私はジルと共に高台から街を見おろしながら、
私はゆっくりと、その肩に頭を寄りかかった。
(このくらいなら、大丈夫だよね)
ジル「…………」
ジルの方の感触にほっと息をつき、目を閉じる。
(嘘の恋人じゃなくて……)
(堂々と、本当の恋人だって言える日が来るといいな)
考えていると不意に、ジルの肩がぴくりと揺れた。
(え……?)
見上げるとジルが、どこか苦しそうに視線を背けている。
ジル「……帰りましょうか」
「ジル?」
私の手を引き、ジルは高台を足早に後にした。
手綱を引くジルの前に座り、私は馬の背に揺られていた。
「ジル、疲れましたか?」
(あんなに突然、帰ろうだなんて……)
振り返り仰ぎ見ると、ジルがふっと目を細める。
ジル「いいえ……」
「…………」
ジルの顔を見上げ、私は軽く首を傾げた。
(今日は、嘘をついていい日……)
(何が嘘で、何が本当なのか……わからなくなってしまったな)
すると気づいたジルが、くすっと笑みをこぼす。
ジル「心配しなくてもいいですよ、○○」
ジル「私はあなたに、嘘をついたことはありませんから」
ジルの言葉に、私は思わず顔を上げる。
ジル「あなたの前では何故だか、素直になってしまう自分がいます」
そしてちらりと私を見おろし、内緒話しをするように耳元に顔を寄せた。
ジル「先程も、疲れたのではなく……」
「……っ」
ささやかれた訳に、私はかあっと顔を赤くする。
(触れたくなったから、だなんて……)
私の素直な反応に満足したのか、ジルが真っ直ぐに前を向いた。
ジル「あのままでは、嘘ではまかり通らないことをしてしまいそうでしたからね」
ジルの言葉に、鼓動が高鳴っていくのがわかる。
耳元までをも赤く染めると、ジルがからかうように告げた。
ジル「あなたの耳は、嘘を見抜くカギですね」
ジル「すぐにわかります。何を考えているのか……」
ジルの吐息が、ふっと耳元に吹きかかる。
「ぁ……っ」
びくりと震え馬から落ちそうになった身体を、ジルが支えてくれた。
ジル「しっかりつかまっていてください」
「は、はい……」
(それが嘘でも本当でも、ジルには翻弄されっぱなしだな……)
そうして私はジルと共に、夕日の差し始めた森を通り抜けていった…。
そして城下から部屋に戻ると、私は部屋で息をついていた。
「…………」
(ジルには、あんなことを言ったのに……)
私は昼間の出来事を思い出す。
―「ジル、嘘に翻弄されないようにしてくださいね」―
―ジル「その言葉、あなたにそのままお返ししますよ」―
(ジルの言う通り、結局翻弄されたのは私だった)
そうして考えていると、部屋のドアが叩かれた。
ユーリ「お帰りなさい、○○様。休日は満喫した?」
「ユーリ、ただいま……」
するとその後ろから、レオも顔を出す。
レオ「ちょうどお茶を出すって聞いたから、付いてきたんだよ」
そうして私はユーリに用意してもらい、レオとお茶を飲むことになった。
レオ「今日は『嘘つきの日』なんでしょ?城下には面白い風習があるね……」
ユーリ「レオ様にはぴったりなんじゃないかな」
レオ「さあ、どうかな」
二人の話を楽しく利いていると、やがて視線が向けられたことに気づく。
(え……?)
戸惑いに目を瞬かせると、レオが訊いた。
レオ「で、ジルはどうだったの?」
レオの言葉に戸惑い、私は軽く首を傾げる。
「どうって……」
ユーリ「ジル様って、嘘とか通じなさそうだよね」
レオ「そうそう。冗談言っても、笑わないしねー」
レオとユーリの言葉に、私は思い出していく。
―ジル「あなたの耳は、嘘を見抜くカギですね」―
―ジル「すぐにわかります。感じているのか、どうか……」―
(確かに、ジルには嘘は通用しないみたい)
顔を赤く染めると、レオがにやりと笑みを浮かべた。
レオ「ねえ、○○ちゃん。ジルに嘘、ついてみたくない?」
「……え?」
そしてレオとユーリが部屋を去ると、私はベッドに横になっていた。
―ユーリ「じゃあ、この絵本を使うっていうのはどうかな?」―
―レオ「いいね。じゃあ俺たちはジルを呼んで来るから、」―
―レオ「○○ちゃんは……」―
やがて耳に、静にドアが開く音が響いてくる。
その響きと共に、鼓動が高鳴っていくのがわかった。
ジル「○○……?」
眠る私の名前を呼び、ジルが髪飾りに触れる。
そして…―。
ジルが私の髪を撫で、顔を覗きこむ気配がする。
(でも、起きちゃだめなんだよね)
私は目を瞑り静かに息をつきながら、レオの言葉を思い出す。
―レオ「○○ちゃんは、ただ眠っていてね」―
―レオ「ジルには「○○ちゃんが目を覚まさない」って嘘ついてくるから」―
ジルの指先がゆっくりと、髪をすいていく。
ジル「○○、目を開けてください」
「…………」
ジルの言葉にも反応を返さず、だまっていると…。
ジル「…………」
ベッドが軋み、私の枕元がわずかに沈む。
(え……?)
何が起こったのかもわからずにいると、唇に柔らかな感触が触れた。
「……っ」
触れるだけのキスが離れると、ジルの親指が私の下唇を開き、
再び包み込むようなキスを落とす。
そうして、油断していた私の舌を絡め取っていった。
「んぅ………」
吐息が混じり合い、次第に熱を帯びていく。
ようやく唇が離れると、私は静かにまぶたを開いていった。
すると目の前には、笑みを浮かべるジルの姿がある。
ジル「お目覚めですか?プリンセス」
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