メールは一定文字数で改行を入れるべきか
注意事項
この記事の前半は、「RFC5322などの仕様書の存在を知らない段階で書いたもの」です。そのため、完全に仕様書を無視した僕個人の見解がしばらく続きます。しかし、それがいけないことだとは思いませんし、仕様書を読んでもなおこの主張を続けるつもりです。
ただ、「仕様書の存在を知らないで書いたもの」と「仕様書の存在を知った上でそれを否定するもの」は違います。「仕様書という先入観のない状態で考えた結論」とも言えるので、その価値を考え、あえて書き換えはしていません。そのかわり、「(仕様書を読まない段階での)結論」の後に、仕様書を読んで思うことを書き加えた形にしました。
なお、ここで考える「メール」はHTMLメールではなく、テキスト形式(プレーンテキスト)を想定しています。
ネチケットを疑う
「ネチケットとして、メールでは三十何文字かで改行を入れるべきだ」という話を以前聞いた覚えがあります。しかし、正直これが正しいのか僕は疑問です。というか、僕の結論としては「相手にもよるものの、一定文字数おきに改行を入れる必要はない」です。
この問題を調べて
グーグルで「メール 改行 マナー」を検索したところ、やはり「一定文字数で改行するのは当たり前」という意見が多いようです。……と思いましたがそれと同時に、そういった主張がなされているサイトは軒並み古い(2000年代前半)ように感じたので、検索を一年以内の更新に絞りました。しかし、やはり内容は大して変わらないようです。
一番気になったのは、Email上でのマナー : 趣味・教育・教養 : 発言小町 : 大手小町 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)です(ちなみに、この議論を読んでいる過程で仕様書の存在を知りました)。
質問者の書き込みは僕と通じるものがあります。途中から議論が行われているものの、特に最初の数レスは完全に袋叩き状態。いやー冷や汗。
でも、ちょっと待ってください。「常識だから当然」は、思考停止に他なりません。「これが常識だ」というには、それなりの理由があるはずです。
なぜ改行が必要なのか
まず、「マナーだから当然そうするべき」という考えは捨てて、論理的に、なぜ改行することが必要なのかを考えたいと思います。
改行を主張する人の意見としては、以下のものが挙げられるようです。
- 見やすくなる
- 横スクロールをしなくて済む
- メーラーに自動改行機能がある場合、不自然な改行が行われる可能性がある
改行によって見やすくなるか
そもそも問題設定に無理があるのですが(「見やすい」が人によって違う)、改行によって見やすくなるかといえば、見やすくなると思います。しかし、「改行で見やすくすること」と「一定文字数で改行を入れること」は別です。
HTMLにおいての話
ここで少しHTMLの話をします。HTMLとは、ウェブページを作る際に使われるマークアップ言語のことです。
HTMLにおいては、br要素で強制改行ができます。しかしこれはfont要素などと同じく物理マークアップに含まれていて、厳格なHTMLの考え方では敬遠されています。
僕自身も、HTMLは文章の役割を記述するものであり、見た目の制御はCSS(スタイルシート)で行うべきだと考えます。CSSは閲覧者が自由に無効にし、切り替えることが可能ですから、基本的に見た目に関しては閲覧者に一任される形になります。
論理マークアップでは、br要素は使わずp要素によって段落を表します。ブラウザはp要素を段落とみなし、視覚的ブラウザの場合は段落の前後に余白ができます。また、CSSによって、段落の一文字目に空白を入れることもできますし、段落前後の余白サイズを変更することもできます。もちろん、p要素の横幅も決められますから、表示領域の70%で表示したり、50文字分の幅で表示したりと、好きなように変更できます。
メールにおいては
話をメールに戻しますが、HTMLと同じ考え方をすれば、メールで一定文字数ごとに改行を入れるのは推奨される形ではない、ということになります。HTMLで論理マークアップを行いCSSで見た目を変えるスタイルは現在一般的になりつつあり、ウェブサイト閲覧の際は、CSSで設定された幅に沿ってブラウザが文章を折り返して表示しています。これに疑問・不満を投げかける声は(少なくとも僕は)あまり聞きません。それを考えれば、メールが未だに「一定文字数で改行を加えるもの」から移り変わらないことのほうがよほど不自然に見えます。
HTMLは構造を示すマークアップ言語ですから、プレーンテキストのやり取りをするメールと同列に扱うべきではないという批判もあるかもしれません。しかし、「基本的に見た目に関しては閲覧者に一任されるべきだ」という理念自体は、メールにも適用できるのではないでしょうか。
実際、ユーザー一人ひとりが「見やすい」という基準は違いますし、ディスプレイ、文字の大きさによって見やすい一行の文字数は変わります。そう考えれば、「一定文字数で改行を入れる」行為は「送信者が改行位置を決める」行為に他ならず、「閲覧者が自由に改行幅を決める自由を奪っている」ことになります。
だからと言って、全く改行をする必要がないというわけではありません。HTMLではp要素を使うことで段落分けをし、結果的に余白ができますが、メール(プレーンテキスト)にはp要素に該当するものがありません。それを補完する形で、段落ごとに空白の行をつけるくらいはあって然るべきです。それがなければ、「見づらい」云々以前に「意味が取りづらい」文章になってしまいます。
横スクロールになる
そもそも、(少なくとも僕の周辺には)横スクロールになってしまうソフトウェアは存在しません。
この点が、僕が一番気になるところです。「古いPCやマイナー環境(MacユーザーやLinuxユーザーなど?)では横スクロールになってしまう、社会一般ではまだまだそういう環境が多い」という場合は、僕が話していることはただの世間知らずでしかなくなりますが……。
しかし、これはあくまでソフトウェアの問題です。「一行を横スクロールで表してしまうユーザーへ配慮し、一定文字数で改行を付け加える」よりも、「改行位置を閲覧者が自由に変えられる」ほうがメリットが大きいように思います。
不自然な改行
ここで言う「不自然な改行」とは、単語の途中で改行されることだと思います。確かに、「閲覧者」の「閲」と「覧者」の間に改行を入れば、読みづらいかもしれません。これを防ぐために、自分の決めた文字数以内で改行する。確かにこれなら、不自然な改行は減るでしょう。
しかし、文字数を決めたことによって発生する「不自然な改行」もあります。例えば、35文字で改行することにした場合。もし閲覧者の環境が「34文字で折り返して表示する設定」になっていた場合、一文字だけ折り返され、そこから改行が行われます。もちろんこれは極端な例ですが、一口に閲覧者といっても色々です。ディスプレイの大きさ、文字サイズは様々、そもそもPCだけとは限りません。
確かに、単語の途中での改行は読みづらいですが、適切に段落分けや空白行を付け加えていれば、それほど問題にはならないと思います。「改行位置を閲覧者が自由に変えられる」メリットの方が大きいのではないでしょうか。
(仕様書を読まない段階での)結論
長々と書きましたが、僕が考える限りでは、一定の文字数で改行を加える必要はないと思います。
適度な段落分け、段落間の空白行の挿入によって意味の取りやすさを確保することは重要です。しかし、一行の文字数は閲覧者が決めるべきであると僕は思います。
仕様書を読んで
前述どおり、上記の結論は仕様書を読む以前のものです。しかし、読んでも結論が変わることはありませんでした。
まず、仕様書について。RFC 5322 – Internet Message Formatがそれなのですが、全く存在を知りませんでした。無勉強……。この点は猛省中です。
このガイドラインの「2.1.1. Line Length Limits」に、以下の記述があります。
There are two limits that this specification places on the number of characters in a line. Each line of characters MUST be no more than 998 characters, and SHOULD be no more than 78 characters, excluding the CRLF.
「改行コードを除いて、一行の文字列は998文字を超えてはならず、78文字を超えるべきではない」という意味だと僕は解釈しました。
文字コードには詳しくないのですが、RFC内での文字数は半角英数字のため、このガイドラインに従うなら日本語でメールのやり取りをする場合は39文字以内にするべきということになるようです。実際は、引用符がつく可能性もあるので、38文字以内、でしょうか。
一行998文字の文字制限は、電子メールを送受信する実装の多くが998文字を超える行を単純に扱えないためだそうです(The 998 character limit is due to limitations in many implementations that send, receive, or store IMF messages which simply cannot handle more than 998 characters on a line.
)。
78文字の制限については、以下の記述があります。
The more conservative 78 character recommendation is to accommodate the many implementations of user interfaces that display these messages which may truncate, or disastrously wrap, the display of more than 78 characters per line, in spite of the fact that such implementations are non-conformant to the intent of this specification (and that of [RFC5321] if they actually cause information to be lost). Again, even though this limitation is put on messages, it is incumbent upon implementations that display messages to handle an arbitrarily large number of characters in a line (certainly at least up to the 998 character limit) for the sake of robustness.
「より保守的な勧告である78文字の制限は、先端を切り捨てたり悲惨にラップするようなインターフェイスをもつ実装に対応するためだ」とのことです。一行78文字以上の表示ができない・78文字以降を切り捨てる実装が存在するからだよ、ということなので、要するに後方互換を保つためですね。また、「robustnessのために、メールを表示する実装側は任意の長い行(もちろん998文字以内)を表示できるようにする義務がある」と言っています。
過去のRFC
RFC 1855 – Netiquette Guidelinesというもので、名前の通りネチケットのガイドラインがあります。この中に、以下の記述があります。
Limit line length to fewer than 65 characters and end a line with a carriage return.
訳は、「一行は65文字より少なくして、最後に改行をつけましょう」といったところです。
この文章は1995年に出されたものです。僕がPCに触り始めたのは10年ほど前なので当時のことは知りませんが、メール閲覧環境は大きく変化しているはずであり、このガイドラインがどこまで当てはまるのか疑問があります(もちろん、一般的な内容としては今でも通用しますが)。
RFC1855はネチケット全般の話です。電子メールのRFCには、先ほど挙げたRFC5322の前のバージョンとしてRFC2822(2001年4月)が存在します。この文章にも「2.1.1. Line Length Limits」の項がある……というか、この項に関してはRFC5322とほとんど同じです。つまりRFC5322は、2001年に出されたRFC2822の記述を引き継いでいることになります。
これってばかばかしくないですか。僕はメールサーバーについて詳しくないのですが、今でも一行は998文字以内に制限されるようです。しかし、78文字の制限については古すぎる情報です。先ほども挙げたとおり横スクロールを延々続けるソフトウェア・機器に出くわすことのほうがよほど稀ですし、10年前はその幅が表示領域に対して適切な文字数だったかもしれませんが、今は違います。ディスプレイの大きさは多種多様で、大きいディスプレイなら40文字前後の改行だとむしろスペースが余りすぎてしまいますし、スマートフォンのような小さなディスプレイではむしろ不要な改行が入ってしまいます。
それに、相手のメールアドレスが「~@yahoo.co.jp」だったとしても、PCで見ているとは限りません。スマートフォンで見ているかもしれないし、両方併用しているかもしれないし、それ以外の機器で見ているかもしれません。そう考えれば、40文字前後の改行はむしろ邪魔であり(前述の通り)、受信者のほうで適宜折り返して表示したほうがよほど理にかなっています。
整理すると……
以上の理由により、やはり「三十数文字で改行すべきというマナー」は現状にそぐわないものであり、折り返しまでの横幅を受信者が自由に変えられるよう、送信者は改行を加えるべきではないと僕は考えます。
仕様書は三十数文字改行の根拠とも取れますが、「78文字以内にすべき」はあくまでSHOULDでありMUSTではありません。また、仕様書のこの部分は2001年時点での文章を写しただけですから、むしろ仕様書に改善の余地があるように思われます。
ただし、仕様書を読む前の結論同様、全く改行がいらないことわけではありません。僕が否定しているのはあくまでも「一行を三十数文字にするために改行を挿入すること」ですし、第一「一行は998文字以内にしなければエラーになるおそれがある」ということがはっきりしているので、最低限日本語では499文字以内に収める必要があります。
しかしながら、「きちんと段落分けをし、段落と段落の間に空白行を入れた文章」がそうそう499文字を超えるとも思えませんし、一段落があまりに長くなるようなら、句読点で一度改行を入れれば良いだけの話です。むしろその方が可読性も増します。
結論
かなり長くなってしまいましたが、結論としては以下のようになります。
- 「送信者が三十数文字で改行を入れるべき」というマナーは現状にそぐわない
- 文章の内容ごとに段落分けをし、段落間には空白行を入れる
- 同じ段落内でも、あまり長くなるようなら、句読点で適宜改行を加える(一行が半角英数字998文字分以上でエラーになってしまうのでその回避にもなるし、可読性も増す)
- 一定文字数で改行を入れる必要はないが、上記のような方法で内容の理解しやすさ、読みやすさに配慮するべき
課題と提案
「郷に入りては」ってやつですね。「常識」が圧倒的シェアを握っている場合、上記結論を忠実に再現しても「気配りが足りない」という烙印を押されかねません。むしろ、先ほど挙げたEmail上でのマナーの前半のようなバッシングがあると覚悟するべきです。相手を選んだ上で実践していくことが必要になりますが、気遣いが足りないわけではなく考え方の違いであるということは、ぜひとも主張したいところです。
また、これを防ぐために、同じように考える人は「自分にメールを送るときは一定文字数での改行を入れる必要はありませんよ」という意思表示をすれば解決するように思います。なんでしょう、ロゴでもあればいいのかな? そうすれば、その意思表示をしている人同士はお互いにハッピーになれますし、改行を入れるべきだと思う方と不必要な争いをすることもなくなります。
最後に、こんなに長い文章を読んでくださってありがとうございました。あれもこれも言っていたら長くなってしまいました……。よろしければ、コメントかメール(blog@75py.com)、もしくはツイッター(@75py)で皆さんの意見をお聞かせいただければと思います。
この記事へのコメント
大変参考になりました。力作をありがとうございます。
賛成です。私も何と言われようが30-40文字改行はやらないことにしています。特に引用返信が多くなったときは1文字改行が乱立して非常に読みにくくなってしまいます。
読む側のメールソフトの自動改行やウィンドウの幅に任せた方が相手のためだと思います。