テーマ:└番外編
ルイ「ねえ、○○。……こっち見てよ」
「……っ」
ルイが甘く私を呼び、それから頬へと手を伸ばす。
頬に触れる冷えた指先に促されるまま正面を向くと、
ルイの綺麗な顔が間近に迫って見えた。
(何だか、恥ずかしい……)
先程まで抱きあげられていたことを思うと、
力強い腕の感触と、その端正な顔立ちとの違いに鼓動が跳ねる。
ルイ「…………」
思わず視線を逸らしまつ毛を伏せると、ルイが顔を覗きこむ気配がした。
温かなルイの吐息が頬辺りに触れ、私はびくりと目を閉じる。
ルイ「目、開けて」
「……あ」
低くささやかれ、私はおそるおそるまぶたを開いていった。
すると目の前に見えるルイがくすっと笑みをこぼし、指先を伸ばす。
「……?」
指先で私の下唇をなぞるように触れると、ルイが目を細めた。
ルイ「こっちも」
「……え」
(こっちって……?)
呟くような声を上げると、ルイが唇の隙間に微かに指を差し入れる。
「……っ」
ルイ「……開いて」
唇の隙間に、ルイの指先がゆっくりと入り込む。
その仕草に驚くまま、私は唇を開いた。
すると顔を傾け、ルイが唇を重ねる。
「ん…っ……」
離れた指先の代わりに、開いた唇からルイの熱い吐息と舌を感じる。
わずかな風に乾いた葉を揺らす森の中、
ルイの落とすキスの甘い音だけが響いていった。
ルイ「…………」
やがて吸いつくような唇が離れると、ルイがぽつりと呟く。
ルイ「ダメだ」
「……え?」
見上げると、微かに苦笑を浮かべたルイが私の身体を抱きしめた。
ルイ「止まらなくなりそうだから、これ以上はやめておく///」
「…………」
その肩に手を置き、私もルイと同じように深く息をつく。
(私も…このまま帰れなくなってもいいって、思ってしまいそうだった)
(でも、そんなことじゃダメだよね)
私のことを想い休日をくれたジルや、
心配をしてくれるユーリたちのことを思い出し、私は指先に力をこめた。
そして身体が離れると、ルイがそのまま私の手を引いて歩いていく。
「ルイ、私も頑張るよ」
(早く、また会えるように……)
するとわずかに振り返ったルイが、ふっと嬉しそうに目を細めた。
そして、それから数日が経ったある日のこと…―。
「え……?」
私はユーリの言葉に、思わず声を上げる。
ユーリ「あれ?もしかして忘れてた?」
それは、バレンタインデーの話だった。
「そういえば……」
(色々あって、忘れてたけど……)
ユーリ「やだなぁ○○様。本当に忘れてたんだね」
からかうようにくすっと笑うユーリが、
目の前のティーカップにお茶を注いでくれる。
「…………」
私はそのティーカップをじっと見つめながら、息をついた。
(そっか、もうすぐバレンタインデーなんだ)
(今からでも、用意をしようかな)
私の心の中には、いつの間にかルイの姿が浮かんでいた…。
ジルの許可を取り買い物に出かけようと、私は廊下を歩いていた。
すると目の前から、官僚の一人が歩いてくるのが見える。
「…………」
すれ違おうとしたその瞬間、官僚が口を開いた。
官僚「ハワード卿とは、上手くやっておられるのですか?」
そのいやらしい笑みを見上げ、私はルイの言葉を思い出す。
―ルイ「ただの噂だけど、これ以上広がるとやっかいだね」―
―ルイ「だからしばらく、距離を置いたほうがいいかも……」―
私は息を呑み、そっと振り返った。
「プリンセスとして正式に次期国王を選んでいない以上、」
「何も言うことはありません」
驚いたように目を見開く官僚に、静かに告げる。
「あなたたちが、どんな噂を流そうと」
告げると、私はそのままその場を立ち去っていった。
曲がり角にさしかかると、私は自分の指先が微かに震えていることに気づく。
「……っ」
(こんなことで震えてしまうなんて……情けないな)
自分の手を見おろし息をついていると、後ろから足音が響いてきた。
振り返ると、そこにはルイの姿がある。
「ルイ?」
(もしかして今のやりとり……みられていたのかな)
ルイ「…………」
近づいてきたルイが、私の頭にぽんと手のひらをのせた。
ルイ「頑張ったね」
思わず視線を上げると、ルイの優しい眼差しに気がついた。
「ありがとう」
(ルイにそんな風に言ってもらえると、素直に嬉しい……)
そっと髪を撫でてくれるルイが、ぽつりと呟いた。
ルイ「……俺も、しっかりしないとね」
「え?」
それだけを言うと、ルイは手を離し歩き去っていった。
私は手に持つハート型のバッグの中に入った、
チョコのレシピのことを思い出した。
(……バレンタインデーにはちゃんと、渡すことが出来るといいな)
そして迎えた、バレンタインデー当日…―。
ジルに呼び出された私は、意外な話を聞いていた。
「え?」
ジル「噂の件ですが、あなたとハワード卿の疑いは晴れました」
(どういうこと?こんなに、突然……)
目を瞬かせる私に言い聞かせるように、ジルがゆっくりと言う。
ジル「ハワード卿が手を回していたようですね。時間はかかったようですが……」
「どうやって……」
ジル「…………」
するとジルが視線をそらし、ため息をつきながら告げた。
ジル「それは……ご本人に聞いてください」
(どうやったんだろう。でも……)
「良かった」
思わず口に出すと、ジルがふっと目を細める。
ジルの優しい微笑みに、私も口元をほころばせた。
「……知らせてくださってありがとうございます、ジル」
(これでようやく、ルイと逢うことが出来るんだ……)
○○が部屋を去ると、ジルが一人ため息をつく。
ジル「それにしても…○○のこととなると、ハワード卿も手段を選びませんね」
ジル「……レオと同じくらいに、敵にはまわしたくないタイプです」
そして、その夜…―。
私は部屋で一人、ルイのために作ったチョコを見おろしていた。
(私の知らないところで、ルイはすごく頑張ってくれた)
―ルイ「……俺も、しっかりしないとね」―
「…………」
(ルイに渡して、気持ちを伝えなくちゃ……)
選択肢
彼のもとへ行く→プレミア
部屋で待つ→スイート
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