教科書検定制度について下村博文文部科学相が衆院予算委員会で見直しを表明した。中国や韓国などアジア諸国との歴史的関係に配慮するよう求める「近隣諸国条項」の修正が念頭にあるとみられている。
背景には安倍晋三首相が掲げる「愛国心教育」がある。近隣諸国への配慮を欠いて「愛国心」をことさら求めれば、日本が戦争の歴史を反省していないとの誤解を招きかねない。
近隣諸国条項は1982年につくられた。前年度の高校歴史教科書の検定で、第2次世界大戦時の日本軍に関する記述の「侵略」か「進出」かをめぐり、中国や韓国が反発した。「是正する」との官房長官談話を受けて、文部省(当時)は社会科の教科書の検定基準に条項を追加した。
この条項は「近隣のアジア諸国との間の近現代の歴史的事象の扱いに国際理解と国際協調の見地から必要な配慮がされていること」としている。
自民党は昨年12月の衆院選の公約でこの見直しを掲げた。「いまだに自虐史観や偏向した記述の教科書が多い。子どもたちが日本の伝統文化に誇りを持てる教科書で学べるよう教科書検定基準を抜本的に改善し、近隣諸国条項も見直す」という。文科相答弁はこれに沿ったものだ。
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近隣諸国との関係でよく問題になる「南京大虐殺」は本文中に記述がない。南京占領の注釈に「日本軍は略奪・暴行を繰り返したうえ、多数の中国人一般住民(婦女子を含む)および捕虜(ほりょ)を殺害した(南京事件)」とある。「大虐殺」は「事件」とされ、論議がある殺害数について言及はない。
「従軍慰安婦」も同様。注釈に「戦地に設置された慰安施設には、朝鮮・中国・フィリピンなどから女性が集められた(いわゆる従軍慰安婦)」とあるだけで、「集めた」主体や「連行」の記述はない。「近隣諸国への配慮」というより、議論を呼びそうな点は慎重に避ける姿勢を感じさせる。
安倍首相は衆院予算委で検定基準に関し「愛国心、郷土愛について書き込んだ改正教育基本法の精神が生かされていない」などと述べた。近隣諸国条項の見直しが、戦争の歴史を正当化することにつながっていかないか注視する必要がある。国際理解のためには、むしろ、近隣諸国の見方を積極的に紹介していくべきだろう。