「CUTiE(キューティ)」でファッション誌デビュー。他の有力誌に比べてやや後発だが、20代向けの「sweet」はファッション誌シェア1位。2010年に投入した40代向けの「GLOW(グロー)」やナチュラル系を切り口にした「リンネル」も堅調に販売部数を伸ばしている。

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