音楽会の楽器が決まらないまま、私は頭を悩ませていた。
(どうしよう、何を選べばいいのかわからない……)
立ち上がり、私は窓の外を見つめる。
(城下に降りれば、何か流行がわかるかもしれない……)
一人お忍びで訪れた城下で、私は道に迷ってしまっていた。
(困ったな。どうしよう……)
足を止め考えていると、そこに見知った人の姿をみかける。
(あれは確か、情報屋の……シドだよね)
少しためらった後、私はシドの後を追って店の戸を開けた。
昼間でも薄暗いそこは、城下で有名な酒場だった。
席についたシドが、私の姿を見つけて目を丸くする。
シド「プリンセスが、こんな所で何してんだ?」
「あの、実は……」
訳を話すと、シドが目の前のお酒に口をつけた。
シド「へえ、プリンセスも大変だな」
その時不意に、目の端に小さなピアノのような楽器が映り込む。
「あれは……」
シド「オルガンだな」
シドが呟くと、周りにいた客の一人がもたれかかって言う。
客「おい、シド。お嬢さんに弾いてみせろよ」
シド「あ?」
うるさそうに視線を送るものの、客の言葉に周囲が同調し始めた。
シド「……うるせーなー」
周りの声を振り切るように立ち上がると、シドがオルガンの前に座る。
シド「金とるからな」
そうして弾き始めると、私はその演奏に思わず息を呑んだ。
(わあ……すごい、上手)
先程のお酒を飲んでいたシドとは違う雰囲気に、鼓動が高鳴る。
やがて演奏を終え戻ってきたシドに、私は尋ねた。
「どうしたら、そんな風に弾けるんですか……?」
シド「酔っぱらってるからだろ」
ふっと苦笑を浮かべ、シドが目の前のお酒を飲み干す。
「そんなことな……っ」
言いかけると、シドが私の頭をくしゃくしゃと撫で立ち上がった。
シド「もう忘れろ」
見上げると、シドが目を細めて私を見おろしている。
シド「そろそろプリンセスは帰る時間だろ」
シド「仕方ねえから、送ってやるよ」
「あ……ありがとうございます」
いつものシドに戻ったはずなのに、鼓動は高鳴っていた。
赤くなった頬のまま、私はただシドの背中を追った…。