午前中最後の授業をうわの空で聞き流しながら、柚実は頬杖をつき、ぼんやりと物思いにふけっていた。 「なんだか、なあ……」 小さく、独り言をもらす。 いつも通りの、おしゃべりなクラスメイト達。いつも通りの、退屈な授業。なのにどうしてか、何かがズレている気がする。 (これって、あの夢のせい?) あんなヘンな夢、初めて見た。これまでも、男の子が出てくる夢は見たことはある。しかしそれは、いつもどこか抽象的な感じだった。あんなにリアルなものは、昨日が初体験だ。 (もしかして私、欲求不満だったりするのかなあ) だとしたら、それはとても嫌だ。 「家に帰ったら早由希ちゃんを誘って、気分転換にどこかに遊びに行こうっと」 友人達に彼女を紹介するのもいいかもしれない。きっと、みんな驚くだろう。早由希は、それほどの美少女だ。そう考えると、落ち込み気味だったテンションが、ちょっとづつ上がってくる。美人の従姉妹を自慢できるのは、きっと気分がいいだろう。 (もしも、ノブも先に帰ってたら……) 一緒に誘うのも、いいかもしれない。彼女の友人には、弟を紹介しろと何度も頼んでくる娘もいるし。頬っておいてもうるさいから、この辺で一度リクエストにお応えしておくのもいいかもしれない。 「あんな、頼りがいがなさそうなヤツなのにね」 やれやれ、と呟いた柚実の脳裏に、昨夜の夢の光景がやけにはっきりと思い出された。 女の子のような華奢な顔つきと身体に似合わぬ、醜悪な肉槍。グロテスクで、想像していたよりびっくりするほど大きくて、そして何よりも男の“匂い”を感じさせた。女性を犯す目的のためだけに存在する、男の欲望の最たる象徴…… 「――え?」 じゅくり……と、下半身に嫌な湿り気を感じた。自分でも気づかないうちに、その部分にじんわりとした掻痒感が灯っていたのだ。ゆっくりと、しかし確実に、その熱がはっきりしたものへと変化しつつあるのを自覚する。 (や……ヤダッ!) 慌てて気を散らそうとするが、それも上手く行かない。頭を占有するのは、昨夜の記憶。快楽に眉を歪める信治の姿と、その股間にそそり立つ、アンバランスなほどに大きな男性器。まるでそれそのものにひれ伏すようにうずくまり、口と舌と、指と……それらを全て差し出して奉仕する、早由希の屈辱的ながらも美しい姿。 ……チリチリと小さな火が燻りながらも着実に燃え広がっていくように、下半身の奥深くから生まれた疼きは、その勢力を増していく。 「はぁ、はぁ、……ハァ」 気づけば、いつの間にか呼吸までもが荒く、そして熱が籠められたものへと変わってしまっていた。こんなの、もしも隣の席の子にでも気づかれたら、気持ちの悪いヤツだと思われてしまう。 (やだ……どうして!?) 頭の中から追い払おうとすればするほど、昨夜の映像が、脳裏に浮かび上がる。いや、映像だけではない。擦れ合うペニスと唇から漏れる、猥らしい水音。鼻腔をくすぐる、汗と性臭。そんな二人を見て震える、自身の胎内…… (イヤッ! いいかげんにして!!) 記憶を振り払おうと頭を抱えながら左右に振った柚実の肘が、机の上に置いてあった筆箱に当たった。 “ガシャンッッ!” 突然の音に、教室中の視線が柚実に集まる。黒板に数式を書き込んでいた教師が、眉をひそめて彼女に話しかけた。 「おい、どうした。調子でも悪いのか?」 心配そうな顔で、この女生徒を見る。 「顔も赤いし、なんだか気分が悪そうだし。熱でも、あるんじゃないか?」 「あ、あの……!」 顔を伏せ、身体を縮こまらせると、柚実は何かに耐えるようにしながら、おずおずと口を開く。 「すみません、体調が悪いみたいで。……早退させて下さい」 「ああ、それは仕方がないな。分かった、担任の先生には、私から言っておこう。でも、あんまり辛いなら、まずは保健室に……」 彼の言葉を最後まで聞かず、柚実は震える手で机の上の物を鞄に押し込むと、それ以上何も言わずに逃げるように教室から立ち去った。 「お、おい!」 その普通でない様子に、教師は慌てて何か言いかけたが、当の相手がいなくなってしまったので仕方なく授業に戻る。 あとにはざわつく生徒達と、拾われもしないまま床に落ちてこぼれた筆記用具が残されていた。 (なんで……) 膝が震えて挫けそうになるのを必死にこらえながら、柚実は家に辿り着いた。 (私、なんでこんな……どうなっちゃったっていうの?) スカートの中では、尿を漏らしでもしたかのように、下着がぐっちょりと濡れそぼっている。ついさっき、抑えきれなかったイヤらしい粘液は、太股のほうまで垂れて流れてきた。人通りの少ない住宅地で、たまたま通りがかる人がいなかったのが幸いだった。 「はぁ、はぁ、はぁ……」 荒い息をつきながら、玄関に倒れ込む。壁に寄りかかるようにしてなんとか再び立ち上がると、家の中に上がった。 (どうしよう……) 誰かに、助けてもらいたかった。とはいえこの時間、母は仕事に出かけている。弟も、今頃は学校で授業をうけているはずだ。となれば、家にいるのは早由希だけということになる。 (でも、早由希ちゃんに、こんな恥ずかしいところ見せられないよ) 視界が、涙で歪む。それでもなんとかよろよろと廊下を進み、トイレまで移動しようとする。 と、そのとき。懸命に足を引きずりながら歩く彼女の耳に、なにか声のようなものが聞こえてきた。 「…………ぅぁ、……」 ギクリと、柚実は崩れ落ちそうな身体を強ばらせた。 「…………ょ、…………ぁぁっ」 それは、廊下の更に奥の方から聞こえてくるように思えた。廊下の、突き当たり。そこは、母である綾乃の部屋がある場所だ。 (ヤダ……やだよぅ) グスグスと涙をこぼしながら、しかしなぜか柚実の身体は、奥へ奥へと引き込まれるようによたよたと歩いて行く。 歩くのは辛いし、そっちには行きたくない。『あそこには、何か良くないものが待っている』そんな確信にも似た思いが、彼女の中には存在する。 それでも、何故、自分は母親の部屋へと向かうのか? 「助けて……お母さん、助けてよう」 もしも母親が現れたとして、この異常な世界に捕らわれた彼女を助けてくれることなど、できるのだろうか? ――だが柚実には、他に頼る名前は無かった。ただ幼子がそうするように、泣きながら、ただ繰り返し母を呼ぶ。 (お母さん、お母さん、……おかあさんっ) 一歩、また一歩、扉が近づいてくる。 「………て、そんな…………」 「………なの…………るよっ!」 徐々に、二つの声がはっきりと聞こえるようになる。昨晩見た夢と、まるっきり同じだ。悪夢が、近づいてくる。――いや、網に捕まった魚のように、悪夢に、たぐり寄せられている。 (たすけ、て……、おかあ……さんっ!) ガクガクと震えながら、柚実は手が自分を裏切ってドアノブを掴みそれを回すのを、茫然と眺めていた。小さな軋む音を立てて、扉が大きく開かれる。 「………………あ?」 部屋の中で行われている光景を、はじめ柚実は理解できなかった。というよりも、彼女の常識や理性、状況を認識する能力を遙かにオーバーしてしまう出来事が、そこで少女のことを待ち受けていたのだ。 「……あ、ああ、あ、あ、ああああああ」 壊れた人形のように、意味のない、声ですらない“音”を、喉から溢れさせる。 そこには、母がいた。あれほど求めていた、母の姿。 しかし今の綾乃は、柚実にとっての『母』ではあり得なかった。 「ん……ああ、イイっ! もっと、……お願い、もっとお母さんを、深く突いて……ッ!」 綾乃は、全裸だった。二児の母とは思えない未だ若々しい白い肌を、惜しげもなくさらしている。脚を広げ、まるで幼児がトイレをするときにそうされるような格好で、後ろから男の膝の上に抱え上げられている。 そしてその足の付け根、薄目の体毛に飾られた女の部分には、彼女を串刺しにするように、硬くなった肉色の杭がうち立てられていた。 「やぁ……いや、……アアアぁぁぁ」 麻痺しきった柚実の頭に、現実がゆっくりとしみ込み、やがて彼女はそれを理解する。例えそれが、受け入れることが出来ない現実でも。 「ハア……ぁ、気持ちいい、もっとシテ……、“のぶはる”ぅ……」 「―――っ、いやあああぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」 最も猥褻な部分を見せつけるように繋がり、情欲に狂った獣のように交わる女と男。 それは少女の母を、実の息子――柚実にとっては弟である信治の肉棒が、犯す姿だった。 「ふう、ふうっ、……お母さんの中、すごいよ。……あったかくって、気持ちいい」 「んぅ……、信治も素敵よ……こんなに……アアッ、こんなに大きくなってただなんて」 柚実と、そして彼女の弟を生みだしたその場所を、まさにそのうちの一人である息子の信治の剛直が貫いている。幼いころの姉弟を抱き包み、育てたその乳房を、そこから出た母乳を飲んで育った息子の手が、後ろから好きなように揉みしだいている。 「イヤ……いやなの、もう……いやぁ……」 手で目を覆うことさえ忘れて、泣きながらもその狂った行為から目を離せずにいる柚実の横に、ふっと気配が現れた。 「お帰りなさい、柚実ちゃん。思ったよりも早く戻ってきたのね」 ギシギシと軋む首を曲げ、声の方を向く。そこには、相変わらずの綺麗な顔で笑う早由希が彼女を見ていた。 「でも、ちょうどよかったかしら。この二人、考えていたよりもよりもずっと簡単に、美味しく仕上がったから」 目を細め、愛おしそうに禁忌を踏み外した交わりを見る早由希。その眼差しは、ここにいる他の三人とは、明らかに違った。快感と狂気に酔っているわけでもなく、受容できない恐怖におののくのとも違う。ただ、普通に。その辺にいる女の子と、まったく変わらない微笑み。 「……早由希、ちゃん?」 だからこそ、柚実は彼女を、心の底から怖いと思った。本当に、……本当に、怖しい。 「早由希ちゃん、私達のイトコ……だよね?」 美しい少女は手を伸ばすと、柚実の頬を、その掌で優しく撫でる。白くて、細くて。まるでお人形さんの手のように綺麗で、そして冷たい手。 「そうよ、柚実ちゃん。わたしはあなた達の、親戚でお友達よ」 「……じゃあ、なんで?」 奥歯をカチカチと鳴らしながら震える柚実を、早由希は愛おしむように撫でる。頬をそっとくすぐり、乱れて目に被さった前髪を梳りながら横に流し、首筋を指先で愛撫する。 そしてクスリ……と、怯える少女に微笑みかけた。 「柚実ちゃん、おかしいよ。何を怖がってるの? おばさんも信クンも、あんなに仲良く、気持ちよさそうにしてるじゃない。それを怖がって泣いているなんて……ヘンなのは、柚実ちゃんだよ」 「…………」 早由希の“言葉”に、フウッと歪んでいた視界が元に戻った。全身を襲っていた悪い風邪でもひいたような震えが、すっと消え去っていく。 「そうか……そうだよね。親子で仲がいいのは、当たり前だよね」 彼女の言う通りだ。どうして、自分は泣いたりしていたのだろう? 柚実は恥ずかしくなって、手の甲で両目をごしごしとこすった。 「おかしいよね。どうして私、取り乱したりしたのかなあ?」 「そうね。きっと、おばさんと信クンが二人だけであんまり仲良くしてたから、仲間外れにされた気がしちゃったんじゃないかしら」 そうかもしれない。柚実は再び顔を正面に向けて、絡み合う母と弟の姿を見た。 「いい、気持ちいい……フアッ、はぁぁぁっ!」 「母さん、こんなに締め付けてきてる……もう、出ちゃいそうだよ」 信治は母の乳房をすくい上げるように愛撫し、そそり立つ肉棒で、下から突き上げるように激しく膣内をかき回す。綾乃はそんな息子を受け止めて、彼の最も敏感な部分を濡れた柔肉で締め付ける。 母の肉襞をめくり上げながら、弟のペニスがその中に出たり入ったりしている。その度に、綾乃は首を反らし、髪を揺らしながら気持ちよさそうな声で喘いだ。 「どう? お母さん、綺麗でしょう?」 言われて柚実は、ぼんやりと頷く。彼女の視線の先では母が髪の毛を乱し、汗を浮かべ、眉をぎゅっと寄せながら、理性を放り捨てたような嬌声を上げている。 「ンッ、はあっ……信治、もっと……もっとお母さんに、ハァ……信治の大きいのを頂戴っ!」 姉弟にとっては、いつも第一に『母親』であった綾乃。それが今、『女』としての悦楽に喘いでいる。それは確かに、柚実が知らなかった彼女の顔で……そして早由希が口にした通り、女としての美しさを感じさせる顔だった。 「お母さん……、どう? 感じる?」 腰を振りながら問いかける少年に、母は我慢できないというふうに首を振りながら、答える。 「うん……うんっ、熱くて……はぁッ、信治のが……イイの!」 二人の繋がった部分から、グチュグチュと、お互いを擦り合う音が聞こえる。 忘我の悦楽を共に与え合う、二人。今の彼等は、他の人間のことなど視野に入っていないように見える。柚実は、迷子になった子供のような寂しさを感じた。 「もうすぐ、一区切りつきそうね。そうしたら柚実ちゃんも、今度は混ぜてもらうといいわ」 「え……で、でも」 出された提案に、後込みしてしまう。柚実は、男性を受け入れた経験がない。母を穿っているあの逞しい肉茎は、いざそう促されてみると、禍々しい凶器のようにさえ感じられ、受け入れるのはムリだと逃げ出したくなる。 躊躇し、どうしようかと惑う彼女の細い肩を、美しい従姉妹の手が励ますように包み込んだ。 「大丈夫よ、柚実ちゃん。怖くなんてないわ」 後ろから抱きしめるように身体を寄せ、励ますように囁く。耳の後ろから首筋にかけての肌に声と共に吹きかけられる呼気が、背骨に沿って、柚実をゾクゾクと痺れさせる。 「だって柚実ちゃんは、こんなにイヤらしい娘じゃない。わたしと信クンが遊んでいるところを、ずっと覗きながら自分で自分のココを弄って、廊下でイッちゃったじゃない」 「ひ……ァア!」 服の上を這いながら降ろされた早由希の手が、スカートの上から柚実の敏感な部分をクッと押さえる。たったそれだけで、下着にぐちゃぐちゃに染み込んだ熱い液が、くちゅりと水音を立てる。 (やっぱり……あれ、夢じゃなかったんだ) 制御を失って感じてしまう卑猥な自分の肉体を突きつけられたようで、少女は恥ずかしさに耳まで真っ赤になった。 「今日だって、学校で猥らしい気分になっちゃって、それが我慢できなくなって、火照ってどうしようもなくなったアソコを早く弄りたくって。それで学校を、途中で早退してきたんでしょう?」 「イヤ、……やあぁ!」 何度も、フルフルと首を左右に振るが、そんなことで現実は否定できない。確かに柚実は指摘されたとおり、昨日のぞき見た早由希と信治の行為を思い出しながら、教室で股間を濡らしていたのだ。 全てを見透かした早由希の言葉に、ただ羞恥をつのらせる。 「フフフ……いいのよ、柚実ちゃん。わたし、そういう淫乱な娘が、大好き」 「そんな、アア……私……淫乱なんかじゃ……っ」 だが柚実には、早由希の指が拒めない。 ほっそりした指が優しく、そして正確に動き、柚実の纏う服を脱がしていく。胸元のリボンをするりと解き、ボタンを順番に外していった。 はだけられた布の下から、胎内を焼く火にピンク色に染まった肌が露わにされる。ひんやりした空気にさらされた肌は、しかし何故か、そうすることで余計に熱を増していくように思えた。 「大丈夫、怖くなんて無い。身体中が、こんなに自分を可愛がって欲しいって言ってるんだもの。本当は早く弄って欲しくって、仕方がないんでしょう?」 「そんなこと……」 だが鼓膜を振動させ、そこから精神の内部まで染み込んでくる早由希の声に、少女の心は容易く挫ける。 “くちゃ……クチュ” 「ふああ……ハアァァッ!」 下着の中に侵入した指が、硬くしこった乳首と、勃起した淫核をつまむようにこじった。全身に、電撃のような波が走る。 「ほうら、こんなに悦んでるじゃない。こんなにはしたない、発情したメス猫みたいな身体なんだもの。男の人に嬲ってもらうのが、嫌なわけ無いじゃない」 「――――っ!」 反論しようにも、躰が痺れてまともに動けない。さっきまでとはまったく違う理由でポロポロと涙をこぼす柚実の顎に、冷たい手が添えられる。乱暴ではない、しかし逆らうのを許さない力が、上気した少女の顔を上げさせた。 「見なさい。二人とも、そろそろ終わるらしいわよ」 こわばる目蓋を見開き、ベッドの上の二人に視線を向ける。性交を続ける二人は、大きな汗の滴を浮かべながら、歯を食いしばり、苦悶に耐える形相でより深く繋がり合っていた。 綾乃は息子の突き上げに眉を歪めながら喘ぎ、信治は母の乳房を掴む手に力を入れながらより強く、柔らかな女の肉体を抱きしめる。 「お母さ……僕、もう……イク、よっ!」 「いいわ、ハ……アァ、お母さんの中に、信治の熱いのを……いっぱい、ちょうだいッ!」 つぎの瞬間、母子の交わりを注視する柚実の前で、弟が母の躰をぎゅうっと抱きしめながら、痙攣するようにガクガクと震えた。 「ハァ、……あああァァァッ!」 ほとんど同時に、母がひときわ大きな快楽の声を上げる。柚実は、彼女が快感の絶頂に達したのだと知った。 ビクッビクッと、押しつけ合った腰が、脈動するように蠢く。 「ほら……おばさん、信クンの熱い精子を身体の中にもらって、あんなに歓んでる」 「……中で、出しちゃってるんだ」 息を飲み、呆然とそれでいて目を離すことが出来ずに、そんな母と弟を眺める柚実。彼女に見つめられながら、二人の身体が力を失い、ベッドに倒れ込んだ。 「ハァ、ハァ、ハァ……っ」 荒い息づかいが、部屋の空気に溶けていく。綾乃の膣内から力を失った信治のペニスがにゅるんと抜け落ち、だらしなくさらされた女裂の隙間から白濁した粘液が、ドロリとこぼれ落ちた。 (お母さん……、ノブ……) 生まれて初めて直面する本物の性交に圧倒されてしまっている柚実の頬に、そっと手が触れる。そのまま彼女の首を横に向かせると、早由希が顔を寄せてきた。本当の花弁のように赤く美しい唇が、彼女の唇をもとめて近づいてくる。だが柚実は、力の入らない腕でそれでも早由希を拒み、顔を背けた。 「い、や……わたし、初めて……」 「あら」 クスクスと笑う早由希に、柚実は情けなさに顔を赤くする。クラスでも何人もの同級生達が、既に初体験を済ませていた。なのに男の子とつき合ったことのない自分は、まだキスすら経験したことが無いのだ。 「ああ、笑ったりしてごめんね。でも、嬉しいわ。まだ濁ったりしていない美味しそうな『匂い』だとは思ってたけど、こんなにまだ穢れ無かっただなんて」 柚実の頬を軽く唇で撫でると、少女は身体を離す。 「じゃあ、そんな柚実ちゃんには、特別のキスをしてあげる。イヤらしい柚実ちゃんにピッタリのファーストキスの味を、体験させてあげるね」 そう言うと早由希は、綾乃と信治が横たわるベッドに近づいていく。そしてまだグッタリとしている綾乃の太股に手を掛けると、その間に顔を伏せていった。 “ぴちゃ……ずずっ” 下品な音を立て、早由希の頭が小さく動く。それに反応して、力無く横たわっていた綾乃の口から、「う……っ」と快感の小さな悲鳴が上がる。 (早由希ちゃん……そんな、まさか信治が出したのを?) 間違いない。美しい従姉妹は、性交の跡も生々しい母の股間に顔をつけて、肉壁の間からこぼれ落ちる愛液とそこに出された精液とが混じったものを、口ですすり取っているのだ。 少しの間そんな行為を続けて、満足したらしく顔を上げて柚実の方を向く。やはり想像したとおり彼女の整った顔は、口元をテラテラと光る粘液で汚らしくしていた。 「え……?」 その彼女が、再び柚実に近づく。こんどは逃げる間もなく、その唇が、柚実の唇に深く重ねられた。 「ふぐっ、ンンンッ!?」 顔を背けようとするが、早由希の両の手に頭を押さえられ、それもできない。舌が強引に唇を割り、その隙間からドロリと生臭い味をした液体が流し込まれた。 (これ……ノブと、母さんの!?) 今更ながら事態に気づき、必死に吐き出そうとする。しかし、 「だめよ、柚実ちゃん。出すなんて、許さない。“そのまま、飲み込むの”よ」 ピシリと浴びせかけられた声が、その行動を阻んだ。 「フゥッ、うぐぐぅぅ……っ」 口いっぱいに広がるエグくて臭い粘液の味に耐えきれず、哀願の視線を早由希に向ける。しかし彼女はそれには応じず、励ますような笑顔を浮かべながら言った。 「大丈夫よ、柚実ちゃん。そのまま、飲んでみて? あなたはイヤらしい娘だもの、きっと美味しく感じるから」 (……あ、ああっ) 目をギュッとつぶり、ゴクリ――と、口の中の汚濁をお腹の中に送り込む。絡みつくようなそれが喉を通り抜ける瞬間、しかし確かに、柚実はどこか頭の奥の方を痺れさせるような快感が生まれるのを自覚した。 「……どう? 柚実ちゃん。美味しかったでしょう」 未だ口の中に残る性臭を、唾液と一緒に何度もに分けて飲み込む。その度に、さっきと同じ快楽のさざ波が立ち、それが全身の疼きに快感の痺れを伝播させていく。柚実は少女の問いかけに、コクリと小さく頷いて応えた。 「そう、よかったわね。そんなに美味しい、ファーストキスの味が体験できて。お母さんと信クンに、感謝しないとね」 早由希の祝福の言葉を受けながら、柚実は自分の股間に、新たな熱を伴った湿り気がじゅくじゅくと溢れ出すのを感じていた。
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