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日本は環太平洋経済連携協定(TPP)を結ぶための交渉に7月にも参加する。日本がTPPに入ると、どんなメリットやデメリットがあるのだろうか。
TPPは、輸入品にかける税金(関税)をなくすことを目指している。関税がなくなれば、日本には米国やオーストラリアなどの広い農地でつくられた安い農産物が入ってくる。
「貿易交渉のたびに1次産業が犠牲になってきた」。日本がTPP交渉に参加することで米政府と合意した直後の14日、自民党議員が北海道帯広市で開いた報告会では農家から厳しい声が相次いだ。
北海道浦幌町の馬場幸弘さん(66)は「(自民党に)裏切られた思いだ」と話す。約45ヘクタールの農地で妻と息子と3人で小麦とテンサイ(砂糖の原料)、ジャガイモをつくっている。
年間の売り上げは4千万円を超えるが、肥料代などを払うと2割ほどしか残らない。TPPに入れば、「米国などとの圧倒的な差が明らかになるだけではないか」と心配する。
日本はコメに最高800%近い関税をかけるなどして農業を守ってきた。政府の試算では、TPPで関税がなくなると農業の生産額は全体で3兆円も減る。
■コメ関税の代償、懸念
そこで自民党は打撃を受ける5品目を関税撤廃の「例外」にするよう求めている。「コメ」「麦」「乳製品」「牛肉・豚肉」「砂糖やデンプンなどの甘味資源作物」だ。
しかし、自民党で農業政策に関わってきた保利耕輔衆院議員はこれまでの経験からこう断言する。「コメの関税を守れても、米国は必ず代償を求めてくる」
1993年、自由貿易を進めるための交渉「ウルグアイ・ラウンド」で、コメの輸入を部分的に認めることが決まった。日本はコメの輸入を認めていなかったが、政府が一定の輸入米を買い入れるという条件を受け入れた。
2000年代に入っても各国から「関税を守る代わりに輸入を増やせ」と言われた(この交渉は頓挫)。このため、TPPではコメの関税を守っても、米国やオーストラリアから「代わりに政府が買うコメを増やせ」と言われるのは避けられないとの見方が多い。
政府は今、年間に約77万トンのコメを輸入している。コメ価格が下がらないように輸入米の多くは家畜のエサ用などで売り、ご飯用は10万トンに抑えている。
しかし、レストランなどの外食業界は安売り競争が激しく、もっと輸入米をご飯用に売ってほしいと求めている。輸入米が増えればご飯用も増えそうで、国産米の価格が下がって農家は少なからず打撃を受ける。
■砂糖・乳製品、大打撃
さらに厳しい農産物もある。砂糖だ。7割ほどは北海道のテンサイ、3割ほどは沖縄、鹿児島県のサトウキビが原料で、価格はオーストラリア産の3倍になる。見た目も味も差がつけられず、関税がなくなれば生き残るのは難しい。
乳製品は広い土地で牛を放牧できるニュージーランドが世界で最も安い。トウモロコシなどのエサを輸入に頼る日本はエサ代もかさみ、乳製品の価格はニュージーランドの平均3倍にもなる。
(編集委員・小山田研慈、古谷祐伸)
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