???「○○ちゃん……」
振り返ると、そこにはレオの姿があった。
レオ「何してるの?そんなに急いで……」
「えっと……」
レオ「アランが料理?……ふーん」
アランが料理していると話すと、レオがふっと目を細める。
「……レオ?」
レオの何か言いたそうな表情に、私は首を傾げた。
するとレオが吹きだすように笑い、口を開く。
レオ「ねえ、アランが料理する理由って、わかる?」
「……理由?」
面白そうに言うレオが、私の顔を覗き込んで言った。
レオ「アランってさ、悩み事とか考え事があると、料理を始めるんだよね」
「……悩み?」
(それって……)
レオの言葉に、私ははっと顔を上げる。
レオ「美味しい料理が食べたければ、どんどんアランを悩ませるといいよ」
キッチンに戻ると、アランが振り返り眉を寄せた。
アラン「おせーよ」
「うん。ごめん……」
私は調味料を手渡しながら、アランを見上げる。
(アラン、何か悩んでるのかな)
「…………」
じっと見上げ考えていると、
やがてアランが鍋に視線を落としたまま呟いた。
アラン「……なんだよ」
アランの低い声にはっと顔を上げ、私は小さく首を横に振る。
「ううん」
(アランに直接聞いても、きっとはぐらかされるだけだろうな……)
そうして息をつき、私はアランと同じように作業台に向かった。
何も聞くことの出来ない沈黙が、キッチンの中に流れている。
アランの手伝いで包丁を握っていた私は、
小気味良い音を響かせながらも、アランのことを考えていた。
(やっぱり、気になる……)
「……アラン、あの」
そうして話かけた、その時…。
「……っ」
包丁が指先に軽く触れ、薄らとした傷がついてしまった。
アラン「何やってんだ、バカ」
「ごめん、ぼーっとしてて」
(でもこれくらいなら、手当てする必要はなさそう)
ほっと指を見おろしていると、アランが呆れたようにため息をつく。
アラン「仕方ねえなぁ」
私の手を取ったアランが、その指先にゆっくりと顔を寄せた…。
そして薄く切った指先を口に含んだ。
「っ…ア、アラン…!」
顔が途端に赤く染まり、私は思わず声を上げる。
すると至近距離で目が合い、鼓動が大きく跳ねた。
アラン「消毒、だろ?」
ふっと笑みを浮かべ、アランが告げる。
アランの口から離れた指先が、空気に触れ冷やりとした。
「あ……」
その途端、足首から力が抜け転びそうになってしまう。
「……っ…」
アラン「あぶね」
片手で私の身体を支えたアランが、私の靴を見おろして息をついた。
アラン「料理の時にこんなの履いてんなよな」
(そうだよね……)
わずかにうつむいた私の顔を覗きこみ、アランが目を細める。
アラン「今度出かける時に、履いてこいよ」
「……う、うん」
何気ないデートの約束に頬を染めると、アランが顔を寄せキスをした。
唇が触れ、一度だけついばむと、アランが顔を上げる。
アラン「…………///」
そっと息をつくアランに、私は小さな声で聞いた。
「あの、アラン……何かあった?」
アラン「……何もねえよ」
呟き、アランが私から離れていった。
そして…―。
一緒に出来あがった料理を食べながら、私は自然と尋ねる。
「アランって、何ケーキが好き?」
アラン「……なんだ、それ」
そうしてけげんな表情を浮かべながらも、アランがぽつりと答えてくれた。
アラン「…………」
アラン「……チョコ」
「……チョコのケーキ?」
思わず聞き返すと、アランがほんのりと頬を染めて私を見る。
アラン「なんだよ///」
「ううん」
(何だか、可愛いなあ……)
私はアランに気づかれないように、口元をほころばせた。
そして公務の合間、私はジルの許しを得て城下を訪れていた。
「あった……!」
チョコケーキの材料を手に、私はほっと息をつく。
(良かった……これで作れるよね)
そうして帰ろうと、歩いていると…―。
男「ねえねえ、何してるの?」
「え?」
ゆく道を遮る男の人に声をかけられ、私は足を止めた。
男「これから、一緒にいいところ行かない?」
「あの、どいてください…」
男「ちょっとだけだからさ」
しつこく迫る男の人に眉を潜め、私は思わず顔をうつむかせる。
(どうしよう……)
するとその時、後ろから力強く肩を引かれた。
「え……っ」
驚くうちに、私の身体が誰かの腕の中にすっぽりと包まれる。
???「触んな」
(この声は……)
アラン「……こいつ、俺の連れだから」
(アラン……!)
私の身体を片手で抱き寄せ、アランが目の前の男の人をにらみつける。
低く鋭いアランの声音に、男の人が震えるように眉を下げた。
男「な、なんだよ。先に言えよな」
「……あ」
人ごみに走り去っていく男の人の後ろ姿を見つめ、
私はほっと胸をなで下ろす。
(良かった……)
すると肩から、アランの腕が離れていった。
「アラン、あの……」
アラン「…………」
振り返ると、アランが私をじーっと見おろしている。
「ありがとう、助けてくれて」
その時、騎士姿のままのアランに、
私を探しに来てくれたのだと気づいた。
「それと……ごめんなさい」
するとアランが深く息をつき、諦めたように言う。
アラン「別にいいけど。慣れたし」
アラン「ほら、もう満足しただろ」
そうして伸ばされたアランの手を自然に取ると、
そのまま引き寄せ、アランが人ごみの中を歩いていく。
「…………」
(こうして当たり前のように手を引いてくれて、嬉しいな)
私はアランを見上げたまま、そっと尋ねた。
「……ねえ、アラン。本当に欲しいものはないの?」
アラン「……聞いて、どうするんだよ?」
「えっと……」
(どうしよう……誕生日のこと、もう話してしまおうかな……)