中国武術用語の基礎知識 ようこそ、中国武術の世界へ!〜初歩からの中国武術〜
(*おおまかな分類については、下記の表を参照してください。)
●内家拳←→外家拳 “内家拳”は内功拳、柔拳、軟拳、“外家拳”は剛拳、外功拳ともいわれる。これは内家拳は、力が“内”に秘められている拳法であり、外家拳は、力が“外”に表われている拳法であるということから、このように称せられている。これは、内家拳の拳法、たとえば太極拳を例に挙げればよくわかる。太極拳には「意を用いて力を用いず」という言葉があるように、練習は力を抜いて、ゆっくりとした動作で行なうので、一見したところでは、力の出具合がわからない。しかし、外家拳と称される拳法、例えば少林拳などは、練習するときに激しく動き、突きや蹴りを力を込めて用いるために、一見して、その威力のほどがわかる。また、外家拳の外家は、仏教でいうところの出家のことを指し、内家拳の内家は在家のことであるという説もある。しかし、柔拳の内家拳も、剛拳の外家拳も、どちらも柔・剛の要素を含んでおり、違いは練習の段階上において、どちらを先に習得するかであり、いずれも極めるところは同一である。したがって、拳法を内家拳と外家拳の二つに分類することを否定する研究者も多い。 ●武当派←→少林派 少林派とは、南北の二つの少林寺、つまり嵩山少林寺と福建少林寺(伝説の域を出ないが、福建省にあったといわれる)に源を発する武術のことを指す。北派では、洪拳(こうけん・紅拳)、羅漢拳(らかんけん)、六合拳(ろくごうけん)、太祖拳(たいそけん)、燕青拳(えんせいけん)など。南派では洪家拳(こうかけん)、劉家拳(りゅうかけん)、蔡家拳(さいかけん)、南派太祖拳などがある。これらは、いずれも“剛”の要素が強く、動きが激しく実戦的なのが特徴。 武当派は、湖北省均県の武当山に源を発する武術のことを指し、剛の少林派に比べて、柔の要素が強い武術である(太極拳、形意拳、八卦掌などが武当派といわれている)。しかし武当派については、確証のある史実が少なく、中国の研究家では、武当山をゆかりの地とすることを否定する人もいる。 ●伝統拳←→制定拳 古くから伝えられている伝統の套路を伝統拳、そして伝統拳を母体として、新たに編纂された套路を制定拳と呼んでいる。また近年、中国では伝統の武術がさまざまな角度から研究され、多くの実績を上げている。また最近の中国における表演賽では、規定の時間内に自由に他派の技法を組み入れることができるので、伝統の套路とは趣きの異なったものも多い。なお「制定拳=表演用の武術」と誤解している人がいるが、これは間違いである。制定拳とは、二十四式、四十八式太極拳、甲之組長拳などのように、伝統の各派の太極拳から国家体育運動委員会などの公的機関により、新たに編纂されたもので、その普及を旨としている。表演武術は、伝統武術(表演用伝統拳)、制定拳ともに、表演会において得点を競うのが目的であるために、高得点が得られる動きを多く取り入れたもの。
【套路】(とうろ) 套路は、空手でいうところの「型」である。套路練習の目的は、基礎鍛練、内功、攻防技術の習得などであるが、各門派の套路には、先人が工夫研究した技法の精華がおりこまれており、門派独自の風格を備えている。 ▲同義語−−拳套、盤架子、拳 【架式】(かしき) 架式とは拳法における姿勢のこと。拳法においては、正しい姿勢を会得することが非常に重要である。各門派におけるそれぞれの姿勢は、いずれも長い間の経験や研究を経て完成されたもので、力学的、生理学的にも優れたものである。 ▲同義語−−架子、勢法 【歩法】(ほほう) 歩法とは、いわゆるフットワークのこと。歩法は実戦武術の生命ともいわれ、軽快、安定が要求される。各門派により、それぞれ深く研究された歩法がある。 【単練・対練(対打)】(たんれん・たいれん) 単練とは一人で行なう練習のことである。それに対し、対練とは二人で組んで行なう練習のことをいう。中国武術では、一人で行なう型をそのまま対練に応用できるものと、もともと二人で行なうために作られたものとがある。対練は空手でいえば組手に相当し、間合やタイミングの感覚をつかみ、拳套の技法をより深く理解するためのものである。 【勁】(けい) “勁”は“力”と混同されやすいが、両者はまったく別の性質のものである。力が自然なもの、つまり生まれつき持っているものであるのに対し、勁は人為的な訓練によって後天的に会得するものである。勁は広範囲に用いられるが、大きくわけて、「修練による能力」と「圧縮された力」の二つを意味する。前者には、化勁(敵の攻撃してくる力を受け流す)、聴勁(敵と触れ合っている部分によって、相手の出方を察知する能力)などがあり、後者には身体内のエネルギーを統一協調させて、一瞬にて爆発させる発勁がある。これらの勁を会得するには、長年月にわたる練習が必要であり、特に発勁は秘伝を得ずして完成させることは困難である。 【練功】(れんこう) 練功とは技の威力を養成する鍛練のことで、大別して内功と外功にわけられる。内功とは、体の内面、内臓および経絡を、気を練ることによって鍛えるものである。内功によって功力を得ることは、長年月の苦練を必要とするが、こうして高められた功力は齢をとっても衰えないといわれている。外功とは主に人体の皮膚、筋肉、骨などを鍛えるものであり、その代表的なものに鉄砂掌(てっさしょう)と呼ばれる鍛練法がある。これは独特の漢方薬を煎じた薬を用いながら、砂袋をたたいて手を鍛えるもので、功を積めば積み重ねたレンガを一撃で打ち砕くほどの破壊力が得られるという。 【站椿】(たんとう) 站椿は、拳法の基礎となる下肢を鍛練するためのもので、気功法と合わせて行なわれることから、立禅ともいわれる。これは、両足または片足に体重をかけた正しい姿勢で静止し、呼吸上の注意を守って行なうもので、代表的なものに騎馬式、三体式などがある。 ▲同義語−−站功、椿功、盤根、混元椿 【拝師】(はいし) 中国では、たとえ長年月にわたり師のもとで修業を積んでも、「仁、義、礼、智、信、忠、孝、悌」を兼ね備え、技術、人格ともに師に認められなければ正式弟子にはなれず、全伝を授けられることはない。この正式弟子と認められることを拝師と呼び、いったん拝師したならば、弟子は師を親と同様に尊敬し、師は弟子を自分の子供と同じように接し、その信頼関係のなかで、武術の修業をしていくのである。ただし、現在の中国においては、あまり行なわれていない。
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