書斎のドアが叩かれ、私は本を手にしたまま振り返った。
(誰だろう……?)
静かにドアが開くと、そこにはアランの姿がある。
アラン「……何やってんだ、お前。ジルが探してたけど、いいのかよ」
「あ……」
(そうだった……急がなくっちゃ)
昼過ぎに呼び出されていたことを思い出し、私は本を手にとり口を開いた。
「ありがとう、アラン」
廊下を急ぎ歩いていると、少し後ろを歩くアランが尋ねる。
アラン「それ、どうすんだ?」
(え……?)
絵本に視線が向いていることに気づき、私はアランを見上げた。
「今度お休みをもらえたら、城下の子どもたちのところに行きたくて……」
「その時、この絵本を読んであげたいの」
アラン「…………」
すると私の話をきき、アランがどこか不機嫌そうに眉を寄せる。
アラン「へえ、子どもたちね……」
ヤキモチ妬きめ( ´艸`)
「……?」
(アラン……?)
アランの様子に気づき、声をかけようとした時…。
ユーリ「あ。いたいた、○○様」
迎えにきてくれたユーリが、廊下の先で手を振っていた。
アラン「……じゃあな」
(あ……)
引きとめる間もなく、アランは背を向け去ってしまう。
(……後で、また話しをしにいこうかな)
私は考えると、ユーリの元へと急いだ。
ジルに呼び出され公務に戻った私は、山と積まれた書類に目を通していく。
ジル「…………」
やがて書類を確認したジルが、どこか頬を綻ばせて言った。
ジル「これが終われば、休暇を取れますよ」
「えっ……」
三日間の休日を取ることが出来るというジルの言葉に、私は顔を上げる。
(じゃあ、城下に行けるんだ……)
嬉しく思っていると、ジルが目を細め釘をさすように告げた。
ジル「ただし、内密に。護衛もつけさせて頂きます」
「護衛……?」
(それって、もしかして……)
そして夕方過ぎ、私は厩舎へと急いでいた。
「アラン……!一緒に行ってくれるって、本当?」
厩舎で馬の背にブラシをかけていたアランが振り返り、
わずかに眉を寄せて、息をつく。
アラン「……ジルが言ったなら、そうなんじゃねえの」
「……ありがとう」
(城下に行くこともそうだけど……アランと過ごせるなんて嬉しいな)
アラン「…………」
やがて私は、じっと見おろすアランの視線に気づいた…。
アランの視線に気づき、私は顔を上げた。
「どうしたの?」
アラン「……別に」
顔を背けるアランに、私は小さく首を傾げる。
「ア……」
さらに尋ねようと口を開くと、アランにブラシを差し出された。
アラン「来たんなら、お前もやれよ」
「う、うん……」
それ以上は訊けないまま、私は馬の世話を手伝うことになった。
ブラッシングを終え外に出ると、
少し肌寒い春の夜風が、頬を撫でていった。
(風が、気持ちいいな……)
考えながら見上げると、アランも気持ち良さそうに目を細めている。
「…………」
(こういう時間、好きだな……)
アランと過ごす時間は言葉がなくとも、どこか甘く感じられた。
やがて風が強めに吹きぬけ、髪を揺らす。
「アラン、髪が……」
アラン「…………」
思わず少し乱れたアランの髪に手を伸ばすと…。
「……っ」
その手首を、パシッと音をたてるようにして取られた。
(……アラン?)
その顔を窺うと、むっとわずかに顔をしかめたアランが言う。
アラン「……俺は、ガキとは違うんだけど」
「え……?」
(どういうこと……?)
掴んでいた私の手を離すと、アランが首を振り、乱れた髪を直す。
アラン「……早く戻れよ」
それだけを告げると、アランは背を向け去ってしまった。
小さくなるその後ろ姿を見送りながら、私は目を瞬かせる。
(……どうして、怒っているんだろう…)
そして翌日、私はアランと共に城下を訪れた。
「…………」
アラン「…………」
黙ったままのアランに、私は尋ねる。
「アラン、あの……」
するとその時、道の先から見知った子どもたちが駆け寄ってきた。
「あ……」
途端に子どもたちに囲まれ、私はアランと離れてしまう。
アランは少し離れた場所から、私と子どもたちの様子を見守っていた。
子ども「先生、久しぶりー!」
子どもたちの笑顔を見るだけで、私も自然と笑みが浮かんでしまう。
(やっぱり、来ることが出来て良かった……)
考えていると不意に、子どもの一人がアランに目をとめた。
子ども「あの人、誰ー?」
「え?えっと……」
私はちらりとアランを見上げ、眉を寄せた。
(護衛だって言っても、わからないだろうし……)
(恋人だなんて、言えないよね)
アラン「…………」
考えた末に、私は口を開く。
「この人は、私の……」
アランをちらりと見上げ、私は子どもたちに告げた。
(恋人とも、護衛だともいえないとしたら……)
「お……お兄さん、だよ」
なんて嘘だwwww
子ども「へえー」
(嘘を、ついちゃった……)
とっさに口をついて出た嘘に、私は慌ててアランの顔を窺う。
アラン「…………」
するとアランは案の定、不機嫌そうに眉を寄せていた。
アラン「兄貴、ねえ……」
そうして大きくため息をつくと、私の手に荷物を渡す。
「あの……どこにいくの?」
アラン「……どこでもいいだろ」
視線をそらし、アランが私の家の中へと入っていってしまう。
「アラン……っ…」
私の呼び声もむなしくアランの姿は遠ざかっていってしまう。
すると子どもたちが、心配そうに私の顔を覗きこんだ。
子ども「あれ、行っちゃったよー?」
「うん……」
私は子どもたちに笑みを見せながらも、ため息をつく。
「大丈夫だよ。行こうか」
子どもたちを部屋の中に入るよう促しながらも、
私の胸はアランのことでいっぱいになっていた。
(どうしよう……アラン、やっぱり怒ったよね…)
むふふ、アラン面白いγ(▽´ )ツヾ( `▽)ゞ