音楽会のため、私はチェロを練習することになった。
焦る気持ちから、ため息がこぼれてしまう。
(どうしよう、全然上手く弾けないままなのに……)
音楽会の日は、すぐそこに迫っていた。
私はそっと窓の外から、庭を見おろす。
そこには他国から集まり始めた貴族たちの姿が見える。
(この国のプリンセスとしても、頑張らないと)
そして一人、練習を続けていると…―。
(あれ……?)
???「…………」
不意に、ホールの端から男の人が見ていることに気づいた。
「あ。すみません……」
(初対面の方かな。うるさかったんじゃ……)
???「いや、続けていい」
男の人が告げ、ゆっくりと近づいてくる。
(こんなところを見られるなんて、恥ずかしいけど……)
その言葉に甘えて練習を続けようとすると、男の人が言った。
???「……もう少し、しっかり抱えたらどうだ」
「え?」
気がつくと、男の人の姿が間近に見える。
(すごく、綺麗な男の人……)
???「こう」
私の肘を取ると、男の人の髪がさらりと揺れた。
「…っ…あ」
思わず立ち上がると、男の人がゆっくりと視線を上げる。
「すみません。目の前でチェロの演奏を聞いたことがなかったので」
私はチェロの演奏を、本を見て独学で覚えただけだった。
(私、他国の方に何を言っているんだろう……)
???「…………」
すると男の人は苦い顔をすることなく椅子に腰かけ、チェロを構える。
そしてゆっくりと腕を引き、弓を動かしていった。
(すごい……)
ホールを満たす響きに、私は拍手をこぼす。
???「……人の称賛をしている場合なのか?」
「あ……」
私にチェロを手渡し、男の人が背を向けた。
そのまま去っていく後ろ姿に、私は慌てて声をかける。
「あの……ありがとうございました」
すると静かに振り返り、男の人が片方だけ見える目を細めた。
???「いや。……成功を祈っている」
そして、○○を残しホールを去ると…―。
外で待っていたアルバートが、ゼノの顔を見ていぶかしげに眉を寄せる。
アルバート「ゼノ様、一体どのような心境の変化ですか?チェロを教えるなど……」
ゼノ「素直な音色だった。つられたのかもしれないな」
ゼノの言葉に、アルバートはますます眉を寄せていった…。