部屋に入ると、私は約束通り子どもたちに絵本を読んであげていた。
そして、日も暮れた頃…―。
子ども「さようなら」
「うん、またね」
子どもたちを見送ると、私は部屋の中で一人ため息をつく。
「…………」
(アラン、どこに行ってしまったんだろう……)
姿が見えないアランを思うと、小さな不安がつのっていった。
(まさか……)
様々な想像がよぎり、それを振り切るように首を横に振る。
(やっぱり、探しにいこう)
(もしかしたら、道に迷ってるのかもしれないし……)
椅子にかかっていた上着を手に取り、私は急いでドアを開けた。
すると、その瞬間…―。
アラン「……!」
「……っ」
目の前に立つアランの姿に、私は目を瞬かせる。
(アラン……)
やがてアランが、呟くように言った。
アラン「お前、こんな夜にどこに行く気だよ」
「これは……」
上着に寄せられた視線に気づき、私は慌てて口を開く。
「アランを、探しに行こうとして……」
アラン「…………」
沈黙が流れ、私の短いため息だけが響いていった。
やがてアランの唇が、何かを言おうとわずかに開かれた時…。
(え……?)
アランがぴくりと眉を上げ、振り返る。
アラン「…………」
そこには、見知らぬ男の人の姿があった。
男「あれ……もしかして、プリンセスじゃないか?」
「……っ」
(ジルに、私がここにいることは内密にするよう言われたのに)
(どうしよう……)
アラン「…………」
じろじろと私を見るその視線からかばうように、アランが立つ。
アラン「何か」
アランの視線に怯んだのか、わずかに顔をゆがめながら男の人が訊いた。
男「まさか、恋人じゃないだろうね……?」
その言葉に、鼓動がドキンと跳ねる。
「…………」
(兄妹だなんて言ったら、またアランに……)
考えていると、ため息をつくアランが口を開いた。
アラン「兄ですけど」
男「ああ、なるほど……」
納得したようにうなずく男の人が、にやりとした笑みを浮かべ告げる。
男「大丈夫。プリンセスがここに来ていることは、誰にも言わないからね」
部屋の中に戻ると、むっと顔をしかめたアランが大きくため息をついた。
「アラン、ごめんね」
(結局アランに、嘘を言わせちゃった……)
アラン「別に……」
すると視線を降ろしたアランの指先が、私の手の甲に触れた…。
「……っ」
アランの指先が、かくように私の手の甲に触れている。
ゆっくりと動くその仕草に、私はびくりと肩を揺らした。
(アラン……?)
頬を火照らせたままその顔を窺うと、目が合う。
アラン「…………」
「あ……」
思わず声をこぼすと、アランの指が離れていった。
アラン「……兄妹に触られたくらいで、そんな顔すんなよ///」
アランこそ( ̄▽ ̄)w
それだけ告げると、すれ違うように部屋の奥へと去っていってしまう。
「あの、アラン……?」
慌てて振り返り呼びとめると、アランがわずかに顔を向けた。
アラン「明日も、ここで大人しくしとけよ」
「え……でも」
視線を向けると、アランが言う。
アラン「……俺がいないほうが、お前もやりやすいだろ」
「…………」
(もしかしてアラン、気を遣ってくれたのかな……)
思わず目を瞬かせると、アランが少し照れたように顔を背ける。
アラン「俺がいない間……知らないやつが来ても、絶対に開けんな///」
「……う、うん」
それだけ告げ去っていく背中に、私は息をついた…。
そして、翌日…―。
子ども「今度はおやつを持って、また遊びに来るね」
「うん、楽しみにしてる」
子どもたちを見送りドアを閉めた瞬間、声をかけられる。
男「プリンセス」
「え……?」
外から聞こえてくる昨夜の男の人の声に、私は眉を寄せた。
男「さっきの子どもから、これを預かりましたよ……」
「え……?」
疑わしく思いながらも、私はそっとドアを開ける。
するとその隙間から、カゴを差し出された。
(これって……)
ドアの隙間から差し出されたカゴの中身を見ると、
そこには真っ赤に色づいたリンゴが入っている。
男「一口食べてみてください。彼らが感想を聞きたがっていますよ」
(おやつを持ってまた来ると言っていたし)
(……もしかして、子どももそこにいるのかな)
ドアを開こうとするものの、アランの言葉が脳裏をよぎる。
―アラン「知らないやつが来ても、絶対に開けんな」―
「……わかりました」
私はドアの隙間をわずかに開けたまま、リンゴを手に取った。
(一口食べて感想を言ったら、この人にはかえって頂こう……)
そうして、一口かじりつくと…。
「……っ」
(なにこれ、身体が痺れて……)
力が抜け床に座り込むと、ドアがゆっくりと開いていく。
男「お前さえ自分のものにすれば、国が手に入るんだろう」
向けられる嫌な視線に、私は痺れて言うことのきかない唇を小さく開いた。
「……あなたの、勝手になんか…」
そうして睨みつけると、男の人が屈みこみ私のネックレスを引っ張った。
男「そんなこと言っていられるのも……」
???「おい」
言いかけた男の人の身体が、途端に離れていく。
(あ……)
閉じそうになるまぶたを開けると、そこには…。
アラン「勝手に触んじゃねえよ」
アランが男の人の首元を掴み、私の身体から無理やり引き離す。
男「……なっ」
怯えたような男の人が、アランを見上げて声をあげた。
男「な、なんだ……お前のもののように言うな」
男「ただの兄妹だろうが」
アラン「…………」
アランが目を細めた直後、私は意識が薄れていくのを感じた。
アラン「俺は、こいつの……」
(アラン……)
手のひらからリンゴがこぼれ落ち、アランの言葉の続きは耳に届かない。
「……っ」
私はゆっくりと、意識を手放してしまった…。
アラン「……!」
倒れた男を踏みこえて、アランが○○の元へと駆け寄る。
アラン「おい……しっかりしろ」
眉を寄せ、アランが近くに転がるリンゴを拾いあげた。
それは、アランをよく知る薬品のにおいだった。
アラン「…………」
ぐったりとする○○の身体を抱き上げ、アランが声をかける。
アラン「……世話ばっか、かけさせやがって」
言葉とは裏腹に青ざめた顔のまま、ベッドにその身体を運んでいった…。