音楽会に演奏する楽器としてアコーディオンを選んだ私は、
部屋でこっそりと練習を繰り返していた。
「…………」
(一番簡単だと思ったんだけど、難しいな……)
するとその時、ドアが叩かれレオが顔を見せる。
レオ「あれ。どうしたの、それ?」
「レオ」
顔を上げると、レオが目を細めて興味深そうに呟いた。
レオ「もしかして、アコーディオン?」
私が頷くと、
レオが私の手からアコーディオンを受け取りながら目を細める。
レオ「へえ、初めて触ったけど……」
レオがじゃばらを広げ、簡単そうに音を奏でて見せた。
「すごい……」
途端に曲まで弾き始めるレオに、私は目を瞬かせる。
(レオって、何でも出来るんだな……)
レオ「意外に楽しいね、これ」
笑みを浮かべるレオを見上げ、私は口を開いた。
「レオ、良かったら教えてくれないかな……」
レオ「んー…?」
私の言葉を聞き、レオが楽しそうにふっと目を細める。
レオ「いいけど、高いよ?」
「えっ」
レオ「冗談だよ」
レオが吹きだすように笑い、首を傾げた。
レオ「おいでよ、教えてあげるから」
レオに教えてもらいながら、私はアコーディオンの練習を続けていた。
(だんだん、思うように弾けるようになってきたかも)
思っていると、レオも頷きながら言う。
レオ「うん、上手だね」
「ありがとう、レオ」
(レオって、本当にすごいな)
丁寧でわかりやすいレオの教え方のおかげで、私の上達は早かった。
「レオに教えてもらえたら、何でも出来そうだね」
レオ「……そう?」
目を細めたレオが、ゆっくりと私の身体の後ろにまわる。
「……っ」
突然レオにアコーディオンごと抱きしめられ、私は驚きに息を呑んだ。
「レオ……?」
レオ「だめだよ、落とさないようにね」
レオのからかうような吐息が、髪に触れる。
やがて大きく息をつくと、レオがささやくように言った。
レオ「ねえ、○○ちゃん」
レオ「教えた分の報酬、もらっちゃだめかな」
「え……」
戸惑いに何も言えずにいると、腕の中でゆっくりと振り向かされる。
私の顔を覗きこみ、レオがにっこりと微笑んだ。
レオ「高いって、言ったでしょ?」
「あ……っ…」
レオの唇が、私の唇を掠めるようにして触れていく。
レオ「……それとも、まだ練習を続ける?」
(私は……)
レオの問い掛けに答えられず、指先が震える。
すると持ったままのアコーディオンが、わずかに音をたてた…。