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スペシャルインタビュー・対談

スペシャルインタビュー・対談

脚本家・遊川和彦×制作統括・山本敏彦×チーフ演出・梛川善郎 スペシャル対談[後編] 「純と愛」の脚本を手がけるのは、「キャラクターがいかに魅力的であるか」をとことん追求したオリジナル作品にこだわる脚本家・遊川和彦さん。ドラマ制作の総指揮を執る山本チーフ・プロデューサー、監督として撮影現場をリードする梛川チーフ演出を交え、公式ホームページだけのスペシャル対談がここに実現しました。

好きな映画は「バック・トゥ・ザ・フューチャー」。この瞬間、愛(いとし)は彼しかいないと思った(笑)。

今回、役者の個性に合わせてキャラクターを描く「当て書き」の要素が強いのですか?
遊川:
基本的に僕は、最初から誰か役者をイメージして脚本を書いたりはしません。だって誰が演じても面白いキャラクターにしないとね。ただ、今回は久しぶりにオーディションも参加させてもらったので、人と会って触発された部分はあります。
 例えば、マリヤ役の高橋メアリージュンさんもそう。実はオーディションの最中、彼女のネックレスが曲がっていたんですよね。その瞬間、ふとマリヤの像が浮かんだ。マリヤは一生懸命、我を張って生きているんだけど、なぜかいつもネックレスが曲がっている。そこだけ隙ができるでしょ。そして、男に「ネックレス、曲がってるよ?」と言われる瞬間だけ女に変わる、というようなね。純の弟・剛にしても、彼(渡部秀さん)ののほほんとした感じがぴったりだと思ったし(笑)。
 今回、結構いいキャラの役者さんが集まってるなと思いますね。役どころとして難しい愛(いとし)役にしても、今では風間俊介さんしかあり得ないと思うしね。
梛川:
確かに。彼が持っている不思議さや謎めいている感じが愛(いとし)そのもので。ただ最初は、その奥にある本当の優しさとか、愛にあふれた感じとか、普通の人間っぽい感じが出せるのか?という不安が正直ありましたよね。
遊川:
でも、彼に会って話すと伝わってくるものがあった。「こいつは人間として信頼できる」って。嘘もつかないし、おごらない。風間俊介の中にある優しさや人を思う気持ちを、役どころにそのまま出そうと。そうなれば鬼に金棒で、「愛(いとし)は彼しかいない」と思った。
山本:
これまでの彼の作品を見ていると、暗くてヘビーな役の印象が強かったんですけど、実際にはそれと真逆の陽気さや、包容力も感じるような語り口調があったんですよね。彼の内にあるものを解き放つ瞬間を想像した時、愛(いとし)がこれから変わっていく幅広さを考えると、彼は本当に面白いんじゃないかと思いましたね。
脚本家・遊川和彦 画像
遊川:
そういえば、好きな映画を彼に聞いた時にね、もし「フランス映画です」って答えられたら本当にどうしようかと思ったんだけど(苦笑)。「『バック・トゥ・ザ・フューチャー』です」って聞いた時に、「こいつはいい奴だ!」って思ったんだよ(笑)。
梛川:
そうそう(笑)。
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山本「キャラクターすべてが人生を生きている」梛川「15人ほど七転八倒するから、大好き(笑)」

今回の脚本の魅力を、それぞれの立場から教えてください。
遊川:
いいねぇ、ぜひ伺いたいねぇ(笑)。
山本:
(笑)。そうですね、各キャストにちゃんと人生があって、それぞれが主役であって、本当に深く描かれているんですよね。キャスティングがぶわっと勢ぞろいで広がっていく通常の連続テレビ小説の感じでなく、ふたつの家庭にぐっと絞られて書かれているから奥行きが出る。キャラクターごとの本当の人生が描かれていると思うんですよね。そこがすごく面白いと思うし、6カ月でどうなっていくんだろう?と僕も毎回楽しみにしてるんです。
チーフ演出・梛川善郎 画像
梛川:
僕は何年かドラマをやってきて、「何か欠落している人間が、自分に何が足りないか分からず七転八倒する」というのがドラマだと思っているんです。「純と愛」には、そういう人が15人くらい出てくるので僕的にはすごく楽しい(笑)。大好きだなぁ、と思いますね。
 でも、演出として悩んだ部分もありますよ。ともすれば、“この世界の中で、主人公ふたりだけが純粋なんだ”と脚本を読んでしまいがちなんだけれど、どこかで“このふたりも何か足りずに七転八倒している人間なんだ”と思えてから、少し気が楽になりました。
 
ふたりを純粋なものにするために磨いてキレイにするという作業よりも、ふたりの関係性の中で自然に光ってくるようにすればいいんだ、と。演出する側の意識としてそう考えればいいと思ったら、いろんなことが見えてくるようになりました。
 いずれにせよ、愛すべきキャラクターがいっぱいいて、まぁ僕は、コンシェルジュの水野が大好きなんですけど。散々言ってますけどね、僕は水野にシンパシー(共感)を覚えるって(笑)。
遊川:
自分に近いんだってさ(笑)。
梛川:
そういう意味でも、「だから、オマエさぁ…!」とか言いながら、このドラマを見るのも面白いなと思う。「純、それは言っちゃあいけないよ!」と見る人が突っ込んでくれたらいいなと思うんですよね。あ、あと演出の難しさとしては、セリフが多いことですかね…。
遊川:
あ、そうなんですか?
山本:
そう、ワンシーンが長いんですよ。でもそれはすごくいいことで、芝居をしっかり書いてくれているという証拠。得てしてパパッと展開でみせる脚本家もいらっしゃる中で、しっかり人間としてぶつかるような芝居を求めるシーンが多いので、どうしても長くなってくるんですよね。
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ドラマづくりの発信源として、脚本家の愛情はしっかり伝えたい。

遊川さんは大阪と宮古島のロケに同行されたそうですが、そこで役者陣にどんな話を?
遊川:
「この人間はこう変わっていくんです」「そしてあなたはこういう役割を背負っているんだ」といったような話をね、それぞれにするわけです。先の展開はなんとなく頭で考えてるんですけど、ふいに聞かれたらその場で緊急で考えたりしてね(苦笑)。いわば、脚本家としての営業ですよ(笑)。
全員:
(大笑)。
遊川:
でも、そういう愛情って大事じゃないですか。例えば、純の父親役の武田(鉄矢)さんには、「普通のことはやりたくないんだ」という思いを伝えました。ダメな親父がいい親父になるという定番の流れじゃなく、親父の思いが最後まで伝わらない悲しさや切なさを出したいんだ、と。つまり、「作家としてこう考えている人間像を演じきってくれないだろうか。それができる役者としてあなたを選んだんだ」ということを伝えるんです。
 僕の言葉が不発になることもあるだろうけど、そういう発信源になることはムダではないと思うんでね。まずは発して、みんなに助けてもらいながら、一緒に作りあげていくわけです。
梛川:
そして僕は、脚本家と役者の間の中間管理職みたいなもんですよ(笑)。ドラマは、脚本の理論と役者の気持ちがぶつかってミクスチャーされてできていくものなんで、そこを肉体的にサポートとするというか。闘魂は遊川さんに注入していただいて(笑)。
遊川:
まぁ、それがドラマづくりですよ。自分の思い通りにやってもダメだって分かっているし、みなさんの思いがミックスされていいものができる。
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ある意味、人間ドキュメンタリー。人生をのぞき見るようなドラマかもしれません。

「純と愛」の見どころのヒントを教えてください。
山本:
恋人や夫婦、いろんな愛情の形があると思うんですけど、人を好きになるのと愛を育んでいくのとはまた違うと思うんですね。ふたりで流れつつ関係を育む姿をこのドラマでは表現していて、特に苦しい局面をどう乗り越えていくかをしっかり描いているので、視聴者のみなさんにも疑似体験のような感覚をたくさん感じてもらうことになると思います。ちょっと昔を振り返ったり、先の恋愛に対してだったり、何か小さな勇気になればいいなという思いです。いろんな愛が出てくると思うので、ぜひ笑ったり泣いたりしてください。
制作統括・山本敏彦 画像
梛川:
たぶん、安心できないドラマです(笑)。「え、そんなことしちゃうの?言っちゃうの?」という人間ばかり出てくるので、とにかくツッコミ続けて見ていただきたい。
 演出としては、「安心できないキャラクターに『なんだろう、このドラマは?』となる」→「油断していたらふと涙が出る」→「なんで泣いちゃったの?と不思議に思う」→「明日も見てみよう」。こんな図式が生まれるドラマにしたいなと思います。
遊川:
そうですね、まるで動画サイトで他の家族のドタバタを見ているような、要するにドラマじゃない「人間ドキュメンタリー」だと思って見てほしいですね。ドラマの法則を崩すことを意識してやってるので、どうなるか分からない面白さがあると思います。「なんか濃いキャラの奴らが出てきて、すごいことやってるぞ。この家、どうなるんだろう?」っていう、のぞき見の感覚で見てもらえたら面白いかなと。もしくは、とんでもない人間がいっぱい出てくるんで、いかに自分は幸せかというのを確認しつつ見てもらってもいいかも(笑)。
 まるで小動物同士の戦いを眺める感覚で、「なんでこんな面倒くさい生き方を…」と思うものの、なぜか目が離せない。そんなドラマじゃないかと思います。

【⇒インタビュー前編はこちら】

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