レオ「離れてほしい?」
レオ「じゃあ……」
レオが顔を寄せ、低い声でささやく。
レオ「……隠してること、話してみてよ」
「……っ」
その瞬間、私はレオとした勝負のことを思い出した。
―レオ「舞踏会が終わるまでにしゃべったら、○○ちゃんの負け」―
―レオ「負けた方は勝った方の言うことを一つだけ聞くっていうのは、どう?」―
(今誕生日のことを話してしまったら、サプライズにもならないし……)
私は顔を背けたまま、小さな声で告げた。
「は、話さないよ」
レオ「……強情だなぁ」
ふっと笑みをこぼすと、レオが顔を離す。
レオ「仕方ない、レッスンしようか」
そしてレッスンを終え、
私は公務に戻ったレオと別れ、一人執務室に向かっていた。
(レオとの練習って、ドキドキして心臓がもたないかも)
レッスン中の身体の近さを思い出し、顔が赤らんでしまう。
雑念を振り切るように顔を上げると、そこにアランの姿を見つけた。
「アラン……!」
思わず呼びとめると、アランが眉を寄せ振り返る。
アラン「……?」
振り返ったアランを見上げ、私は尋ねていた。
アラン「は?あいつの欲しいもの?」
不機嫌そうに眉を寄せ、アランが声を上げる。
アラン「何で俺が知ってんだよ。自分で調べりゃいいだろ」
「……そうだよね」
(確かに、その通りだな)
アラン「…………」
微かに顔をうつむかせると、アランがふいっと顔を背けた。
アラン「あいつ、生クリームといちごが好物だから」
「え……?」
(生クリームと……いちご?)
見上げると、ほんのり頬を染めたアランと視線が合う。
アラン「じゃあな///」
アランの後ろ姿を見送り、私は窓の外を見やった。
冬の高い空には、刷毛で撫でたような雲が浮かんでいる。
(いい天気……)
(そういえばこんな日に、レオと二人で丘に出かけたことがあったな)
レオ「……このブレスレット、可愛いね」
手首を持ちあげ、レオが口元に笑みを浮かべる。
レオ「○○ちゃんに、似合ってるよ」
そしてレオがゆっくり、イチゴのブレスレットにキスをした。
「…………」
(イチゴが好きだから、このブレスレットも褒めてくれたんだ)
腕を見おろすと、あの時と同じブレスレットがある。
(何か私にあげられるものは、ないのかな……)
考えていた時、窓の外にレオの姿を見つけた。
「……あれ?」
普段とは違うレオの私服姿に、首を傾げる。
(もしかして、城下に行くのかな?)
その時、アランの言葉を思い出した。
―アラン「何で俺が知ってんだよ。自分で調べりゃいいだろ」―
(私にはまだ、知らないことがたくさんあるけど……)
(一緒に行けたら、レオのことも何かわかるかも)
私は慌ててジルの許可を取り、城下へと降りてきていた。
(レオ、どこにいるんだろう……)
広い市場を見やり、視線を落としてため息をつく。
「ここで探すなんて、無謀だったかな……」
思わず呟いたその時、目の前に影が落ちた。
???「……何やってるの?○○ちゃん」
「え?」
驚き顔を上げると、レオが目を瞬かせている。
レオ「何か探し物?ずっときょろきょろしてるけど……」
「あの、レオを探して……」
レオ「俺?なんで?」
(どうしよう、何て説明すれば……)
言葉に迷っている私を見おろし、不意にレオが手を差し出す。
レオ「とりあえずおいでよ、一緒に行こう」
「……うん」
私はほっと息をつき、レオの手を取った…。
レオに手を引かれ、私は路地を歩いていた。
次第に人気もなくなり、私は不安を感じるまま辺りを見渡す。
(こんな路地裏、初めて来た)
「…………」
(レオは、どこに行くんだろう……)
黙ったまま歩いていくその横顔を見上げると、
不意に視線を落とし、レオが笑みを浮かべる。
レオ「ちょっと用事があるんだよ」
それだけ言うと足を止め、私の顔を覗きこんだ。
レオ「行き先、気になる?」
「うん……」
(ここに、何があるんだろう)
頷くと、レオがふっと目を細めて手を伸ばす。
(え……?)
レオの手が後ろの壁につくと、私は追いつめられるように後ずさった。
背中が壁につく冷やりとした感触に、思わず息を飲む。
レオ「じゃあ、俺にも教えて?」
「……何、を?」
熱い吐息が髪にかかり、私は顔を背けた。
途端にレオの指先が私の顎をとらえ、ゆっくりと上向かせる。
レオ「○○ちゃんが、秘密にしてること」
「……っ…」
(それって……)
そしてレオの顔が静かに寄せられた、その時…―。
唇が触れる寸前、近くの扉が開き人の姿が見えた。
(あ……人が)
思わず身を堅くすると、レオが笑みをこぼし私の頭に手を置く。
レオ「邪魔されちゃったね。仕方がない、入ろうか」
「え?」
レオがそう言いながら足を向けたのは、開いたばかりの扉の中だった。
(ここは、酒場……?)
昼間だと言うのに薄暗い店内に、私は目を凝らす。
レオ「こういうところ、初めて?」
「うん」
(でも昼間だからかな、あんまり人はいないみたい……)
辺りを見回していると、レオが振り返って言った。
レオ「ちょっと待っててくれる?」
レオ「誰かに声をかけられても、答えちゃダメだからね」
「うん」
私は頷き、大人しく近くの椅子に腰かける。
(一人だったら絶対に来られなかったから、何だか新鮮だな)
考えながらレオの帰りを待っていると、突然に客の一人が話しかけてきた。
客「見ない顔だなー。俺の酒、飲んでみな」
「いえ……結構です」
断り顔を背けると、客がむっと眉を寄せた。
客「酒が飲めないなら、出ていきな」
客「ここは酒を飲む奴らが来るところだからな」
「…………」
その声音にびくりと背中を震わせ、私はゆっくりと視線を戻した。
そして、テーブルの上のお酒を見る。
(ここで待っていたほうが良いだろうし…)
(少しだけなら……)