音楽会のための楽器選びで悩む私は、何のあてもなく庭を歩いていた。
(どの楽器がいいのかな……)
考えているうちに、ふと足を止める。
「あれ?この音……」
どこからか聞こえてくるトランペットの音色に耳を澄ませた。
音をたどって時計塔にたどり着いた私は、螺旋階段に登っていた。
(良く響いてくる……すごく、いい音だな…)
上を見上げると、そこには見知った人の姿がある。
ユーリ「あれ、どうしたの?○○様」
「ユーリこそ……」
手すりに指先をのせたまま呟くと、
ユーリが視線に気づき、手の中のトランペットを見た。
ユーリ「ああ、トランペット?時々ここで吹いているんだよ」
にっこりと微笑むユーリの笑みに、私は思わず口を開く。
「ねえ、ユーリ……吹いてみてもいい?」
ユーリ「え?これ?」
ユーリが一瞬だけ面食らったような表情を浮かべ、すぐに目を細めた。
ユーリ「○○様がいいなら、どうぞ」
私はユーリから受け取ったトランペットに早速唇を触れる。
(なかなか、音が鳴らない……)
苦戦していると、ユーリが笑みを浮かべながら教えてくれた。
ユーリ「唇を震わせるんだよ」
伸ばされたユーリの指先が、私の唇の触れるか触れないかの距離にある。
「う、うん……」
(何でこんなに、緊張するんだろう)
考えながらもユーリに言われた通り唇を震わせると、ようやく音が出た。
「ありがとう、ユーリ」
トランペットを離し、私はユーリの顔を見る。
するとその形良い口元に、笑みが浮かんで見えた。
(あれ…もしかして、これって。間接……)
私はその時初めて、同じトランペットに唇で触れたことに思い至る。
「…っ…ごめん、ユーリ」
慌てて謝ると、ユーリがクスクスと笑いながら私の顔を覗きこんだ。
ユーリ「……真っ赤になってるよ?」
そして私からトランペットを受け取ると、言った。
ユーリ「どういたしまして、○○様」