そして、審問が終わる日…―。
部屋を訪れたユーリが、私にこっそりと教えてくれた。
ユーリ「レオ様の審問、終わったみたいだよ」
「え……」
ユーリが語ってくれた審問の内容は、
アロイス公爵夫人が、レオのことを気にいっていたというものだった。
ユーリ「レオ様も、とんだ災難だったみたいだね」
「…………」
ユーリの話に頷きながらも、私は思う。
(でも私には、アロイス公爵夫人の気持ちもすごく良くわかる)
(綺麗な人や、性格の良い方もたくさんいるのに……)
(レオは、何で私の側にいてくれるんだろう)
そして部屋を出ると、私は中庭へと足を向けた。
射しこむ日射しを温かく感じながら空を見上げていると…。
???「○○ちゃん」
後ろから名前を呼ばれ、私は振り返る。
「レオ?」
(あれ?)
(ユーリの話によると、レオは今日一日部屋を出ることが出来ないって……)
「どうして……?」
目を瞬かせながら見上げると、レオが微笑んで見せた。
レオ「内緒で出て来たんだよ」
「そんな。もし見つかったら……」
(外出禁止を破ったりしたら、レオが罰せられてしまうんじゃ……)
慌てて言うと、近づいてきたレオが唇に人差し指を立てた。
「……っ」
静かにという仕草に、私は唇を結ぶ。
レオ「だから、一緒に逃げようか」
「えっ」
(逃げるって……まさか)
レオが私の手を取り、にっこりと笑みを浮かべた。
触れたその感触にびくりと身体を震わせ、私は顔を上げる。
レオ「せっかく今日は恋人の日なんだから、デートしようってこと」
「恋人の、日……」
レオの言葉に、私ははっと息を呑んだ。
(そっか、今日はバレンタインデーなんだ)
(だったら、なおさら……)
私は静かに、首を横に振った。
「……やっぱり、だめだよ」
レオ「…………」
するとレオが少しだけ強引に、私の手を引く。
レオ「どうして?」
間近に迫ったレオが、吐息が吹きかかるほどの距離で尋ねた。
私はごくりと息を呑みながらも、レオを見つめ返す。
「それは……」
レオに尋ねられ、私は視線を伏せて考える。
(誰かに見つかったりしたら、レオが責められるんじゃないかという不安もある…)
(でも、今はそれ以外にも……)
「もしかしたら、レオと私が一緒にいる姿を見て、」
「悲しむ人がいるかもしれないから……」
レオ「…………」
何かを察したように目を細めたレオが、ふっと笑みを浮かべて呟く。
レオ「優しいね。でも……」
「え?」
呟きに顔を上げると、レオの指先が、私の頬に触れた。
レオ「○○ちゃん」
「っ……」
私は驚きに目を瞬かせ、レオを見上げる。
そして顔を傾けるレオの様子に気づき、私は慌ててその胸を押した。
「待って、レオ」
すると私の手をつかみ、レオがささやくように言った。
レオ「だめだよ」
唇が触れそうなほどの距離に近づき、レオが甘い吐息を吹きかける。
レオ「ちゃんと、俺のことを見てて」
「…レ…っ…」
そして私の返事も待たないまま、唇を重ねた。
「ん……」
(いけないことだって、分かっているのにどうして……)
(これ以上、拒めないんだろう)
深くなる口づけを受け止めながら私は、レオの腕に指先をのせた…。
重なっていた唇が音もなく離れると、レオがすぐに私の手を引いた。
レオ「行こう」
(あ……)
「待って。準備だけしていきたいの」
レオ「……準備?」
振り返ったレオが、わずかに眉を寄せ首を傾げた。
城下を見おろす高台に着くと、レオが不意に私の手元に視線を落とす。
レオ「その傘って……」
レオの言葉に、私は閉じた日傘を持ちあげて見せた。
「顔が隠せるかもしれないと思って、持ってきたの」
(もしも城の誰かを見かけても、大丈夫なように)
レオ「…………」
するとレオが、ふっと笑みを浮かべて言う。
レオ「……俺は、○○ちゃんのことを隠すつもりなんてないよ」
レオの言葉に、鼓動が小さく跳ねた。
レオ「○○ちゃんは、見えない誰かを気にしてるみたいだけど」
レオが目を細め、呟く。
レオ「……俺のことは、悲しませていいの?」
レオ「俺にはもう○○ちゃんしかいないんだから、」
レオ「それ以上拒絶されると、傷ついちゃうよ」
「あ……」
レオの言葉に、私は傘をぎゅっと握りしめた。
(確かにその通りだ……)
(人の目ばかり気にしていて、レオのことを考えていなかったのかもしれない)
私は顔を上げ、レオを見つめる。
「ごめんなさい、レオ」
レオ「……うん」
ふっと笑みを浮かべたレオが近付き、傘を握る私の手に触れた。
レオ「傘は、閉じたままでいてね」
嬉しそうに告げると私の手を持ちあげ、音をたててキスをした。
デートを終え城へと戻った私は、キッチンに立っていた。
(レオには、待ってもらうように言ってあるから……早くしないと)
城下でこっそりと買ったチョコを取り出し、私は顔を上げる。
「…………」
(今日は、好きな人に想いを伝える日だから……)
(私はきっと最初から、自分の気持ちを伝えなくちゃいけなかったんだ)
そして私はレオのことを想いながら、甘いチョコレートを作り始めた。
この時はまさかこのチョコを受け取ったレオに、
あんなことをお願いされるとは、この時の私は思ってもいなかった…。
選択肢
彼のもとへ行く→プレミア
部屋で待つ→スイート