アラン「俺の方が、無理だったかもな///」
(アラン……?)
抱きしめる腕の力が強くなり、私は顔を上げた。
「…………」
(もしかしてアランも、寂しいと思っていてくれたのかな)
どこかほっとしたような思いを感じ、
私はアランの胸に顔をつけながら、深く息をつく。
アラン「明日から……」
「え?」
アランがぽつりと、低く呟く。
それは、明日から騎士団長として遠征をするという話だった。
「そんな……私のせい……?」
(私との噂が、原因なんじゃ……)
不安に息を呑むと、アランが私の身体を離し、頭を優しく小突いた。
アラン「んなわけねーだろ」
そうして笑みを浮かべると、そのまま髪を撫でる。
アラン「お前はお前のやるべきことを、やっとけよ」
(私の、やるべきこと……)
見上げると、アランが真っ直ぐに私の目を見おろして告げた。
アラン「プリンセス」
「……っ」
その言葉に、大きく一つ鼓動が跳ねる。
(そうだ。私には、やるべきことはたくさんあるんだよね)
頷く私の姿に、アランがふっと笑った。
アラン「じゃあな」
そして部屋を去る直前、私はアランに尋ねる。
「アラン、いつ帰ってくるの?」
アラン「ん?確か……」
アランが口にした日づけに、私はあっと声をあげた。
(バレンタインの日……?)
アランから告げられた日づけに、私は思わず尋ねた。
「それって……何の日か、知ってる?」
するとアランが軽く首を傾げ、にやりと笑みを浮かべる。
アラン「ああ。チョコの日な」
「うん」
(……アラン、もしかしてチョコが好きなのかな)
やがて目を瞬かせる私の顔を覗きこみ、アランが言った。
アラン「用意しとけよ?」
「わかった」
頷くと、アランが目を細める。
アラン「あと、俺がいなくてもべそかくなよ?」
「か、かかないよ」
慌てて口を開くと、アランがふっと吹きだすように笑った。
アラン「どうだか」
アランの視線が、私へと向けられる。
その視線を受け止め、私の鼓動が速まっていった。
(あ……)
顔が近付き、キスの予感にゆっくりと目を閉じた、その時…―。
「……っ」
突然に部屋のドアが叩かれ、私は背中をびくりと震わせた。
???「プリンセス、少しよろしいですか?」
(この声は、ジル……?)
見上げると、アランはじっとドアを見つめている。
アラン「…………」
(どうしよう……)
部屋のドアが静かに開き、椅子に腰かけていた私は顔を上げた。
「どうしたんですか?ジル」
ジル「明日からは公務に出て頂きますので、そのことを知らせに……」
ふと言葉を止め、ジルが私の顔を覗きこむ。
ジル「……どうかしましたか?」
「いえ……」
私は跳ねる鼓動を隠すように胸の前で手を握り、首を横に振った。
やがてジルが去りドアを閉めると、私はゆっくりと振り返る。
「行ったよ、アラン」
アラン「ん」
ベッドの後ろから姿を見せたアランが、大きく息をついた。
そのままベッドに腰かけると、黙って私を手招く。
「え……?」
私は招かれるまま、そっとアランに近づいていった。
すると正面に回った私の腰元を抱き寄せ、アランが見上げる。
「……っ」
アラン「お前はさっきの続き、したくないの?」
アランの言葉に、私の頬がかあっと赤く染まった。
(続きって……)
じっと見上げるアランの視線を受け止め、私は息を呑む。
「…………」
やがて目を合わせたまま、顔を寄せていった。
唇が重なると、アランの手が私のうなじを引き寄せて…。
静かな部屋の中で、アランの吐息だけが耳をくすぐる。
「ん……」
やがて唇が離れると、アランが軽く首を傾げた。
アラン「…………」
「……アラン?」
顔を覗きこまれ、私は目を瞬かせる。
するとすぐに、アランが私の腰から手を離し立ち上がった。
アラン「……じゃあ、俺行くから」
(え……?)
立ち去ろうとするアランの服の裾をつかみ、私は思わず引き留めた。
アラン「……なに」
「あの、もうちょっとだけ」
(しばらく逢えない分、話がしたいのに……)
アラン「…………///」
振り返ったアランが、眉を寄せた。
その頬は、心なしか赤く染まっている。
アラン「このままだと、帰れなくなんだろ///」
「……っ」
アランの言葉に服の裾を離し、私も顔を赤くした。
短い沈黙の後で、アランの手が私の髪に触れる。
アラン「大人しく待ってろよ」
「……うん」
笑みを浮かべて頷くと、息をつくように微笑んだアランが、
もう一度だけ、優しいキスで触れた…。
そして、翌朝…―。
部屋で支度を整えていると、ユーリが姿を見せた。
ユーリ「あれ、○○様。それ可愛いね」
にっこりと微笑むユーリが、私の足元に視線を落としている。
「ありがとう」
私は鏡に自分の姿を映しながら、
まだ噂がたつ前、アランと交わした会話を思い出していった。
アラン「へえ」
ベッドに腰かけるアランが、私の足に視線を向け声を上げる。
「な、なに?」
尋ねると、アランが手を伸ばし私のタイツの柄をつついた。
「や……やめて、アラン」
頬を染め思わず軽く飛び退くと、アランがにやりと笑う。
アラン「じゃあ、脱がされるのとどっちがいいんだよ?」
「え……!?」
(どっちがって……)
思わず目を瞬かせると、アランが吹きだすように笑いだした。
アラン「バーカ、冗談だよ」
(あの時と、同じタイツ……)
あの時と同じように頬を赤くすると、ユーリが不思議そうに顔を覗きこむ。
ユーリ「どうかした?」
「ううん、何でもない」
私は慌てて首を振り、深く息を吸いこんだ。
「行こう、ユーリ」
そうしてアランのいない城で、
私はプリンセスとしての公務に追われていった…。
そんなある日、私は息抜きのために庭へと出ていた。
(毎日が忙しくて、あっという間に過ぎていく。でも……)
「寂しいな……」
ぽつりと呟くと、その瞬間後ろからそっと腕を取られた。
(……え?)