???「○○ちゃん?」
振り返ると、そこにはレオの姿があった。
レオ「どうしたの?そんな所でぼーっとして」
「あ。ちょっと考え事を……」
慌てて答えようとしてから、私はふと口をつぐむ。
(レオに直接、聞いてみようかな)
レオ「ん?」
近づいてきたレオが、私の顔を覗きこむように、首を傾げた。
「レオ、欲しい物って……」
尋ねかけたその時、廊下の先から私を呼ぶ声が響いてくる。
ユーリ「いたいた、○○様」
「え?ユーリ、どうしたの?」
思わず視線をユーリへと移すと、レオも一緒に振り返った。
レオ「…………」
ユーリ「ジル様が、呼んでるよ!」
ユーリに呼ばれ部屋を訪れると、ジルが舞踏会の話を口にした。
ジル「他国を招いて盛大に行われるものです」
「は、はい」
(……プリンセスとして、しっかり務めなくちゃ…)
緊張に思わず息を飲むと、ジルがふっと目を細めて言う。
ジル「ちなみに」
ジル「プリンセスには、パートナーと一緒に出て頂きます」
「え、パートナーって」
プリンセスとして次期国王を未だ決めていない私には、
正式なパートナーはまだ決まっていないはずだった。
(舞踏会で、エスコートしてもらう男の人ってことだよね)
考えていると、ジルが静かに口を開く。
ジル「ハワード卿が適任かと思いますが……」
「あの、ジル」
ジルの言葉を遮るように、私は声を上げた。
(パートナーを選ぶなら、私は……)
しばらく待っていると、部屋のドアが叩かれる。
レオ「……何の用?ジル」
レオが顔を出すと、ジルがわざとらしくため息をついた。
ジル「プリンセスが、貴方をご指名なのですよ」
レオ「え?俺?」
レオの視線が、ソファから立ち上がった私へと寄せられる。
ジル「まあ、心配はいらないと思いますが……」
ジル「くれぐれも余計な真似はしないように、お願い致します」
するとようやく事態を飲みこんだのか、レオが薄らと笑みを浮かべた。
レオ「……はいはい」
そして私を見おろし、レオがふっと目を細めて言う。
レオ「ダンスの特訓しなきゃね」
「うん。よろしくお願いします」
頭を下げて言うと、様子を見守っていたジルが口を開いた。
ジル「舞踏会は、1月22日になります」
ジル「それまでに、準備をしておいて下さいね」
「え、その日って……」
ジルの言葉に思わず声を上げ、私は慌てて口をつぐむ。
(レオの誕生日の、前日ってことだよね……)
部屋を出ると、私はレオの顔を覗きこんだ。
「ごめんね、前の日に……なんて」
(きっと舞踏会まで、忙しくなっちゃうよね)
レオ「……前の日?」
するとレオが、目を瞬かせながら尋ねる。
レオ「何のこと?」
「……あ」
その言葉に、私は軽く首を傾げた。
(もしかして誕生日のこと、忘れてるのかな?)
私は閃き、思わず顔を上げる。
(だったら、サプライズでお祝いをしてあげたいな)
考えていると、隣を歩くレオが足を止めた。
つられて足を止めると、レオが私の顔を間近からのぞきこむ。
「……っ」
レオ「○○ちゃん、俺に何か隠してる?」
間近な距離で顔を覗きこまれ、鼓動を跳ねさせながらも私が首を横に振った。
「隠してなんか、ないよ?」
レオ「…………」
レオ「へえ、秘密にするんだ」
するとレオが、半ば私の頬に吹きかけるようにため息をつく。
レオ「本当。嘘つくのが下手だよね、○○ちゃんは」
「……?」
(今、聞こえなかった……)
微かな呟きに顔を上げると、レオがふっと目を細めた。
レオ「じゃあさ、勝負しようよ」
レオ「舞踏会が終わるまでにしゃべったら、○○ちゃんの負け」
「え……?」
目を合わせると、レオがふわりと笑みを浮かべる。
レオ「負けた方は勝った方の言うことを一つだけ聞くっていうのは、どう?」
「え……!?」
(勝負って……)
慌てて顔を上げると、レオが面白そうに笑って言う。
レオ「ね?」
「…………」
その笑みに断ることも出来ず、私は小さく頷くしかなかった。
そして、翌日からレオとのダンスレッスンが始まった。
レオ「よろしくね、○○ちゃん」
にっこりと微笑み伸ばされた手に、私は静かに指先を乗せる。
(大丈夫かな……)
レオの手が、不安に思う私の指先をぎゅっと握った…。
舞踏会のため、私はレオと一緒にダンスのレッスンをしていた。
「あっ」
つまずいてしまった私の身体を、腰元からレオが支えてくれる。
レオ「勉強と一緒だよ、○○ちゃん」
レオ「考えて、足を出して」
「うん……」
レオの手を握り直し、私はそっと息をついた。
(そういえば今までは、何も考えていなかったかも)
そして、レッスンは続き…―。
「…………」
(だいぶ、つまづかなくなったかも)
(レオのリードが、上手いからだとは思うけど)
ちらりと見上げると、至近距離で目が合う。
レオ「…………」
するとふっと目を細め、レオが腰元に置いた手に力を込めた。
「えっ……」
身体の距離がなくなるほどに引き寄せられ、私は驚き声をあげる。
絡んだレオの指先が、私の手の甲を撫でるように動いていった。
「や……レオ、足が出せないよ」
(このままじゃ、レッスンが出来ない……)
心臓の音が聞こえそうなほどの距離で、私は顔を背けて言う。
するとレオが、からかうように口を開いた。
レオ「離れてほしい?」
レオ「じゃあ……」