レオ「何か俺に、聞きたいこととかないの?」
「あ……」
レオの言葉に、私は微かに息を呑む。
(確かに、聞きたいことはたくさんある。でも聞くのが怖いから……)
私は開きかけた唇を結び、首を横に振った。
「ううん、ないよ」
レオ「…………」
するとレオが目を細め、言う。
レオ「……アロイス公爵夫人のこと、気になってないの?」
「……っ」
レオの言葉に、胸がドクンと痛んだ。
(レオの口から夫人の名前を聞くだけで、こんなに苦しいなんて……)
私は、おそるおそるレオを見上げる。
「……何か、あったの?」
レオ「…………」
するとふっと笑みを浮かべ、レオが小首を傾げて見せた。
レオ「どう思う?」
「えっ……」
(どうって、言われても)
戸惑いに瞳を揺らすと、レオがくすっと喉をならして笑う。
レオ「ごめんごめん。嘘だよ、本当に何もない」
レオ「以前にサロンでお会いしたことはあるけれど、面識もそれきりだ」
私の目を見て、レオがはっきりと告げた。
そして再び、ふわりと目を細める。
レオ「○○ちゃんは、俺に興味ないのかと思ってた」
「え……?」
驚いて見上げると、レオが唇に笑みを浮かべていた。
レオ「だから逆に、聞いてもらえて嬉しかったんだよね」
「…………」
(そんな風に、思われていたなんて考えもしなかったな)
レオの言葉に意を決し、私はゆっくりと口を開く。
「本当はすごく不安だったけど、何も聞かないほうがいいと思ってた」
「聞かせてくれてありがとう、レオ」
(これでもっと、レオを信じることが出来る)
レオ「…………」
レオが机に手をつき、私の方へと顔を寄せた。
レオ「不安にさせて、ごめん」
そして私の額にかかった髪を優しく払い、レオが唇を寄せる。
そのわずかに温かな感触に、私はびくりと肩を揺らした。
レオ「……それにしても」
低い声音が間近から聞こえ、私はそっと目を上げる。
レオ「どうしてあんな噂がたったのかもわからないんだよね」
「…………」
ため息をつくレオの様子を見やりながら、私は思っていた。
(もしかしたらアロイス公爵夫人が、レオのことを好きなのかもしれない……)
アロイス公爵夫人との噂のことを思い、私は胸元でぎゅっと手を握る。
(夫人も、私と同じ気持ちだったんじゃないかな……)
(レオはモテるから、きっと夫人からだけじゃないよね)
過去にはたくさんの女性から想われていたねだろうと考えているうちに、
私の唇から、ぽろりと言葉がこぼれ落ちた。
「もっと早くに、出会いたかったな」
(……私はレオが過去にどんな人と一緒にいたのか、全然知らないんだ)
(早く出会っていたら、過去のレオも知ることが出来たのに)
レオ「え?」
レオの声を聞き、私ははっと顔を上げる。
「あ……ううん、何でもない」
首を横に振りながらも、私は考えていた。
(でも……)
(もし子どもの頃に会っていたなら、私の初恋はきっとレオだったな)
レオ「…………」
すると私の顔を覗きこみ、レオが笑みを浮かべる。
レオ「いつ出会ったって、一緒だよ」
「え……?」
レオの指先が、私の頬に触れた。
そしてなぞるように頬の上を滑らせると、レオが言う。
レオ「俺の初恋は、○○ちゃんだからね」
「そんなこと……」
(初恋、だなんて)
レオの言葉に驚き、私は思わず立ち上がった。
(そんなことあるわけないよ。だって、レオは……)
綺麗な顔を見上げ、私は戸惑いに頬を染める。
するとレオが、くすっと笑みを浮かべた。
レオ「俺、好みにはうるさいからね」
そして手のひらで優しく、私の頬を包みこむ。
「……好み?」
レオ「うん、女の子の」
(え……?)
頬の上に置かれていた手のひらがゆっくりと髪をかきあげ、
赤くそまった私の耳を露にする。
レオ「すぐに真っ赤になる頬とか、耳も好みかな」
「……っ」
レオ「……○○ちゃん以外に、考えられない」
レオの指先が耳の形をなぞるようにたどっていった。
その仕草に、背中に痺れが走る。
レオ「○○じゃなきゃ、俺はだめなんだよ」
低い声でささやくと、レオが顔を寄せた。
キスを落とすと、レオが微かな音をたてて私の唇をついばむ。
「ん……っ…」
レオの甘い吐息が、唇の隙間から舌の上を走る。
いつの間にか引き寄せられていた腰が、レオの手の下でびくりと震えた。
(レオ……)
風に揺れる窓が、カタカタと音をたてている。
やがて唇が離れると、
レオが私のネックレスに指先をかけながら、そっと口を開いた。
レオ「俺は……」
そうして何かを言いかけた、その時…―。
部屋のドアが叩かれ、私は慌ててレオから身体を離す。
「あ……」
開かれたドアの方を見やると、そこにはジルの姿があった。
ジル「レオ」
名前を呼び、ジルが目を細める。
レオ「……はいはい」
ネックレスから離した両手を軽く上げ、レオがジルへと視線を寄せた。
レオ「今行くよ。じゃあね、○○ちゃん」
「え……?」
去っていってしまうレオの姿に、私は慌てて尋ねる。
「どこに行くの?」
するとジルが息をつき、答えてくれた。
ジル「今回の一件に関する、審問が行われるのですよ」
ジル「まあ、形式的なものでしょうが……」
(審問が……?)
レオ「大丈夫だよ。信じてくれるんでしょ?」
「…………」
振り返ったレオの言葉にただ頷くと、レオが笑みを浮かべた。
レオ「なら、信頼に応えなくちゃね」