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高浜虚子と心の闇

2012-04-30

ニコ百合-1

02:14

 初めは綺麗な人だと思った。

 ニコニコ動画で歌を歌う人、踊る人、そして演奏する人。その中の一人で、とても綺麗な人、最初にマキに思ったのはそんな事だった気がする。

 最初に再生したのはVOCALOIDの曲で、カメラに向かってベッドの上で、ギターを弾きながら歌っていた動画だった。ありがちな表現だけど透き通るような歌声で、ギターを弾きながらだったのでたまに音程が狂って、そのたびにトチったかのような表情をするのが、なんだか良かった。顔を上半分隠しながらでも視線はカメラを向いていないのはわかって、どこか遠くを見ているのが何より一番綺麗だと思った。

 彼女の歌に、いや彼女のありかたにとても惹かれた。ああ、私がなりたかったもう一人の自分、それを考えたら多分彼女のようになるんだと思った。

 ギターを手に跳ねるように歌う人。カメラの中に映る彼女の部屋は機能的で整然としたあまり女の子らしくない部屋で、憧れの先輩がいたとしたらこんな感じなんだろう。動画についた投稿者のコメント欄には「自信は無いですけど、コメントがあると嬉しいです。」とあったので、「カッコいいです。」「綺麗です。」とコメントに入力して、彼女の他の動画を見た。

 ある動画は他の歌手の歌を歌って、ある動画はVOCALOIDの早いテンポのギターを引いていて、ヘッドフォンを通して彼女の部屋から聞こえるそれを、その日から私は楽しみにするようになった。


「ねえケイ。歌ってみたに投稿しない?」

 私にそう言ったのはいつも一緒にいるあかりとあいかだった。二人もニコニコ動画でよくニコニコ生放送というの見て、あの人がカッコいいだとか、あの人近くに住んでるみたいだとかそういう話をよくしてくる。うちの学校でも放送している人がいるみたいだけど、私はよく知らなかった。

「うーん。私あんまり歌に自信ないし、顔出すのも怖いし? やめとくかな〜」

「ほらケイ前に言ってたじゃん、歌ってみたで憧れてる人がいるって。ブログや動画にコメントつけるだけより、私も歌ってみましたー! って見せたげた方が、ケイも覚えてもらえるかもしれないじゃん」

「そうだよ。実際歌い手や生主同士で仲良くなるとかオフするとかあるみたいだし、ケイの事も知ってもらったほうがいいよ」

 あの日から私はマキさんのコミュニティに入って彼女のことをよく知るようになった。そこにあったブログの彼女はハキハキとした感じが印象通りだったし、それでいて思いやりのある人だというのは、私がつけたコメントにも心を込めて書いたのがわかる返事をしてくれた事から伝わった。その事が嬉しくて彼女が動画を上げるたびに私は一番に聞いてコメントをつけた。

 彼女のことをたくさん知って、そして彼女への憧れはもっともっと強くなった。だからもっと私のことを知ってもらいたい、そう思った。

「うん、わかった。自信ないけどさ、やってみようと思う」

「まー、三人で歌えば誤魔化せるって!ほら、カラオケいこ?」

 見ていてくださいマキさん。私も頑張ってみせます。そう心で思った私はぐっとこぶしを握って決心した。

 

「動画見た?やっぱりあんまり再生数伸びないねー」

「まあいっぱい投稿してる人いるしさ、それに私たちあんまり上手くないし」

「でもコメントついてたよね。あれマキさんじゃないの?ケイちゃんがんば〜って奴」

「えええ!そんなコメントあったっけ!」

 あまりの衝撃に胸が高鳴った。昨日カラオケで録音した歌をあかりがアップロードしてたのを真っ先に聞いて、そして私のパートに変な所が無いか確認してからURLを彼女のブログのコメントに書いた。「ケイです。私も友達と歌ってみました!よかったら聞いてください!」そう書き込んだあと顔が熱くなるのを感じながらベッドに入った。どうかマキさんがいい反応をしてくれますように、そうベッドの中でずっと考えていて眠れなかった。

「マキさんかー。もしかして私たちの一人目のファンになるかもよ?」

「やめてよ!やめて、恥ずかしいから!ちょっとあかり!」

「え、何?照れてるの?」

「や、や、や」

 そう言いながらも私は期待してた。私がケイさんに憧れたように、ケイさんも私の事を認めてくれるかもしれない。歌もなんだかんだいって私もそこそこ上手いし、私に興味を持ってくれるかもしれない。

 歪な下心かもしれないけれど、あんまり綺麗な気持ちじゃないかもしれないけれど、そう思うのを止める事が出来なかった。

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