???「○○……」
振り返ると、そこにはアランの姿があった。
「アラン……」
アラン「道の真ん中で、ぼーっとしてんなよ」
近づいてきたアランが、私の額を軽くはたく。
「……っ…うん」
見上げると、アランがふっと笑みを浮かべて窓の外を見た。
アラン「まあ、確かにいい天気だけどな……」
「…………」
私はアランを見上げ、じっと考える。
(誕生日プレゼントに何が欲しいか、直接聞いてみようかな……)
アラン「……なに」
私の視線に気づき、アランがけげんな表情を浮かべて私を見た。
「ねえ、アラン。欲しい物ってない?」
アラン「……ん?」
私の問いかけに不思議そうに首を傾げながらも、アランが口を開く。
アラン「ねえよ。なんだよ、急に」
「…………」
(あれ、もしかして……)
疑問に思い、私はアランの顔を覗きこんだ。
アラン「……?」
するとアランが、ますます眉を寄せ首を傾げる。
アラン「だから、何だよ」
(誕生日のこと、覚えてないのかも……)
気づき、私は思わず呟く。
「……レオも、同じかな」
すると私の言葉に、アランがぴくりと眉を上げた。
アラン「……は?」
眉を上げ、アランが不思議な表情を浮かべ私を見おろす。
アラン「お前、何であいつの欲しいもの気にしてんだよ」
「え、だって……」
(アランの誕生日は、レオの誕生日でもあるんだし……)
アランの言葉に驚き顔を上げると、目があった。
アラン「…………」
眉を寄せるアランの顔に、私はふと思い至る。
(本当に、自分たちの誕生日のこと覚えていないのかな……)
「…………」
じっと見つめると、アランがわずかに首を傾げた。
(それだったら、このままサプライズでお祝いしてあげようかな)
アラン「……お前」
アランが、私の顔を覗き込むようにして尋ねる。
アラン「……何企んでんだよ」
「何でもないよ」
ごまかすように笑みを浮かべ、私は歩きだした。
(アランに喜んでもらいたいから、今は言わないでおこう)
すると私の手を取り、アランが低い声で言う。
アラン「ちょっと待て」
(え……?)
振り返ると、アランが掴んだ手をそのまま引き寄せた。
アラン「…………」
「アラン……!?」
アランが強引な力で、私の手を引いていく。
「どこ行くの?アラン」
アラン「…………」
アランは黙ったまま、前だけを厳しい目で見つめたまま歩いていった。
廊下の影に隠れると、ようやく振り返る。
「……?」
そして私を見おろし、低い声で尋ねた。
アラン「お前、俺に……」
アランが言いかけた、その時…―。
どこか遠くから、アランを探す騎士たちの声が聞こえてくる。
アラン「…………」
(あ……アラン、もう行かなくちゃいけないんだ)
私の手から、アランの指先が離れていった。
声の方にわずかに視線を寄せるアランを見上げ、私は口を開く。
「じゃあ、私行くね」
アラン「…………」
すると背を向けた私の肩に、アランの腕がまわった。
「……っ…」
突然抱き寄せられると、アランの顔が肩口に埋まる。
「え、アラン……?」
アラン「…………///」
私の肩に息を吹きかけるようにため息をつくと、
アランが小さな声で、ぽつりと呟いた。
アラン「行くのかよ。俺が話があるって言ってんのに」
「え……」
アラン「…………」
肩口に顔をうずめるアランの震えるような声に、鼓動が高鳴る。
(アラン……何だか、寂しそうな声だけど)
その間も、アランを探す騎士たちの声は近づいてきていた。
(どうすればいいんだろう、このまま黙っていたほうがいい?)
「……あの、アラン」
アラン「…………」
悩みながら名前を呼ぶと、アランの顔が肩から離れていく。
見上げると、アランが顔を反らしたまま小さな声で言った。
アラン「バーカ、冗談だよ」
アランが私の身体を離し、それ以上は何も言わないまま去っていく。
「アラン……?」
後ろ姿に声をかけるものの、振り返る様子もなく去っていくその背中に、
私は残されたまま、一人首を傾げていた。
「…………」
(アランは、何か話したかったんだよね……)
そうして私は歩いていくと、先程と同じ窓から外を見上げる。
(今夜、アランの部屋に行ってみよう……)
(アランの話を、ちゃんと聞きたい)
そして、その夜…―。
私は、アランの部屋のドアを叩いていた。
「……あれ?」
部屋の中から灯りが漏れているものの、返事はない。
「…………」
(どうしたんだろう……)
部屋のノブを握り、私はそっとドアを開いていった。
「アラン……?」
私は小さな声で呼びかけながら、ベッドに近づいていく。
横になった姿を覗き込むと、アランは静かに眠っていた。
「…………」
その寝顔に、私は昼間の出来事を思い出していく。
―アラン「行くのかよ。俺が話があるって言ってんのに」―
―アラン「…………」―
―アラン「バーカ、冗談だよ」―
子どものようなあどけない寝顔を見おろしながら、私は息をついた。
(話を聞きたかったんだけど……)
(また明日、来ようかな)
そして立ち去ろうと背中を向けると、低く掠れた声が響く。
アラン「○○……」
「え?」
思わず振り返ると、アランが目を閉じたまま寝がえりをうった。
「…………」
(もしかして、寝言……?)