2010年03月07日
「パンがカビないのは添加物が入っているから?」
「大手メーカーのパンがカビにくいのは、保存料などの添加物がタップリ入っているから!」…残念なことに、一般の方だけでなく食に関心が高いはずのグルメブロガーさんや評論家の方も大部分はこのような誤解をされているようです。「無添加パン」を売りにするパン店や零細パンメーカーまで同じ主張をしていることも少なくありません。
仮にも食の世界で生きる人間が本気でこう思っているなら、プロとして失格です。また、嘘だと分かっていて無知な消費者を騙そうとして言っているのなら人間性が疑われるでしょう。「消費者のレベルに合わせるのは当然。売れさえすればなんでも構わない」ということでしたら商売としては正しいのかもしれませんが…。
確かに大手メーカーのパンはカビにくいようです(「全くカビない」ということはあり得ません。カビの胞子が付着すれば必ずカビは生えます)。自宅でパンを焼く皆さんも、せっかくの自家製パンをカビさせたり、そこまでいかなくても品質の劣化が早いことを実感したことのある方がいらっしゃるかと思いますので、余計にそう感じるかもしれませんね。
しかし、実は「添加物が入っているからカビにくい」のではありません。パン工場、特に大手メーカーの工場は、家庭の台所とは比較にならないくらい清潔な環境のもとで、配合や発酵方法などに工夫を凝らして作っているからです。家庭の自家製パンは単に不潔な環境で下手な作り方をしているからカビが生えやすいだけなのです。
「山崎パンは防カビ剤として臭素酸カリウムという発がん物質を使っているじゃないか!」と反論する方もいらっしゃるかもしれませんね。確かに臭素酸カリウムは遺伝毒性発がん物質です。しかし、問題は「発がん性が問題になるほどの量が含まれているかどうか」です。そして、当然パンにも自然に発がん物質が含まれますが、果たしてどちらのリスクが高いのでしょうか。
まずは臭素酸カリウムから。山崎パンによると含有量は0.5ppb=0.5μg/kg以下です(これは検出限界値です)。食パン5枚切り80gには最大0.04μg含まれますので、毎日80g食べる体重50kgの人の暴露量は0.0008μg/kg/日。げっ歯類に50%の確率でがんを発生させる濃度TD50=9.82mg/体重kg/日ですので、HERPは0.0008/9820×100=約0.000008%。安全基準0.00001%を下回っています。
自然に含まれる発がん物質の方はどうでしょうか。食パンは発酵食品ですから必ずエタノールが含まれます。製品により濃度は異なるのですが、HERPランキングの採用値(290mg/80g)で計算してみますと、体重50kgの人の暴露量は5.8 mg/体重kg/日。エタノールのTD50は9110 mg/体重kg/日ですので、HERP=約0.06%。臭素酸カリウムと比べると約7500倍も高い値です。
アルコールを飛ばすためにトーストしてみましょう。すると今度はアクリルアミド、ウレタンなどの発がん物質が増えます。アクリルアミドは第36回コーデックス食品添加物汚染物質部会の報告によるとトーストに25〜1430μg/kg含まれます。80gには2〜114μgですから暴露量は0.04〜2.28μg/kg/日。アクリルアミドのTD50=3.75mg/体重kg/日なのでHERP=約0.001〜0.06%です。
もちろん、パンに臭素酸カリウムを添加することに問題がないというつもりはありません。WHOとFAOの合同委員会も「臭素酸カリウムは小麦に添加するべきではない」と言っています。臭素酸カリウムは遺伝毒性がある上に、美味しいパンを作るための材料としては必須の成分ではないからです。では、なぜ山崎パンは攻撃されることを覚悟で添加しているのでしょうか。
その理由はおそらく、本来パンに向かない国産小麦を無理やり使うためなのではないかと想像しています。パン好きの方には常識ですが、ごく一部の例外を除き国産小麦は製パンには不向きです。0.5ppb程度の臭素酸カリウムには防カビ能力はありませんが、パンの改質材になります。「国産小麦使用」を謳いたいなら「無添加」で美味しいパンを大量に作ることは非常に困難なのです。
昨今は国産なら何でも高品質だと盲信する風潮がありますが、国産小麦がパンに向かないように、残念ながら日本の農畜産物は味の面でも一流とは言い難いものが多々あります。何度も繰り返しになりますが、「特定の産地にこだわる」というような偏った食生活はリスク要因となります。選択肢が多ければ多いほどリスクは分散されるのですから。
そして更に注意すべきなのは、家庭の台所や零細店の厨房は不潔だということです。「手作りだから安全、安心!」というのは何の根拠もない思い込みに過ぎません。食の安全に対する最も大きな脅威は、添加物や残留農薬などではなく、細菌、ウイルス、カビとこれらが産生する毒素だということを改めて強調しておきたいと思います。
※HERP:Human Exposure/Rodent Potency=ヒト暴露量/げっ歯類発がん用量比。ヒトの摂取量が、ラットやマウスに50%の確率でがんを誘発する投与量(TD50)の何%に当たるかという表し方で発がん性の高さを判断。0.00001%以下が安全基準(百万分の一の発がんリスク)。
仮にも食の世界で生きる人間が本気でこう思っているなら、プロとして失格です。また、嘘だと分かっていて無知な消費者を騙そうとして言っているのなら人間性が疑われるでしょう。「消費者のレベルに合わせるのは当然。売れさえすればなんでも構わない」ということでしたら商売としては正しいのかもしれませんが…。
確かに大手メーカーのパンはカビにくいようです(「全くカビない」ということはあり得ません。カビの胞子が付着すれば必ずカビは生えます)。自宅でパンを焼く皆さんも、せっかくの自家製パンをカビさせたり、そこまでいかなくても品質の劣化が早いことを実感したことのある方がいらっしゃるかと思いますので、余計にそう感じるかもしれませんね。
しかし、実は「添加物が入っているからカビにくい」のではありません。パン工場、特に大手メーカーの工場は、家庭の台所とは比較にならないくらい清潔な環境のもとで、配合や発酵方法などに工夫を凝らして作っているからです。家庭の自家製パンは単に不潔な環境で下手な作り方をしているからカビが生えやすいだけなのです。
「山崎パンは防カビ剤として臭素酸カリウムという発がん物質を使っているじゃないか!」と反論する方もいらっしゃるかもしれませんね。確かに臭素酸カリウムは遺伝毒性発がん物質です。しかし、問題は「発がん性が問題になるほどの量が含まれているかどうか」です。そして、当然パンにも自然に発がん物質が含まれますが、果たしてどちらのリスクが高いのでしょうか。
まずは臭素酸カリウムから。山崎パンによると含有量は0.5ppb=0.5μg/kg以下です(これは検出限界値です)。食パン5枚切り80gには最大0.04μg含まれますので、毎日80g食べる体重50kgの人の暴露量は0.0008μg/kg/日。げっ歯類に50%の確率でがんを発生させる濃度TD50=9.82mg/体重kg/日ですので、HERPは0.0008/9820×100=約0.000008%。安全基準0.00001%を下回っています。
自然に含まれる発がん物質の方はどうでしょうか。食パンは発酵食品ですから必ずエタノールが含まれます。製品により濃度は異なるのですが、HERPランキングの採用値(290mg/80g)で計算してみますと、体重50kgの人の暴露量は5.8 mg/体重kg/日。エタノールのTD50は9110 mg/体重kg/日ですので、HERP=約0.06%。臭素酸カリウムと比べると約7500倍も高い値です。
アルコールを飛ばすためにトーストしてみましょう。すると今度はアクリルアミド、ウレタンなどの発がん物質が増えます。アクリルアミドは第36回コーデックス食品添加物汚染物質部会の報告によるとトーストに25〜1430μg/kg含まれます。80gには2〜114μgですから暴露量は0.04〜2.28μg/kg/日。アクリルアミドのTD50=3.75mg/体重kg/日なのでHERP=約0.001〜0.06%です。
もちろん、パンに臭素酸カリウムを添加することに問題がないというつもりはありません。WHOとFAOの合同委員会も「臭素酸カリウムは小麦に添加するべきではない」と言っています。臭素酸カリウムは遺伝毒性がある上に、美味しいパンを作るための材料としては必須の成分ではないからです。では、なぜ山崎パンは攻撃されることを覚悟で添加しているのでしょうか。
その理由はおそらく、本来パンに向かない国産小麦を無理やり使うためなのではないかと想像しています。パン好きの方には常識ですが、ごく一部の例外を除き国産小麦は製パンには不向きです。0.5ppb程度の臭素酸カリウムには防カビ能力はありませんが、パンの改質材になります。「国産小麦使用」を謳いたいなら「無添加」で美味しいパンを大量に作ることは非常に困難なのです。
昨今は国産なら何でも高品質だと盲信する風潮がありますが、国産小麦がパンに向かないように、残念ながら日本の農畜産物は味の面でも一流とは言い難いものが多々あります。何度も繰り返しになりますが、「特定の産地にこだわる」というような偏った食生活はリスク要因となります。選択肢が多ければ多いほどリスクは分散されるのですから。
そして更に注意すべきなのは、家庭の台所や零細店の厨房は不潔だということです。「手作りだから安全、安心!」というのは何の根拠もない思い込みに過ぎません。食の安全に対する最も大きな脅威は、添加物や残留農薬などではなく、細菌、ウイルス、カビとこれらが産生する毒素だということを改めて強調しておきたいと思います。
※HERP:Human Exposure/Rodent Potency=ヒト暴露量/げっ歯類発がん用量比。ヒトの摂取量が、ラットやマウスに50%の確率でがんを誘発する投与量(TD50)の何%に当たるかという表し方で発がん性の高さを判断。0.00001%以下が安全基準(百万分の一の発がんリスク)。
silflay at 09:49│
│「食の安全」