そして、その夜…―。
チョコを用意した私は、部屋で一人頭を悩ませていた。
(どうやってジルに渡したらいいんだろう……)
「…………」
(審問を終えたばかりのジルが外出する姿を見られたら、)
(また噂がたってしまうかもしれない……でも)
手の中のチョコを見おろし、息をつく。
「やっぱり、直接渡したい」
呟くと、私は腰かけていたベッドから立ち上がった。
そうしてチョコを渡すために、
私はこっそりと部屋を出て、ジルの部屋へと向かっていた。
(見つからないように、気をつけないと……)
慎重に足を進めていると、曲がり角で人影を見つける。
「……あ」
(とにかく、どこかに隠れなくちゃ)
慌てて逃げようとした時、後ろから腕を取られた。
「……!」
???「○○」
(この声は、もしかして……)
名前を呼ばれ驚くまま振り返ると、そこには見知った人の姿がある。
ジル「あなたは、何をしているんですか?」
「ジ、ジル……!?」
廊下で会ったジルと共に、私はこっそりと部屋を訪れていた。
ジル「全く、あなたは……」
ため息をつきながら、ジルがドアを閉める。
振り返りジルを見上げながら、私は口を開いた。
「すみません、今日のうちにどうしても……」
持っていたチョコを差し出し、私は静かに告げる。
「色々とありがとうございました、ジル」
(これを、渡したかったから)
ジル「…………」
チョコを見おろし、ジルが唇に笑みを浮かべた。
そして小さく首を傾げると、私の顔をのぞきこむ。
ジル「ありがとうございます、○○」
ジル「ですが、もっと他の言葉を頂いてもいいですか?」
「え……」
(他の言葉って……)
戸惑いに目を瞬かせ見上げると、ジルがふっと目を細めた。
ジル「今日はバレンタインデー……」
ジル「城下では、想いを告げる日だと聞きましたが?」
「……っ」
ようやくジルの言おうとしていることに気づき、私は小さく息を呑んだ。
高鳴る鼓動が、耳に低く響いていく。
ジル「……○○?」
「……っ」
ジルの呼び声に促されるように、私は静かに口を開く。
私の掠れた声が、静寂の部屋に響いていった。
「……好きです、ジル」
ジル「…………」
頬が真っ赤に染まっていることに気づきながらも顔を上げ、
私はもう一度、はっきりとした声で告げる。
「好きです」
ジル「ええ、わかっていますよ///」
ジルが笑みを滲ませたまま、手を伸ばした。
そして私の身体を抱き寄せると、唇を耳に押し当てるようにささやく。
ジル「……今回のことで思いました///」
ジル「あなたのことを手放せたら、どんなに楽かと///」
「え?」
ジルの言葉に、私の心臓が痛いほどに跳ねた。
(……ジル?)
不安気に見上げると、どこか困ったように微笑むジルが告げる。
ジル「でも、もう……遅いようです///」
そして私の髪をかきあげるようにすくと、顔を寄せた。
ジル「あなたなしの人生など、考えられないですから///」
「……っ…」
ジルの吐息が唇にかかり、ゆっくりと重なっていく。
落とされた限りなく優しいキスに、
ジルの背中に触れる指先が、ぴくりと跳ねた…。
ジルの言葉と優しいキスに、全身をつらぬくような痺れが走る。
(そんな風に言ってもらえるなんて……)
見上げると、ジルと視線が重なった。
「……っ…」
黙ったまま、引き寄せ合うようなキスを交わす。
ジルと舌が絡まり、私は声をこらえながらその腕を掴んだ。
「んっ……」
何度も飽きることなく深く激しいキスを繰り返すと、
やがてジルが唇を離し、私の身体をぎゅっと抱きしめる。
そして今度は、耳をたどるように舌先をはわせた。
「ぁ……っ」
身体がぴくりと震え、私は思わず目を閉じる。
するとジルが吐息をこぼしながら、笑みをにじませた。
ジル「せっかく頂いたチョコが、溶けてしまいますね」
そうしていつの間にかテーブルに置かれていたチョコを取ると、
包みを開け、そのうちの一つを口の中に放り込む。
そして私を見おろすと、言った。
ジル「チョコ味のキスというのは、より甘いんでしょうか?」
「……っ…」
チョコの香りの吐息が、唇にかかる。
ジル「試してみますか?」
ジルがわざと吐息を吹きかけるようにして、唇を重ねる。
口中に甘いチョコの香りが広がり、私は目まいを覚えた。
「ん……」
(すごく、甘い……)
いつの間にか腰元に回っていたジルの手が、私の身体を抱えあげる。
「ぁ……っ…」
キスを繰り返すまま、ジルは私の身体をベッドの脇まで抱えていった。
舌がもつれ声がこぼれると、ジルがようやく唇を離し私の顔を覗きこむ。
ジル「どうですか?///」
「…………」
ジルの問いかけに頬を真っ赤に染めたまま、私は小さく頷いた。
ジル「…………///」
すると満足気に目を細め、ジルが私の身体をベッドへと降ろす。
そのまま私の身体に触れると、ジルがささやいた。
ジル「チョコのお礼を、させて頂いてもいいですか?///」
「え……」
ジルの手が私のドレスの紐を、ゆっくりと解いていく。
やがて足元から手を這わせると、低く甘い声で告げた。
ジル「今夜はあなたに、つくしますよ///」
「……ぁっ…っ」
ジルの指先がドレスの下の隠れた素肌を暴いていく。
ジル「どうしてほしいのか、口にしてみてください……///」
片手で脚を撫でながら、ジルが言葉を促すように私の唇に触れた。
ジル「ほら……///」
ジルの誘いに涙をにじませたまま、私は震える唇を開く。
「私は……」
そうしてジルに促されるまま、
私はチョコの香りに満ちた部屋に、甘くほろ苦い声をこぼしていった…。
Premiere End