窓際「追い出し部屋問題」の解決は企業努力だけでは困難

2013.02.06

 電機メーカーなどの「追い出し部屋」が社会問題となっており、厚労省が実態調査をしているようだ。報道によれば、「追い出し部屋」は、「事業・人材強化センター(BHC)」「キャリアステーション室」「プロジェクト支援センター」「企業開拓チーム」など会社によって名称は違うが、要するにリストラ対象職員を自己都合退職に誘導するためにある部署だ。

 実は、こうした部署は以前から存在していた。筆者の友人も某大手金融機関に勤めていたが、ある時聞き慣れない部署に異動したとあいさつに来た。何をするのかと聞いたら、「リストラ対象になったので自分の再就職先を開拓するのが仕事」と力なく語った。筆者にも役人だが“サラリーマン”の経験があり、友人の心情を痛いほど感じた。

 ただ、会社側にも言い分があるだろう。業績不振で終身雇用が維持できなくなったのだ。かといって、業績不振による指名解雇は判例で厳しく制限されている。就業違反などによる指名解雇しか認められていないので、陰鬱な「追い出し部屋」による「雇用調整」をせざるを得ないわけだ。

 もっとも、これは大手企業の手段だ。零細企業なら、社長の一声で理由なしでクビになる。

 かつて日本は固定給を据え置き、ボーナスによって給与を弾力的に調整し、解雇などによる雇用調整を行わずに、柔軟に対応してきた。ところが、20年以上にわたるデフレで日本経済のパイが大きくならず、こうした柔軟対応をできる余裕はなくなった。

 デフレ下では賃金の下方硬直性があって、正規職員の給与は実質的に下がらない。その分、非正規職員の雇用にしわ寄せがいって、さらに正規職員の雇用まで浸食されてきた。

 デフレはカネ(円)のモノに対する過小供給が原因だが、ドルに対する過小供給になると円高になる。「追い出し部屋」で報道されていたパナソニック、ソニー等の電機メーカーはデフレとともに円高によって工場を海外に移転している点でも、国内雇用に甚大な影響を及ぼしている。

 雇用環境改善策として、表面上「追い出し部屋」だけを排除する対症療法はダメ。こうした「追い出し部屋」を企業が設置せざるを得なくなるようなデフレや円高を早く解消する必要がある。

 デフレの脱却や円高是正は企業の努力ではいかんともしがたく、国のマクロ経済政策、とりわけ金融政策の問題だ。

 日本では、金融政策が雇用対策であるとの認識がない。ただ、幸いにも安倍政権ではインフレ目標の導入などで世界標準の金融政策をしようとしているのが救い。

 適切な金融政策で雇用の増大を図った上で、終身雇用・年功序列でない柔軟な雇用制度を作る。そのカギは解雇法制だ。大手企業も零細企業も、正規・非正規雇用の差別がなく労働者の権利を守るために柔軟解雇の発想が必要。適切な解雇法制は最終的には雇用増大にもつながるものだ。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

 

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