そして、その夜…―。
急いでチョコを用意した私は、部屋で手の中のチョコを見おろしていた。
(審問を終えたばかりのジルを訪ねたら、また噂になってしまうかも)
(どうやって、渡そうかな……)
考えているうちに、部屋のドアが叩かれる。
「え……」
そっとドアを開くと、そこにはレオの姿があった。
レオ「こんばんは、○○ちゃん」
「どうしたの?」
尋ねると、レオが手招きをして私を廊下へと呼ぶ。
私が目の前に立つと、レオが何かを待つように黙りこんだ。
「レオ?」
レオ「……うん、何でもなかった」
笑みを浮かべるレオが、突然に告げる。
レオ「じゃあね」
(……?)
去っていくレオの姿に首を傾げながらも、私は部屋へと戻っていった。
(何か用だったのかな。でも……)
考えながら部屋のドアを閉めると、私は途端に息を呑む。
「……っ」
ジル「勝手に申し訳ありません、プリンセス」
そこに立つジルの姿に驚き、私は掠れた声で尋ねた。
「何で……」
尋ねるて、ジルがふっと笑みを浮かべた。
ジル「レオのアイディアですよ」
念のため、私が部屋を離れている間に中に入ったのだという。
ジル「今日逢うというのはあまりに意味深ですから、」
ジル「用心にこしたことはないでしょう」
「…………」
ジルの言葉に、鼓動が小さく跳ねた。
(今日逢うということの、意味……)
私はテーブルの上に置いたチョコを取り、ジルを見上げる。
「ジル、これを……」
ジル「ありがとうございます」
私の手から、ジルがそっとチョコを受け取る。
わずかに触れた指先から、痺れるような熱が走った。
「…………」
頬が赤く染まるのがわかり、私は顔をうつむかせる。
するとくすっと喉をならすように笑うジルが、低く呟いた。
ジル「○○……バレンタインに受けとるものは、」
ジル「チョコレートだけだと、決められているわけではないんですよ」
(え……)
ジルが近付き、片方の手で私の耳元をかきあげるように撫でる。
ジル「私が欲しいものは……」
ジルが顔を寄せ、私の唇を挟むような仕草でキスを落とす。
「……っ」
驚きに小さく目を見開くと、ジルが目を細めて私を見つめた。
ジル「甘いですね」
「ジ、ジル…っ……」
名前を呼ぶ私の唇を、今度はジルが覆うように塞ぐ。
「んっ……」
ジルは、何度も深くついばむようにキスを繰り返していった。
音をたて唇が離れると、ジルが額を合わせて微かな笑い声をこぼす。
ジル「……冗談ですよ」
そして手の中のチョコを、持ちあげて見せた。
ジル「こちらも、頂きます」
そうしてジルが入れてくれたお茶を飲みながら、
私はチョコを食べるジルの姿を見ていた。
ジル「美味しかったです。ありがとうございました」
笑みを浮かべるジルの姿に、不意に気になり尋ねてしまう。
「ジルは、今までもチョコをもらったりしたんですか?」
(たくさん、もらっていそうだけど……)
ジル「…………」
すると口の端に笑みをにじませ、ジルがティーカップを置いた。
ジル「気になりますか?」
ジルの瞳が、私の目を窺うように覗き込んでいる。
その視線に鼓動が跳ねるまま、私は静かに口を開いた。
「……教えて、ください」
ジル「……素直ですね」
くすっと笑みをこぼし、ジルが答えてくれる。
ジル「初めてですよ」
(え……?)
意外な答えに驚き目を瞬かせると、ジルが小さく首を傾げた。
ジル「これまでは全て、お断りしてきましたので」
立ち上がり、私の椅子の背もたれに手をかける。
そして私の顔をのぞきこむと、ささやくように言った。
ジル「チョコが、こんなに甘いとは思ってもみませんでした」
「……んっ…」
ジルがそのまま、唇を重ねる。
舌先が唇を割ると、私はぴくりと背中を震わせた。
ジルの片方の手が腰元に触れ、私の身体を椅子から抱きあげる。
「……!」
驚きしがみつくまま、私の身体はベッドに降ろされていた。
ベッドが軋む音が響き、ジルが膝を載せる。
ジル「あなたと会うまでは、知らなかったことばかりですよ。○○///」
ジルが私の身体の両脇に肘を置き、そっとささやく。
ジル「これからはずっと私の元にいて、教えてください///」
ジル「あなたは私の知らないことを、たくさん知っていそうですからね///」
「……っ…」
ジルの指先が私の身体の輪郭をなぞり、降りていった。
その仕草に身をよじらせながらも、私は小さな声で告げる。
「ジル……私も、離れたくありません」
(たとえ許されない関係だったとしても……)
指先が私の髪をすくと同時に、
ジルの唇が首筋を伝い、胸元へと降りていく。
「ぁっ……」
思わず甘い声を漏らすと、
ジルが上気した素肌に吐息を吹きかけるように笑った。
ジル「ええ、離しませんよ///」
ジルが私のうなじに触れ、頭を小さく持ちあげる。
そして深く舌をからめとると、キスの合間にささやいた。
ジル「……誰にも渡さない。私だけのものです///」
いつの間にか乱れていたドレスが、肩から滑り落ちていく。
露になった胸にジルの体温が伝わり、腰がひどく疼いた。
「……っ…ん」
ジルのキスに応えながら、
私は素肌に触れるジルの髪の感触に、声をこぼしていった…。
Sweet End