???「……○○」
低くどこか掠れた声で名前を呼ばれ、私は振り返る。
そこには、ルイの姿があった。
「ルイ、何でここに……」
ルイ「……それは、俺の台詞」
近づいてきたルイが、目の前で私を見おろす。
ルイ「こんなところで、何してるの?」
「あの……」
ルイの視線が、手の中のかごへと落ちていた。
(嘘は、つけないかも……)
私はため息をつき、ルイを見上げて口を開く。
「晩餐会にお花をと思って、摘んでいたの」
するとルイが目を細め、呟くように言った。
ルイ「……メイドに頼んだらいいのに」
「ううん、私が思いついたことだから……」
静かに首を横に振ると、ルイが唇を軽く結ぶ。
ルイ「…………」
短い沈黙が流れると、やがて私の手を取りルイが背を向けた。
ルイ「帰ろう」
「う、うん……」
ルイの手を握り返し、私もその手に引かれるようにして歩きだす。
(もしかして、私の居場所を聞いて迎えに来てくれたのかな……)
ルイ「…………」
そのうちに、ルイがぴたりと足を止めた。
(え……?)
顔を上げると、ルイの視線がゆっくりと降りてくる。
ルイ「ねえ……何か、隠してる?」
「え……」
真っ直ぐに見おろすルイの視線に、私は息を呑む。
(私が今考えていることを、ルイに話すわけにはいかないし……)
「……何も、隠してないよ」
ルイ「…………」
繋いだ手に力を込め、ルイが私の顔を覗きこんだ。
ルイ「……俺の目を見て、言って?」
「……っ」
ルイの目に見つめられ、私の息が止まる。
鼓動が跳ね、耳の奥に低い音を響かせていった。
「私は、ただ……」
(ただ、ルイに笑ってほしいだけ)
「お花を飾りたい、だけだよ」
それだけを告げると、ルイの目を見つめ返す。
ルイ「…………」
ルイは何も言わないまま身体を起こし、私の手を引いて歩き始めた。
再びその手に引かれながら、私はルイを見上げて思う。
(少しでも、ルイの心が癒されるように……)
そして晩餐会は、静かに始まった。
ルイ「…………」
誰も口を開かないまま、食器がたてる小さな金属音だけが響いている。
「…………」
そんな中、私は花の入ったカゴを持って立ち上がる。
(……っ)
ルイや給仕をするメイドさんたちの視線が、私に集まるのを感じた…。
静寂に包まれる晩餐会に、私がたてた椅子の音だけが響く。
「あの、ルイ様……これを」
ルイ「…………」
私は歩みより、ルイに花束を手渡した。
「お食事中にすみません。でも、今しか時間がないと思って…」
ルイ「…………」
何も言わないルイに笑みを向け、
私はそれからメイドさんたちの方へと向き直る。
「みなさんにも、これを……」
私はメイドさんや使用人の方たちのポケットに、
一輪ずつ花を挿していった。
やがて全てを配り終えると、
椅子に腰かけたまま私の行動を見守っていた、ジルが怪訝そうに尋ねる。
ジル「……プリンセス、一体なにを始めたのですか?」
その言葉に振り返り、私は言った。
「みんなでお揃い、です」
ジル「……はあ」
ジルが呟くと、どこからかふっと吹きだすような笑い声が聞こえてくる。
(あ……)
その響きに、私の胸がぎゅっとなった。
慌てて視線を向けると、そこには笑みを浮かべるルイの姿がある。
ルイ「……プリンセスには、敵わない///」
ルイの小さな呟きが、静かなだけだった部屋に響いていった…。
ルイが見せた笑みに、その場の冷え切っていた空気が溶けていくのがわかる。
「……っ」
(良かった……)
私は息を吸いこみ、笑みを返した。
(何かが変わったわけじゃない。でも、少しだけ……)
メイドさんたちの表情もわずかに、ほころんで見えるような気がした…。
そして、その夜…―。
私は部屋で、持ってきていたあの絵本を開いていた。
「…………」
ページを開くと、私は小さく息をつく。
(何だかルイって、この中の王子様に似てる)
(孤独で、少し怖くて……)
閉じた窓を、春の少し強い夜風が叩いている。
私の脳裏には、ルイの笑みが浮んできた。
(でも……本当は、すごく優しい)
すると、その時…―。
(え……?)
静かにドアが叩かれ、部屋にルイが現れる。
ルイ「○○……?」
「…………」
本物のルイの姿にわずかに驚き、私は目を瞬かせた。
(想っていたら本当に来てくれただなんて……何だか、嘘みたい)
静かにドアを閉めたルイが、顔を上げ私を呼ぶ。
ルイ「……どうしたの?」
その目に、声に、私の胸がぎゅっと掴まれてしまう。
「……っ」
(それに、こんなにも綺麗……)
近づくルイを見上げるまま、私は思わず手を伸ばしていた。
指先が、ルイの服に触れる。
ルイ「…………」
するとルイの視線が、わずかにうつむき指先に落ちた。
その瞬間に、私ははっと我に返る。
「あっ……ごめん」
(何やってんだろう、私……)
自分の行動を思い出し、私はかあっと頬を赤く染めた。
(ルイに、触れたいと思うなんて……)
ルイ「…………///」
ルイが黙ったまま、離れた私の手を取る。
(あ……)
そのまま私の手の甲に、唇を寄せた。
ルイ「……いいよ、触っても」
ルイが伏せていたまつ毛を上げ、私を見る。
「……っ」
ルイ「○○なら、好きなだけ……///」
ルイの言葉に、鼓動が絶え間なく跳ねていた。
(ルイ……)
ルイの指から力が抜け、私の手が自由になる。
「…………」
私はその手をそっと上げて、ルイの頬に触れた。
つくりもののように綺麗なその顔に、視線を寄せる。
(綺麗……だけど、感情がないつくりものとは違う)
(だって、ルイは……)
ルイ「ねえ」
突然響いたルイの声に驚き、私はびくりと肩を揺らす。
思わず話そうとした手を、再び取られた。
(……っ)
ルイ「うそ、ついたでしょ……」
分岐:
彼が甘い嘘をつく…? →プレミア
アナタが嘘をつく…? →スイート