部活戦記(1) 浜松北高校百人一首部「畳の上の“燃ゆる思い”」
畳の上で繰り広げられる頭脳スポーツ「競技かるた」。静岡県には高校生同士が戦う独自のリーグがあり、毎年ハイレベルな戦いを繰り広げています。 (2013年4月4日号掲載)
頭が焼けそう――試合の終盤になると、痛みにも似た熱が脳内に走る。
2月に行われたSKリーグ最終戦。浜松北高の沖田ひかりさんは1年生(当時)ながらA級リーグに出場、孤高の戦いを続けていた。この大会で、高校生による競技かるたの県内ランキングが決まる。
自陣25枚、敵陣25枚。競技かるたは百人一首を使い、計50枚の札を取り合う頭脳スポーツだ。選手は読手(札を読む人)が読み上げる上の句を聞き、下の句の字札を取る早さを競う。
自陣の札を取れば、その札が場からなくなる。敵陣の札を取った場合は、自陣の札を相手に1枚送ることができる。それを繰り返し、自陣から25枚すべての札をなくした方が勝者となる。
彼女は畳の上をじっと見つめる。敵陣との札の差は7枚。上級生の相手に4枚連取され、差が大きく開いてしまった。だが……。
「かく――」
札が読まれた瞬間、体が動く。なぎ払った右手が、「さしも」の札をとらえた。
「かくとだに えやは伊吹のさしも草 さしも知らじな燃ゆる思ひを」。藤原実方朝臣が詠んだこの歌は、浜松北高百人一首部の部歌にもなっている。「燃ゆる思い」。それが相手の連取を食い止めた。
自陣から札が1枚消え、彼女は頭の中にある札の配置を上書きする。競技かるたに必要なのは記憶力、瞬発力、そして何より精神力だ。記憶を更新する度に、頭脳はどんどん熱を帯びる。
その熱量を力に変え、彼女は食らいつく。差を縮める。そして、追い込む。
ついに両者、残り1枚ずつとなった。かるた用語で「運命戦」と呼ばれる状況だ。どちらの札が読まれるかは、運に任せるしかないことからこの名が付いた。お互い自陣の札に手を近づけ、自分の札が読まれることを祈る。
「やまざとは――」
読手が朗唱を始める。彼女は自陣の札に、そっと手を置いた。
◆SKリーグ
2005年から静岡県高文連が開催している競技かるたリーグ。県内の高校生がA~Fクラスに分かれて個人戦を行い、順位を競う。過去に全国大会10連覇を成し遂げた富士高校をはじめ10校が出場。SKは「静岡かるた」の略。
◆浜松北高校百人一首部
1997年創部。2002年に全国高校選手権優勝の実績を持つ。現在の部員は21名。昨季SKリーグは沖田さんが1年生ながら4位を獲得。現在は7月に近江神宮で開かれる全国選手権出場を目指して練習を積み重ねている。